グ・チ・り・魔・DEATHからッ!!

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第一章 MA・DA・O ~マトモに生きないダメ男~

第7話 イ~ンチキおじさん 登☆場!

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 ・・・・・・数十分後。
「えーっと、こっちだよな、うん。そうじゃねえと符号の意味が分からん。 ・・・・・・いやでも、えぇー・・・・・・」
確認するようにメモと視線を往復させ、勇氏は迷路のように入り組んだ道を歩く。言われたとおりの住所に来たはいい、だがしかし目の前に並び立つのは墓石、墓石、墓石。周りにカフェも飲食店もある中で、よりにもよって墓地での待ち合わせ。ガンガンと容赦なく照り付けてくる日光への不快感もあいまって、勇氏の気分はそりゃもう最悪だった。
「確かこの辺だろ? ・・・・・・って特徴も何も聞いてないのに、区域だけ言って分かるわけねえだっての。他に人いたら誰だかわからねえだろが・・・・・・」
 愚痴りながらも注意深く辺りを見回すと、いた。パッと見30半ばほどの男が、ひとつの墓の前で静かに手を合わせていた・・・・・・が、男を見た瞬間勇氏はさっと踵を返した。
(・・・・・・うっわぁ、あれ相手にしたらアカンやつやん・・・・・・)
 頭をたれて死者を弔う。その挙動になんらおかしなところは無いが、問題はその格好である。
(なんでシャツの上から白衣なんよ。まぁありえねえ服装じゃねえけどさぁ・・・・・・)
 一瞬医学に携わる者かと思ったが、ツギハギの無免許医者でもそんな顔しねえだろってくらいの仏頂面は、人を救うものの優しさを感じさせない。かといって探々求々なぐせの徒みたいに、何かが「外れて」いる様子も見受けられない。・・・・・・結果、「墓地にわざわざ白衣を着て参る男」という情報のみが浮き彫りになり、推測の余地を与えない不審さを醸していた。
(・・・・・・まぁ、ともかく触らぬ神に祟りなしだな)
 こういう方とはとにかくお関わりにならないのが最善である。・・・・・・しかし、そう考えている間に男は勇氏に気づいたようで、「おーい、ここだここだ」と大声で呼んでいる。うん、キコエナイ聞こえない、逃げよ逃げよ。
「・・・・・・くそっ、暑いし遠いし、なにより貴重な時間を無駄にしちまったじゃねえか・・・・・・情報聞き出してからドラム缶に詰めて、東京湾に沈めてやろうと思ったのに・・・・・・」
 幸いなことに、彼我の距離は50mはある。わざとらしくひとりごちながら、勇氏はそそくさと男から離れようとした。・・・・・・が、しかしそうは問屋が卸さないらしく、男は早足で近づいてくるなり勇氏の肩を掴み、物理的にその足を止めた。
「だからここだっつってんだろ、無視すんじゃねえ」
「・・・・・・どちらさまですかと聞く前に、まずはこの手離してくれません? すみませんが、白い服を着てる人は大体変態だそうなので関わらないようにしてるんです。ジャンジャジャーンな紅蓮の錬金術師とか」
「ハガレンのあとがきを引っ張ってくるな阿呆。・・・・・・まあ、そんな力が俺にあるんだったなら、こんなことしてなかったんだろうけど、よ・・・・・・」
 自ら発した言葉に、男は自嘲気味に笑う。いやだから何だよ、んなこと俺の知ったこっちゃねえよ電波野郎。
「何をわけのわからないことを言ってんです、あと手離してくれません? 二度も言わせないで下さい」
「離して貰いたいんだったら離せば良いじゃねえか。・・・・・・まあそれができたら、の話なんだけどな」
・・・・・・その時、男の雰囲気が変わった。しかしそれでも勇氏は知らぬ存ぜぬを貫く。
「・・・・・・どういうことです?」
