グ・チ・り・魔・DEATHからッ!!

kgym

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第一章 MA・DA・O ~マトモに生きないダメ男~

第6話 可愛いって罪だねぇ…

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「・・・・・・ッ、何よもう、本当にこいつと一緒に暮らせっていうの!?  それも一週間!?  冗談じゃないわよっ!!!」


勇氏の意識を覚醒させたのは、そんなテンプレ上等!と言わんばかりに何のひねりもない嬌声だった。
「あら、気がついたの。・・・・・・どうせならそのまま寝てれば良かったのに」
 言葉と共に飛んでくる携帯をキャッチ。着信を見れば、何度も何度も師匠の携帯にかけ直していたようだ。・・・・・・まあいきなりの話だ、苛立つ気持ちも分からなくはないので、顔面に向かって投げられたことも不問にしておいてやる。
 だがどうしても看過できない問題があった。それが、この娘の態度である。
 なあ、自分が気絶させた相手に最初にかける言葉がそれかよ? ごめんなさいはどうしたごめんなさいは。少なくともお前半分日本人なんだから、母国の基本である思いやりの心はあるよな? ほらこっち来て一年の若造に見せてくださいよ、礼に始まって礼に終わるジャパーンのすごさをよォ?
  そのまま言葉を待ったが、しかし目の前の少女は悪びれる様子など少しも見せない。
  あ、こいつ俺のことナメてる。勇氏は直感的に分かった。んでもってこいつはあかんわ、と思う。例のクズい主人公のようにスティールが使えたなら一件落着なのだが、生憎とこの世界はそんなに素晴らしくない。
  ・・・・・・とりあえずこの娘をどうするかはおいといて立ち上がった勇氏であったが、その大事な所に強烈な痛みが走る。
「が、はぁっ!?」
  ヤバイキツイエグイ、これ痛いなんてもんじゃねえ! 死ぬ、死ぬッ!!
原因は恐らく先程の蹴り上げだろう、汗がギトギトしてきた。
クソがッ、使い物にならなくなったら絶対責任取らせてやる、と睨みつけようとして、そこで勇氏はハッと我に返った。
  完全に失念していた、そうだ、こいつは師匠の娘だった。
師匠、俺にとっての恩人。誰に対しても豪快不遜な態度で接する自分が、(自覚して直そうともしない時点で、もう人間としてダメな気がするが)唯一敬意を払う人物である。
  ・・・・・・なにも知らずに生きていた自分に、生きる喜びを、楽しさを教えてくれた人・・・・・・
目の前でピーチクパーチク言っているのは、そんな恩人の一人娘である。適当にあしらう訳にはいかないが、真面目に対応してたら絶対身が持たない。とはいえワインの件での償いの気持ちも無きにしも非ずだし、何より頼まれたのだから断れない。
 ということで下手に出ておく。・・・・・・つまりは、謝罪。こういう手合いにはへりくだっておけば悪いようにはならないのだ。
「先ほどは、たいへんご無礼を致しました。なにせ混乱していたもので、何卒お許しください」
ふざけなど微塵も感じさせない誠意のこもった言葉と下がった頭(ウソ)に、ヴァネッサは目を白黒させた。
「なっ、え、えっ? …… こっ、こっちこそ悪かったわよ、ごめん、なさい……」
おーおー、おどおどしてる。気が強いヤツのこういうリアクションいいな、スカッとするわ。
 ・・・・・・少しは気が晴れた。そうだな、家の中でも案内してやるか・・・・・・
「ではお嬢様、僭越ながらわたくしめがこの家の間取りをご説明しますゆえ、付いてきて・・・・・・」
しかしそんな勇氏の厚意を、ヴァネッサはにべもなく断った。
「いいえ、必要ないわ。なにせもともと、私のおじいさまとおばあさまのものよ、この家? 小さい頃何度かこっちの観光に来て泊まってたからまだ覚えてるの。ほら、さっさと空いてる部屋案内しなさいよ。 居間? 寝室? それとも茶の間?  どうせろくに掃除なんてしてないんでしょうから、時間をあげるわ。わたし今から役所で試験の手続きしなきゃいけないから、帰って来るまでにちゃんと用意しておいて。・・・・・・そのくらい、できるでしょ?」
・・・・・・前言撤回である、イラッときた。 まず第一になんでいきなり命令口調ナンデスカ?  それに折角人が柄にもなく親切にしてやろうと思ったのに、無駄にしやがって。
 大体なんだ、俺がここに住んでるのが思いっきり不満そうだなええおい。住んでるのに掃除すらできないの、ってか?
っていうかいまほぼ決め付けて言ったよなてめえ・・・・・・
なんだか激しくカンに触ったので、少し言い返すことにした。
「もしやお嬢様、わたくしが清掃を怠っているとおっしゃっているのですか!?  ああ、ああ、なんと悲しき事かな!  会って間も無きお嬢様にここまで信を置かれぬとは、この勇氏、自責と悔恨に心が潰れそうでございます・・・・・・」
「会ったばかりのテメエに言われる筋合いねーんだよタコ」といった趣旨を、バカ丁寧な口調にくるめてぶん投げる。大げさに手を広げてみせるオーバーリアクションもトッピング。
 あまりにあからさま過ぎるおどけ方だ、当然ヴァネッサはバカにされたことに気づき、その整った眉をひくつかせながら挑発に応じる。
「・・・・・・へー、そうなの。だったらさっきわたしがそこの茶の間で見た、あの酒瓶と本の山はどう説明してくれるのかしら?」
