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横川ガード下探偵団 結成篇 9 ~あの夏、僕らは名前をつけた~
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第9章「本の行方」
翌朝、ショウタは一人で横川駅の近くにいた。
手には地図を持っていた。昨日の地図ではなく、父にもらった古い地図だ。日本に来る前に父が「横川の地図があった、昔使ってたやつだ」と言って渡してくれた。昭和の末頃の地図で、今とは道の形が少し違う。
地図に、丸が一つついていた。父が鉛筆でつけたものだ。「ここらにいた」と言って。
その場所を現在の地図と照らし合わせると、大まかな位置は今の横川駅の北側あたりになる。でも具体的にどこなのか、歩いても分からなかった。今は建物が変わっていたり、道が広くなっていたりするから。
「ショウタ!」
声がした。ケンジが走ってきた。後ろにテツが自転車で来た。
「今朝早いね」とショウタは言った。
「テツから昨日の話を聞いて、すぐに連絡した」とケンジは言った。「父さんが昔ガード下にいたって話」
「テツの父さんが?」
「うん。もしかして、ショウタの父さんと同じ時代にいたかもしれない」
ショウタは地図を見た。丸のついた場所。現在の地図と照らし合わせると——
「ここかも」とショウタは言った。ゆっくりと地図を広げた。「父が丸をつけた場所と、ガード下の位置が大体合う」
「じゃあ、ショウタの父さんが探してた場所って」
「ガード下だったかもしれない」
三人が顔を見合わせた。
「父さんに電話して聞いてみる?」とケンジが言った。
「後で」とショウタは言った。「今は、本の方を片付けてから」
「本は昨日ナツが持って帰ったんでしょ。今日、浜田さんに返すんだよね」
「それが——」
全員が集まったのは午前九時過ぎだった。
ガード下に五人と、ナツが来た。ナツは「横川ものがたり」を持っていた。
「読んだ?」とミクが聞いた。
「読んだ。全部」とナツは言った。
「どうだった?」
ナツは少しの間考えた。「おじいちゃんの声がした気がした」と言った。「実際に聞いたことある声じゃないけど、でも文章を読んでると、こういう声で話す人だろうなって分かる感じがした」
「良かった」とミクが言った。
「うん。良かった」ナツは本を見た。「この本、本当に大事な本だね。おじいちゃんが横川で過ごした時間が全部入ってる」
「浜田さんの言葉」とショウタが言った。
「うん、そういうことだと思った」
その時、ショウタが「少し、気づいたことがある」と言った。
「何を?」と全員が聞いた。
「この事件の最初から整理すると」ショウタはゆっくりと話し始めた。「本がなくなったことで、みんながここに集まった。ナツが本を持っていたことが分かって、浜田さんの話を聞いて、岡本シンジさんとの関係が分かった。それが一連の流れだ」
「そうだけど」とケンジが言った。
「でも、最初から気になってたことがある」とショウタは言った。「勇造さんがミクに『声をかけてきてくれないか』と言った時、どうして勇造さんはガード下に俺がいることを知ってたんだろう」
全員が少し黙った。
「どういうこと?」とユイが言った。
「勇造さんが声をかけてきて、と言ったのは、俺がガード下にいた時だよね。でも勇造さんがいるのは、のぐちの縁側だ。ガード下は直接見えない場所にある」
「誰かから聞いたのかも」とケンジが言った。
「誰から?」
「商店街には目撃者がいっぱい」とミクが言った。でも少し言いよどんだ。「確かに、じいちゃんがどうやって知ったかは……」
「もう一個」とショウタは続けた。「テツが今日の朝に言ってたことだけど。テツに商店街の裏を見てきてほしいと勇造さんが頼んだ。その時、テツはちょうど裏の路地を走ろうとしていた。どうして勇造さんは、テツがそこを走ることを知っていたんだろう」
「……毎日走ってるから」とテツが言った。「勇造さんは知ってたかもしれない」
「可能性はある。でも、ちょうどいいタイミングで頼んでる」
ミクが「じいちゃんに聞いてみる?」と言った。しかし声が少し弱かった。じいちゃんが何かを仕掛けているかもしれないという可能性を、ミクも感じていたのかもしれない。
「今日はまず」とショウタは言った。「浜田さんに本を返して、それから勇造さんに話を聞こう」
浜田書房へ行った後、ショウタは一人で少し残って浜田と話した。
他のメンバーが外に出た隙に、ショウタはカウンターに近づいた。
「一つ聞いてもいいですか」
「何だ」
「この本の存在を、勇造さんは知ってましたか」
浜田は少し間を置いた。「知っていたかもしれない。シンジがここにいた頃、勇造も商店街の人間だったから。シンジのことを知っていても不思議はない」
「もし勇造さんが、本のことを知っていて、ナツがここに来ることを知っていたとしたら」とショウタは言った。「今回のことが、最初から計算だった可能性はありますか」
浜田は眼鏡を外して、レンズを拭いた。
「勇造は」と彼は言った。「昔から、そういうことをする人間だよ」
「そういうこと、というのは?」
「人を動かすのが上手い。直接言わずに、状況を作って、人が自然に動くようにする。本人は『ただ縁側でお茶を飲んでただけ』という顔をするが」