「とぼけんな。電話越しに聞いた声でもお前さんならわかるだろう? ・・・・・・ああ、ちなみに時間稼いでポケットなんか漁っても何も出てこねえぞ、携帯は白衣の生地の中に入れてるからな、ほら」
 そう言って男は勿体ぶって懐をまさぐる。しかし白衣からその筐体を覗かせるなり、男の持つスマホはクシャリと音を立て、角砂糖サイズの黒い何かに姿を変えた。
「・・・・・・おいおいこんなところで“使うな”よ、誰に見られてるかもわかんねえのに。それに、おっちゃんがただのこっちの人間だったらどうすんだ?」
「誰も見ていないからやったんじゃないですか。んにしてもすごいですねー、“これ”一体どうやったんです?」
「なーに簡単なことさ。十数人雇ってヒアリが出ただのデング熱だの言って、防護服着させて辺りを霧吹きしてもらえばいい。ほら、かかる手間はたったの四つだ、どうってことない。万が一騒ぎになっても、それをもみ消せるだけのちょっとしたコネさえありゃ問題ねえ。・・・・・・んじゃおっちゃんからも質問、さっきみたいに“見られた”場合、一般人への対応はどうしてんだ?」
「大概の方には忘れてもらうか丸め込むかのどちらかで対処しています。まあ滅多に人前では使わないんですがいまのわたくしゃあ珍しく、下らない挑発に乗せられ頭に血が上っているのでね。下手に刺激されないよう気をつけてくださいよ? ・・・・・・といっても、もうすでに手遅れかもしれませんが」
「おーおー怖い怖い。するとなんだ、おっちゃんはこれからそうなっちまうってのか?」
ふざけ混じりに両手を挙げて問う男に、勇氏は手をひらひらと振って返す。
「ええ、もちろん当初はそうするつもりでした。ですが、勝てない喧嘩はしない主義でね」
「ほほう、どうした? 天下無双の“白面”とあろう者が、こんなナヨナヨしたおっさん一人に勝てねえってのか?」
「そうですね、剣はペンには勝てませんから」
「・・・・・・その言葉の使い方、間違ってんじゃねえのか? ペンは言論を表すぞ?」
「いいえ、僕が言った意味合いはリットンが綴った劇の中、リシュリューが発した言葉通りのものです。いくら僕が強くても、絶大な権力を持つ貴方がペンで名前を書くだけで僕をどうすることだってできるでしょうから。
 まあそれでも僕を従えられないと踏んでこうしてわざわざ出向いてくださったところをみると、頭の回転でも貴方には敵う気がしませんが。・・・・・・それにしても“白面”ですか、懐かしいあだ名を引っ張ってきましたね。呼ばれる度になんか獣の槍が飛んできそうでビクついてましたよ」
「ああ、確かに俺は“あっち”と“こっち”の金全部をこの身ひとつで回してるアルティメットキーパーソン、いわば影のドンってやつだな」
「・・・・・・人がネタ振ってるんだからちゃんと応えてくださいよ」
「悪いな、茶番は終わりだ。・・・・・・で、どうしてそれが分かった?」
「無視ですか、ああそうですか。だったらこっちも真面目に返しますよ」
 ため息一つ吐いた勇氏は、手近にあった墓石を撫で回す。
「・・・・・・その倍率の高さから毎年抽選で選ばれる都心の霊園。そんなこの地区に、“あっち”の文字が刻まれた墓がある。こんなふざけた光景見せられてその質問は馬鹿にされてるとしか思えませんがねぇ。当選者を買収? それとも墓地管理者を恐喝? どちらにしろただの人間じゃねえでしょアンタ。 ・・・・・・ところで、これは誰の墓です? さっきから気になって仕方ないんですが」
「あーわかった、わかったからそれ以上詮索するな。ああ、この携帯は壊すんじゃねえぞ? 取り寄せるのがダルい」
 男はそう言うと、白衣からもう一台スマホを取り出し電話をかけ、同時に何かをこちらに放ってきた。
「・・・・・・ああ、いいぞ。じゃあ始めてくれ」

