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アウロ・バッグスの憂鬱
来客対応頑張っています
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「エレナー!」
かわいい呼び声と共に派手に扉が開き、小動物部屋にキノが飛び込んで来ました。私を見つけると腰に手を当て、小さな体で胸を張って見せます。その姿に床を掃く手を止め、オルンモンキーのルンタと顔を見合わせ、笑顔を向けました。
純白の鎧に兜。兜からはやはり真っ白な鳥の羽が二本、左右についていました。腰に二本のナイフを装備して勇ましいというより綺麗で愛らしい姿を向けますが、如何せん小さな体でいきっている姿がなんともアンバランスで思わず噴き出してしまいました。
「かっこいいね。キルロさんに作って貰ったの?」
「フフン。そう」
得意満面な姿にまた可笑しさがこみ上げて来ます。私は近くでまじまじと改めて見ていきました。素人でも分かるくらい丁寧に作られていますね。キノにぴったり。材料余ったから作ったのかな?
私がナイフに触れようとすると、キノが止めに入りました。
「ダメ」
「もしかして本物?」
「そうよ。エレナ、危ないからダメ」
「何でキノがそんな危ない物持っているの?」
キノは不思議そうな表情で首を傾げて見せます。
「キルロ弱いから守るのよ」
「? どういう事? え? キノも冒険行くって事?」
「そうよ」
キノはそう言って、両手を構えて見せました。
ええええー!
「キノ、危ないよ。一緒に待ってようよ、ね」
キノはブンブンと首を横に振り、ルンタと追いかけっこを始めてしまいました。表情には余り出てないけどもの凄くやる気が伝わり、私は諦めの嘆息をします。キノってば頑固な所あるから、言い出したら聞かなかったに違いない。この時ばかりはキルロさんの心労を思いやりました。
◇◇◇◇
「よお! エレナ。副団長はいるか?」
「こんにちは、マッシュさん。受付にいると思うので声掛けて来ますね」
「悪いな。無理なら出直すから、スマンがまた声を掛けてくれ」
「分かりました」
マッシュ・クライカさん。
見た目は鋭い狼人さんですが、話すととても優しい方です。【スミテマアルバレギオ】の団員第一号でハルさんの話では、とても優秀な方だそうです。目の良い獣人さんのはずですが、何故か特注の眼鏡を掛けていました。いつかその理由を聞いてみたいと思っています。ハルさんとキルロさんのやり取りがどうやらツボらしくいつも大きな声で笑っている印象で、見た目の冷たいイメージとは随分と違う方なのだと、その姿から感じました。
「ハルさん、裏口にマッシュさんがいらっしゃっています。こちら代わりますよ」
「あ、ホント。悪いね。こちらの方に調教済動物の貸し出し。屋敷のネズミ捕りに猫を借りたいって、詳しく聞いてあげて」
「分かりました」
ハルさんはなぜかニヤリと笑うと、私の肩に手を置き、奥へと消えて行きました。
うん? 何でしょう? 今の意味深な笑顔。
ハルさんと入れ替わり、私は席に着きます。分かりましたと言っておきながら、接客は未だに慣れないのが本当の所です。
「よ、よ、ようこそ、ハルヲテイムへ。代わりに、ご、ご用件をお伺いします。お屋敷のネズミ⋯⋯」
「そうなのよ! こーんな大きなネズミが這っていて、夜になるとガサゴソ言うのよ。寝ている時に噛まれたら大変でしょう、痛いし。ねぇー本当に。使用人に捕まえるように言ったのにぜーっんぜん捕まえられないし、やっぱりあれかしら報奨金とか付けた方がいいかしら? どう思う? それで、夜寝られないでしょう、お肌も荒れちゃうし、お昼眠くて寝ちゃうし、もう本当に困っているのよ。本当よ。それで考えたのよ、そうだ! ネズミなら猫にお任せだってね。ねぇ、いいアイデアだと思わない? 凄くない? 冴えているわ、私。まあ、夜、目が冴えて眠れないのは困りものよね」
「⋯⋯な、なるほど⋯⋯ですね」
見た目通りに圧の凄いおばさま。私が呆気に取られていると、フィリシアが笑顔で親指を立てて見せました。ザ・他人ごとです。キルロさんの悪影響が垣間見えます。
夜眠れないのは昼間寝ているからですよとは言えませんね。へんに話しを始めるとエライ事になりそうなので、しっかりと考えてから話しをしましょう。
ネズミを捕まえるなら能動的な猫?
