恋のヤンキー闇日記

あらき奏多

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忠犬が狂犬になった理由(side美夜飛)

05

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「……」

 すぐ背後で聞こえる声は、聞き取りやすい落ち着いた低音で、冷静ではあったけど、どこか苦しそうに、絞りだすようで。

 それにどう返せばいいか言葉が見つからず、押し黙る。

「……ずっと考えてたんだ、この一週間。お前は見せねえようにしてたつもりだろうけど、落ち込むお前の姿見たら……。あいつに渡すくらいなら、俺のほうがいいんじゃないかって、気持ちになった」

「……え?」

 まさかの発言に驚いて、振り向いた──同時に、腕を引かれ、肩を押されて。

 人が丸ごと乗れる大きなクッションに、半ば押し倒された。

「廣瀬……?」

 唖然と、見上げる。

 すぐ目の前にあるのが、兼嗣ではなく真面目な顔をした廣瀬だってことが、ただただ不思議な感覚だった。

 痛くない程度に、だけど少しひねったくらいでは解けないほどしっかりと掴まれた手首が、柔らかなビーズクッションに沈む。

 背中だってそれのおかげで痛くないし、むやみに力を入れたり、体重をかけてくるようなこともない。

 どこも痛くないし、あっという間に組み敷かれたわりには、優しい気遣いさえ感じさせる一連の流れに、いっそ感心した。

 体勢的に、俺は姫かなんかかよ、と自分で突っ込みたくなるほどには、危機感はほとんど湧いてこない。

「美夜飛?」

 緊張感が、全然ないんだ。
 それってつまり、廣瀬にその気がないから。

 いやらしさなんて微塵もない。
 怪訝に首を傾げた、いつもと変わらない廣瀬の表情に、こらえきれず笑いがこみ上げた。

「ふ、はは……っ、」

 だって、全てがあいつとは真逆だ。何もかも。

 硬い股間をぐりぐり押しつけてはこないし、無理やり唇を奪うようなこともしないし、身ぐるみを剥いで噛みつくようなこともしない。

 あるのは、余裕だ。
 思いやりも、相手への配慮も、ちゃんと感じる。

 何だか沸々と笑えてきた。
 腹を抱えて声を立て、気が済んでから怪訝な顔の廣瀬を見上げる。
 俺は安心したように微笑んだ。

「できないよ、廣瀬には」

「……」

「だって、お前、俺に勃たないじゃん。それは俺もだけど」

「そんなの、やってみなきゃ分かんないよ」

「分かるよ」

 断定の口調で。
 確信を持って、言った。

「……もっとギラギラしてるんだよ。本気のときは。食われるって、目ぇ見れば分かる」

──お前のそれは、ただの同情だ。


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