GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略

二上たいら

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第1章 神は死んだ。十年前に。

第12話 仕事を紹介してもらおう

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 小さく控えめなノックの音がして僕は目覚めた。
 部屋は薄暗く、窓から漏れる光は弱々しい。
 筋肉痛を訴える体を無理矢理起こして窓を押し開けると、暁に染まる空が見えた。

「ひーくん、起きてー」

 メルの声だ。
 こんな早朝から何の用だろう。
 僕は昨晩のことを思い出して、気恥ずかしくなった。
 小さな子どもみたいにあやされて寝入ってしまったから、どんな顔をすればいいのかわからない。

「楽しいランニングの時間だよー」

「ひぃっ」

 思わず悲鳴が口から漏れた。
 体中は筋肉痛で、特に足のそれが酷い。

「起きてるねー。はーやーくーあーけーてー」

 声は静かに抑えられているが、圧が凄い。
 正直なところ横になっていたいが、そうすると後が怖そうだ。
 僕はよろよろと起き出して、扉の鍵を開けた。

 メルは腰に両手を当てて、ぷぅと頬を膨らませている。

「おっそーい」

 どうやら昨夜のことはなかったことにしてくれるみたいだ。
 ありがたく僕もなかったことにして返事をする。

「まだ太陽も昇っていないよ」

「暑くなる前に走っておくんだよ」

「暑くても走らせるくせに」

「小銭と鍵と滞在許可証だけ持っていく。はい。しゅっぱーつ」

 僕の文句を完全に無視して、メルは僕を急かす。

 早朝のアーリアは当然ながら人影は少ない。
 広々とした目抜き通りを僕らは並んで走る。
 昨日のように背中を押してくるわけではないようだ。
 そうされたら転ぶ自信があったけれど。

「この辺りは職人街だね。表通りは商店だけど、裏に入ると職人たちの工房が建ち並んでるよ」

 筋肉痛で足をもつれさせながらも必死に走る僕と同じペースで走りながら、メルは町の案内ができるほどに余裕だ。
 レベルの恩恵という部分もあるだろうが、単純に走り慣れているという気がする。

「メルは、毎日、走って、るの?」

「雨の日以外はね。冒険者は体が一番の基本だから、ちゃんと鍛えておかないと」

 流石、本職を目指す人は意識が違う。

 その時、遠くから鐘の音が聞こえてきた。
 それに呼応するように町のあちこちから鐘が鳴らされる。

「これは?」

「朝を知らせる鐘だよ。市場には間に合わなかったかぁ」

 それからちょっとして僕らはアーリアの町の市場に辿り着いた。
 まだ太陽が昇ったばかりの時間だというのに、多くの人が買い物に興じている。

「ここで朝ご飯にしよ」

 メルに促されるまま屋台のひとつに並び、銅貨3枚を支払ってナンのようなものに野菜とハムとチーズを挟んだものを購入する。
 サンドイッチのようなものだろう。
 一口囓ると、日本の食パンに挟んだサンドイッチとは食感がかなり異なるが、食べられないということはない。

「んー、今日も美味しい」

 メルは満足げだから、これがこちらでの美味しいの基準なんだろう。
 昨日の夕食が美味しく感じられたのは空腹のお陰だったのかもしれない。

 オレンジのような果実を搾ったジュースが銅貨2枚。
 結局朝食でも銅貨5枚を使った計算になる。

「ねえ、メル。今日は酒場の仕事は?」

「あるよ。だからひーくんにも仕事を紹介しようと思います」

「それは酒場で?」

「ううん。ひーくんの場合、体を鍛えられるところで働いたほうが身になるよ」

 メルはにっこりと笑ったが、僕はまだ体を酷使するのかと愕然とした。
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