アウロさんがネズミを捕まえるのは、半分は捕食で半分は本能的な遊びだと教えてくれたのを思い出します。イスタルキャットはのんびりというか優雅だからダメそう。オルンカールかリンマフィン⋯⋯。
「リンマフィンの元気な仔がいます。遊び好きでいつまでも遊んでいる仔なので、ネズミを見たら捕まえるまで追い回すと思いますよ。いかがですか?」
「うんまぁ、良さそうね。その仔にしましょう。お手続きをお願いね」
「かしこまりました。準備致しますので、後ろでおかけになって、少々お待ち下さい」
良かった。捕まらずに済んだ。
裏手にまわりながらほっと息を撫で下ろし、リンマフィンの元気な男の子、ゴンをキャリーに誘導。受付に戻っておばさまと一緒に来ていた使用人らしき方に手渡しました。
かわいい呼び声と共に派手に扉が開き、小動物部屋にキノが飛び込んで来ました。私を見つけると腰に手を当て、小さな体で胸を張って見せます。その姿に床を掃く手を止め、オルンモンキーのルンタと顔を見合わせ、笑顔を向けました。
純白の鎧に兜。兜からはやはり真っ白な鳥の羽が二本、左右についていました。腰に二本のナイフを装備して勇ましいというより綺麗で愛らしい姿を向けますが、如何せん小さな体でいきっている姿がなんともアンバランスで思わず噴き出してしまいました。
「かっこいいね。キルロさんに作って貰ったの?」
「フフン。そう」
得意満面な姿にまた可笑しさがこみ上げて来ます。私は近くでまじまじと改めて見ていきました。素人でも分かるくらい丁寧に作られていますね。キノにぴったり。材料余ったから作ったのかな?
私がナイフに触れようとすると、キノが止めに入りました。
「ダメ」
「もしかして本物?」
「そうよ。エレナ、危ないからダメ」
「何でキノがそんな危ない物持っているの?」
キノは不思議そうな表情で首を傾げて見せます。
「キルロ弱いから守るのよ」
「? どういう事? え? キノも冒険行くって事?」
「そうよ」
キノはそう言って、両手を構えて見せました。
ええええー!
「キノ、危ないよ。一緒に待ってようよ、ね」
キノはブンブンと首を横に振り、ルンタと追いかけっこを始めてしまいました。表情には余り出てないけどもの凄くやる気が伝わり、私は諦めの嘆息をします。キノってば頑固な所あるから、言い出したら聞かなかったに違いない。この時ばかりはキルロさんの心労を思いやりました。
◇◇◇◇
「よお! エレナ。副団長はいるか?」
「こんにちは、マッシュさん。受付にいると思うので声掛けて来ますね」
「悪いな。無理なら出直すから、スマンがまた声を掛けてくれ」
「分かりました」
マッシュ・クライカさん。
見た目は鋭い狼人さんですが、話すととても優しい方です。【スミテマアルバレギオ】の団員第一号でハルさんの話では、とても優秀な方だそうです。目の良い獣人さんのはずですが、何故か特注の眼鏡を掛けていました。いつかその理由を聞いてみたいと思っています。ハルさんとキルロさんのやり取りがどうやらツボらしくいつも大きな声で笑っている印象で、見た目の冷たいイメージとは随分と違う方なのだと、その姿から感じました。
「ハルさん、裏口にマッシュさんがいらっしゃっています。こちら代わりますよ」
「あ、ホント。悪いね。こちらの方に調教済動物の貸し出し。屋敷のネズミ捕りに猫を借りたいって、詳しく聞いてあげて」
「分かりました」
ハルさんはなぜかニヤリと笑うと、私の肩に手を置き、奥へと消えて行きました。
うん? 何でしょう? 今の意味深な笑顔。
ハルさんと入れ替わり、私は席に着きます。分かりましたと言っておきながら、接客は未だに慣れないのが本当の所です。
「よ、よ、ようこそ、ハルヲテイムへ。代わりに、ご、ご用件をお伺いします。お屋敷のネズミ⋯⋯」
「そうなのよ! こーんな大きなネズミが這っていて、夜になるとガサゴソ言うのよ。寝ている時に噛まれたら大変でしょう、痛いし。ねぇー本当に。使用人に捕まえるように言ったのにぜーっんぜん捕まえられないし、やっぱりあれかしら報奨金とか付けた方がいいかしら? どう思う? それで、夜寝られないでしょう、お肌も荒れちゃうし、お昼眠くて寝ちゃうし、もう本当に困っているのよ。本当よ。それで考えたのよ、そうだ! ネズミなら猫にお任せだってね。ねぇ、いいアイデアだと思わない? 凄くない? 冴えているわ、私。まあ、夜、目が冴えて眠れないのは困りものよね」
「⋯⋯な、なるほど⋯⋯ですね」
見た目通りに圧の凄いおばさま。私が呆気に取られていると、フィリシアが笑顔で親指を立てて見せました。ザ・他人ごとです。キルロさんの悪影響が垣間見えます。
夜眠れないのは昼間寝ているからですよとは言えませんね。へんに話しを始めるとエライ事になりそうなので、しっかりと考えてから話しをしましょう。
ネズミを捕まえるなら能動的な猫?
アウロさんがネズミを捕まえるのは、半分は捕食で半分は本能的な遊びだと教えてくれたのを思い出します。イスタルキャットはのんびりというか優雅だからダメそう。オルンカールかリンマフィン⋯⋯。
「リンマフィンの元気な仔がいます。遊び好きでいつまでも遊んでいる仔なので、ネズミを見たら捕まえるまで追い回すと思いますよ。いかがですか?」
「うんまぁ、良さそうね。その仔にしましょう。お手続きをお願いね」
「かしこまりました。準備致しますので、後ろでおかけになって、少々お待ち下さい」
良かった。捕まらずに済んだ。
裏手にまわりながらほっと息を撫で下ろし、リンマフィンの元気な男の子、ゴンをキャリーに誘導。受付に戻っておばさまと一緒に来ていた使用人らしき方に手渡しました。
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