ヴァネッサはふん、と鼻を鳴らして茶の間、つまりは勇氏が先ほど突っ伏して寝ていた部屋を指さす。そいえばさっきゴロ寝していた時入ってきてたな、ならば残りの部屋もまともじゃないと勘ぐってしまうのも無理はない。実際他の部屋も散らかりっぱである。ご名答ご名答。
(まあ、だから何って話なんだがな・・・・・・)
 悪いのは100%自分なのだが、だからといって非を認めるのは不愉快極まりない。よって、勇氏は『能力《スキル》』を使うことにした。
このような唐突な入界もよくあるし、ホテルなどの不都合で滞在されるのもザラだ。その度に荷物をまとめるなんてやってらんないのでしょっちゅう使うのである。・・・・・・まあそれでも本来はこんなしょーもない見栄を張るために使うものではないのだが、まあそこはおいておくとして。
パチン、パチン、パチパチン。
「・・・・・・?? ちょっと、あんたなにやってんのよ?」
指を鳴らしまくっているのが気になったのか、ヴァネッサが問いかけてきた。しかし気にせず勇氏は能力を使い続ける。
・・・・・・机の脚の高さを考えてこれくらい、か。・・・・・・おっとと、パソコンまでやっちゃうとこだったよ、あっぶねー・・・・・・
「だーかーらー、聞いてんの?  これの説明をしてって言ってんのよ!」
無視されたことに苛立ったのか、見てみろとばかりにガラッ、とヴァネッサはふすまを開き・・・・・・
「・・・・・・って、えっ、なんで!!??」
広がる畳の上、ぽつんと置いてある机とパソコンしかないその光景を見て驚愕に頬を染める。
「ねえちょっと!あんた一体、何したの!?」
ねえねえちょっとちょっとうるせえなぁ。同じ言葉連発とかてめえの胸レベルで貧相だぞ? ボキャブラリーを増やせボキャブラリーを。売れない小説家かてめえは。
 ・・・・・・んにしても知りたそうにうずうずしてんな、好奇心旺盛でヨロシイ。さすがあの王様の娘だけのことはある。
 しかし説明してやる義理なんてもんはないので、勇氏はにったりと笑みを浮かべてその様子を楽しむ。
「はっはっは、先ほどからいろいろあってお疲れになっているんじゃないでしょうかね?」
「そんなワケないでしょ!・・・・・・そうよ、入って見れば何か分かるかも・・・・・・」
「おっと、そうはいきませんなー」
 呟いてそのまま茶の間に入ろうとするヴァネッサを、勇氏は手で制す。 これ以上近づかれたらネタがバレる、それでは面白くないのだ。
「なによ、わたしの実家なのよ!?」
ヴァネッサが睨みつけてくる。・・・・・・いやどんだけ気になんだよ。謎があったらどうしても解き明かしたくなるあの頭脳は大人な小学生探偵じゃねえだろてめえは。
 「そうは言われましても、散らかっているかもしれない部屋にお嬢様をお通しする訳にはいきませんよ。もちろんお嬢様のお言葉が正しいのならば、ですがねぇー?」
「~~~~ッ!!」
 強引にでも押し入りそうだったので軽く揚げ足を取ってみる。すると相当悔しかったのか、ヴァネッサはガスガス地団駄を踏み始めた。
 ・・・・・・ふっ、俺の勝ち。なんで負けたか明日まで考えててください、っと・・・・・・
 拍子抜けした勇氏はヴァネッサを呆れたように見つめ、・・・・・・そして、その容姿を改めて認識し心の中を驚きで満たす。
 (にしても、こいつ・・・・・・)
 ・・・・・・もし神様が予め人の姿をプラモみたいに組み立てて命を吹き込んでいるのだとしたら、「世界一の美少女作ったったw」と即座に展示会に出品されてこの少女は生まれてこなかったのだろうな、と馬鹿なことを考える。今だってこうして本気でありありと、その小さい体から怒気を滲ませているというのに、それですらこうして見る者の目をその意思に関わらずひきつけて離さない。少女の容姿は、冗談抜きにカンストレベルだった。
 ・・・・・・って、自分でナレーターっぽく言ってて何見入ってんだ俺。ないな、いやほんとマジで。あれか、さっきのアクシデンツが気になってんのか?  んでもしかして、この胸の怒気怒気は恋のヨ、カ、ン だとでも?
んなわけあってたまるか。大体さっきのは事故だし、いま仕掛けて来たのはあっちだっつの・・・・・・、
そこで勇氏はふと気づく。あれ待てよ、ということはこいつのキツイ口調、まさか照れ隠しだったりすんのか?
そのとき、唐突に静寂は訪れた。目の前の少女が踏み鳴らしていた足を止めたのだと勇氏が気付く頃には、少女の頭は既に下げられていた。
「・・・・・・お願い。何をどうしたのか、教えてちょうだい」
ゆっくりと上がっていく顔。そこに浮かぶ真剣な表情に、面食らってしまった勇氏は思わず動揺してしまう。
「・・・・・・あーもう、わかりましたよ。・・・・・・まったく、どれだけ気になるのですか・・・・・・」
「! ・・・・・・じゃあ、」
「ええ、帰ってこられた時、覚えてられてましたらね。ほら、早く行かれたらどうです、お忙しいのでしょう?」
「そ、そうだったわね。・・・・・・と、とにかく、ちゃんと片付けておくこと! あと、さっき言ったこと忘れないでよね!」
そう言うとヴァネッサは二階に上がっていった。勇氏はふぅ、と息をつく。数日なら余裕で通せるだろ、と思って作った執事的キャラが剥がされそうになった。いきなりしおらしくなるとかダメだと思います。ギャップ演出とかもう反則だよ。
 「・・・・・・いきなりなんだよ、あいつ・・・・・・」
わざわざ口に出して呟き、勇氏は男との待ち合わせ場所へと赴くべく玄関へと向かう。
・・・・・・胸に宿りつつある甘い疼きを、生活習慣病だと言い聞かせながら。
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