銀色に光るそれが指輪で、魔力が込められていると気づくと同時、浮遊感。突如として足元に生じた裂け目に呑まれ、勇氏は吸い込まれるように闇の中へと沈んでいく。
 ・・・・・・落ち着いていられるのは、目の前の男も自分と同じく落ちているからだ。

「・・・・・・へー、幽白の桑原みたいな能力使うんですね」
「いいや、俺のじゃねえよ? お前が受け取った指輪を合図に、違うやつに転送してくれるよう頼んだだけ・・・・・・ってかお前、よくもまぁくつろげるもんだな。俺も最初はビビっちまったのに・・・・・・怖くねえのか?」
 どっこいしょ、と座りあぐらをかく自分に驚いたのか。男が投げた問いに、勇氏はなんてことないように答える。
「別に何がどうなってもいーっすよ、たいした未練もありゃしませんし。・・・・・・それに、貴方もそのクチでじゃないですか?」
「ほほぅ、言うねぇ。・・・・・・まあ、確かにその通りだが、な」
 話している間にも、辺りの黒は次第に透き通っていく。男はこほんと咳払いをして、話を始めた。
「んじゃ、時間もねえから本題に入るぞ。お前に頼みたいのは引率だ。貴族の悪ガキ二十数人を預かることになったんだが、ただのさばらせておくのもどうかと思ってな。こっちで跋扈してるブローカーの検挙をさせてえのよ。というわけで、ここはひとまずお前の手駒として動いてもらおうというわけだ」
 言うなりデータチップを放ってきたので受け取り、携帯に挿していた物と交換し読み込ませた。事細かな個人情報が、ズラリと履歴書形式で表示される。
「・・・・・・ああ、ちなみにだがガキとは言うがお前とそう年はかわらねえぞ? 概要はそこに書いてあるからうまく使え。あと、そいつら全員お前と同じ"忌み子”・・・・・・、特別な魔法が使える奴らだからな?」
「・・・・・・その言葉、あんまり好きじゃないんで聞きたかないですねぇ。メディア良化委員会にでもチクりましょうか?」
「けっ、規制が怖くてこんなことやってられっか。俺は年食ったら車椅子に銃仕込むカミツレ爺さんになんだよ。・・・・・・んで、何か質問はあんのか?」
 そこまで言って、男は言葉を切った。聞きたいことなら山ほどあるが、全部質問するときりがない。なので大きな疑問を数個だけ、勇氏は潰すことにした。
「ええ、いくつか。まずは1つ目。先ほど聞いた話によると、その分野は“取締”の管轄のはず。ならば当然、彼らにも資格が必要では?」
「あー構わねぇ、こっちで既に許可は取ってる。おっちゃんみたいに上のほうにいると、色々面倒が舞い込んでくんの。んで一つ一つ畳んでいくんじゃきりがねえもんだから、こうして用事に用事を重ねて捌くワケ。今回の件も・・・・・・まあ、そういうことだ」
「そういうことですか、随分と合理的な判断で。まあ、その面倒を押し付けられるのが僕でなければもっとよかったんですがね。・・・・・・では2つ目と3つ目。期間はどれほどです? また、どうして僕をご指名で? 自慢じゃないですが協調性なんてありやせんよ? 統制なんて言わずもがなです」
「なに、たった数日だ。おっと、そのくらいてめえでどうにかしろよとか言うんじゃねえぞ? ・・・・・・面倒なんだよあいつら。お前に任せるのはそれが理由だよ、普通の奴じゃ扱いきれねえからな」
「・・・・・・ほーん、随分と手がかかるみたいですね」
「ああ、だから従わねえ奴、反抗する奴はガンガン除籍して構わねえ。ご家族にドンパチやらせる許可は取ってあるとはいえ命令無視なんかで死なれたら、いくら貴族が嫌いなおっちゃんでも流石に飯が不味くなっちまう」
「……わかりました。それでは4つ目、この空間転移の目的地、一体どこです? 5つ目。それと自らの素性を明かさない人間に仕える気はないのですが」
「それは着いてからのお楽しみ♪ ・・・・・・って言いてえところだが特別に教えてやるよ。おっちゃんが校長の私立高校、その名も“箱庭学園”だ。 ・・・・・・ああ、自己紹介を忘れてたな。俺の名前はフーバルト、国語の教師だ。フッさんと呼んでくれたまえ」 
 「なんすかそのふざけた学校名。時計塔の地下で天才を作る実験やってるってんなら、この話即断りますからね?」
「いんにゃ、そんな全校生徒を実験台にする非人道的なもんじゃねえよ。要はこっちの一般的な馬鹿を集めて教育するすんばらしぃ学校だ。・・・・・・いや、“企業”的なこともやってることをかんがえると、碧陽学園のほうがしっくりくるか?」
「へー、そうですか。せいぜい空を飛ぶことを目的とする部活動に気をつけることですね」
「ああ、そうすることにするよ。まだ“楽園”には行きたくねえからな。・・・・・・さて、もうそろそろ到着だな。質問は以上か?」
 「・・・・・・んー、そうですね、それじゃあ最後に一つだけ。・・・・・・・僕一人を呼び出すのに、わざわざ墓地を貸し切った理由は?」
「ああ、残念だがあれはお前のためじゃねえ、あいつのためだ。雑多な喧騒に包まれてたらゆっくり“こっち”も見物できないだろうからな、たまには静かにしてやってるんだ・・・・・・っておい、詮索するなってさっき言ったばかりじゃねえか。ちったぁ人の気持ちも考えろよ」
(・・・・・・人の大事なもん盾にとっといてあんたよく言うよ・・・・・・)
「ん、なんかヨロシクない言葉が聞こえたようだが・・・・・・まあいい、ちょうど着いたから不問にしといてやる」
 そう言ってフーバルトは、ポケットの中から取り出したサングラスをかける。
何してんだコイツ? と疑問を抱くと同時、勇氏の視界は真っ白な光に染め上げられた。
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