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それは、いつもと同じで
しおりを挟む私とあの子の、不思議な関係は結構簡単に途切れる。
あの子の学校がお休みに入ったり、私の勤務時間が変わったり。変わらなくても、私が乗る電車の時間を変えてしまえば。
だって、朝の電車内だけの、知り合いだから。
それは簡単に無くしてしまえる、そういられる様にしている自分は、どうしたいのか。
・・・そんな事には、気付きたくない。
「あー年末年始の電車って、快適なのが良いけど・・・空しい」
今年も残り数時間。職場での年越しでは無いけど、明日も通常勤務なのがまた何だかってところだ。
取り敢えず今日は帰ったら、ちょっと豪華なつまみとアルコールが待ってる。
それだけでも、楽しみで気分が上がる自分が少しかわいそうだけど、今日はゆっくりお疲れ様会をするんだ。
珍しく定時上がりだし、まだまだ明日の出勤まで時間がある。今日と明日の為にお取り寄せしたアレコレを、どうやって楽しもうかぼんやり考えて電車時間を過ごしていた。
「里奈、さん・・・?」
何処か焦った様な安堵した様な・・・嬉しそうな声。反射的にそちらを向けば、あの子が。始めて見る、学生服じゃない天宮くんが、何とも云えない表情で座席に座る私の前に立っていた。
普通に少しびっくりして、普通に返事をする。
「あれ、天宮くん?朝の電車以外で初めて会ったね」
思った事が、そのまま口から出ただけ。それだけの言葉に返ってきたのは、気持ちが良いくらいの笑顔とある意味ストレートな言葉だった。
「はい、初めて会えました。・・・逢いたかったです、里奈さん」
それを聞いたら、どんな顔をしたら良いのか分からなくなった私は、どんな表情をしていたのか分からないけど。
そして今、何をどうするのかさえ、どうにもならなくなってるけど。
・・・・私は悪くないと、思う。
だって、そんな笑顔のまま。
天宮くんは私の隣にどさりと腰かけると、その少しごつごつした手で私の手をぎゅって握ってきて。
あんまり冷えた彼の手に。何の前触れもなく捕まえる様に握られた手に、驚いて思わず自分の手を引こうとした動きすら、その手に抑えられて。
さっきまで頭の中にあった、ちょと侘しいこれからの楽しみすら吹き飛んでしまった。
電車の走行音すら聞こえない、キーンて耳鳴り聞こえるくらいの、どうしたらいいのかわからない今。
間近で見上げる彼の表情は、いつもと同じ男の子の笑顔で。でも、この手を捕まえる彼の手は切羽詰まった切実な何かを訴えている様で。ちぐはぐなこれは、一体何なのか。
・・・ちぐはぐなハズなのに、いつもと同じだと、感じるのは何故なんだろう。
”次は・・・駅・・・”
次の駅を知らせるアナウンスに、やっと喉と口を動かす切っ掛けが出来たと声を出した、けど。
「えっと・・・天宮くん?」
出てきたのは、ただ小さく彼の名前を呼ぶだけの、小さな自分の声。
それは・・・それが、この状況を彼に委ねてしまう一言だと、自分に言い訳しながらのらりくらり躱してきた事を、それを表出することさえ委ねてしまったのだと、気付いたのは直ぐ後の事だった。
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