ショウタはそれを聞いて「そうか」と思った。
「分かりました」とショウタは言った。「ありがとうございます」
つづく
翌朝、ショウタは一人で横川駅の近くにいた。
手には地図を持っていた。昨日の地図ではなく、父にもらった古い地図だ。日本に来る前に父が「横川の地図があった、昔使ってたやつだ」と言って渡してくれた。昭和の末頃の地図で、今とは道の形が少し違う。
地図に、丸が一つついていた。父が鉛筆でつけたものだ。「ここらにいた」と言って。
その場所を現在の地図と照らし合わせると、大まかな位置は今の横川駅の北側あたりになる。でも具体的にどこなのか、歩いても分からなかった。今は建物が変わっていたり、道が広くなっていたりするから。
「ショウタ!」
声がした。ケンジが走ってきた。後ろにテツが自転車で来た。
「今朝早いね」とショウタは言った。
「テツから昨日の話を聞いて、すぐに連絡した」とケンジは言った。「父さんが昔ガード下にいたって話」
「テツの父さんが?」
「うん。もしかして、ショウタの父さんと同じ時代にいたかもしれない」
ショウタは地図を見た。丸のついた場所。現在の地図と照らし合わせると——
「ここかも」とショウタは言った。ゆっくりと地図を広げた。「父が丸をつけた場所と、ガード下の位置が大体合う」
「じゃあ、ショウタの父さんが探してた場所って」
「ガード下だったかもしれない」
三人が顔を見合わせた。
「父さんに電話して聞いてみる?」とケンジが言った。
「後で」とショウタは言った。「今は、本の方を片付けてから」
「本は昨日ナツが持って帰ったんでしょ。今日、浜田さんに返すんだよね」
「それが——」
全員が集まったのは午前九時過ぎだった。
ガード下に五人と、ナツが来た。ナツは「横川ものがたり」を持っていた。
「読んだ?」とミクが聞いた。
「読んだ。全部」とナツは言った。
「どうだった?」
ナツは少しの間考えた。「おじいちゃんの声がした気がした」と言った。「実際に聞いたことある声じゃないけど、でも文章を読んでると、こういう声で話す人だろうなって分かる感じがした」
「良かった」とミクが言った。
「うん。良かった」ナツは本を見た。「この本、本当に大事な本だね。おじいちゃんが横川で過ごした時間が全部入ってる」
「浜田さんの言葉」とショウタが言った。
「うん、そういうことだと思った」
その時、ショウタが「少し、気づいたことがある」と言った。
「何を?」と全員が聞いた。
「この事件の最初から整理すると」ショウタはゆっくりと話し始めた。「本がなくなったことで、みんながここに集まった。ナツが本を持っていたことが分かって、浜田さんの話を聞いて、岡本シンジさんとの関係が分かった。それが一連の流れだ」
「そうだけど」とケンジが言った。
「でも、最初から気になってたことがある」とショウタは言った。「勇造さんがミクに『声をかけてきてくれないか』と言った時、どうして勇造さんはガード下に俺がいることを知ってたんだろう」
全員が少し黙った。
「どういうこと?」とユイが言った。
「勇造さんが声をかけてきて、と言ったのは、俺がガード下にいた時だよね。でも勇造さんがいるのは、のぐちの縁側だ。ガード下は直接見えない場所にある」
「誰かから聞いたのかも」とケンジが言った。
「誰から?」
「商店街には目撃者がいっぱい」とミクが言った。でも少し言いよどんだ。「確かに、じいちゃんがどうやって知ったかは……」
「もう一個」とショウタは続けた。「テツが今日の朝に言ってたことだけど。テツに商店街の裏を見てきてほしいと勇造さんが頼んだ。その時、テツはちょうど裏の路地を走ろうとしていた。どうして勇造さんは、テツがそこを走ることを知っていたんだろう」
「……毎日走ってるから」とテツが言った。「勇造さんは知ってたかもしれない」
「可能性はある。でも、ちょうどいいタイミングで頼んでる」
ミクが「じいちゃんに聞いてみる?」と言った。しかし声が少し弱かった。じいちゃんが何かを仕掛けているかもしれないという可能性を、ミクも感じていたのかもしれない。
「今日はまず」とショウタは言った。「浜田さんに本を返して、それから勇造さんに話を聞こう」
浜田書房へ行った後、ショウタは一人で少し残って浜田と話した。
他のメンバーが外に出た隙に、ショウタはカウンターに近づいた。
「一つ聞いてもいいですか」
「何だ」
「この本の存在を、勇造さんは知ってましたか」
浜田は少し間を置いた。「知っていたかもしれない。シンジがここにいた頃、勇造も商店街の人間だったから。シンジのことを知っていても不思議はない」
「もし勇造さんが、本のことを知っていて、ナツがここに来ることを知っていたとしたら」とショウタは言った。「今回のことが、最初から計算だった可能性はありますか」
浜田は眼鏡を外して、レンズを拭いた。
「勇造は」と彼は言った。「昔から、そういうことをする人間だよ」
「そういうこと、というのは?」
「人を動かすのが上手い。直接言わずに、状況を作って、人が自然に動くようにする。本人は『ただ縁側でお茶を飲んでただけ』という顔をするが」
ショウタはそれを聞いて「そうか」と思った。
「分かりました」とショウタは言った。「ありがとうございます」
つづく
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