83 / 107
忠犬が狂犬になった理由(side美夜飛)
05
しおりを挟む「……」
すぐ背後で聞こえる声は、聞き取りやすい落ち着いた低音で、冷静ではあったけど、どこか苦しそうに、絞りだすようで。
それにどう返せばいいか言葉が見つからず、押し黙る。
「……ずっと考えてたんだ、この一週間。お前は見せねえようにしてたつもりだろうけど、落ち込むお前の姿見たら……。あいつに渡すくらいなら、俺のほうがいいんじゃないかって、気持ちになった」
「……え?」
まさかの発言に驚いて、振り向いた──同時に、腕を引かれ、肩を押されて。
人が丸ごと乗れる大きなクッションに、半ば押し倒された。
「廣瀬……?」
唖然と、見上げる。
すぐ目の前にあるのが、兼嗣ではなく真面目な顔をした廣瀬だってことが、ただただ不思議な感覚だった。
痛くない程度に、だけど少しひねったくらいでは解けないほどしっかりと掴まれた手首が、柔らかなビーズクッションに沈む。
背中だってそれのおかげで痛くないし、むやみに力を入れたり、体重をかけてくるようなこともない。
どこも痛くないし、あっという間に組み敷かれたわりには、優しい気遣いさえ感じさせる一連の流れに、いっそ感心した。
体勢的に、俺は姫かなんかかよ、と自分で突っ込みたくなるほどには、危機感はほとんど湧いてこない。
「美夜飛?」
緊張感が、全然ないんだ。
それってつまり、廣瀬にその気がないから。
いやらしさなんて微塵もない。
怪訝に首を傾げた、いつもと変わらない廣瀬の表情に、こらえきれず笑いがこみ上げた。
「ふ、はは……っ、」
だって、全てがあいつとは真逆だ。何もかも。
硬い股間をぐりぐり押しつけてはこないし、無理やり唇を奪うようなこともしないし、身ぐるみを剥いで噛みつくようなこともしない。
あるのは、余裕だ。
思いやりも、相手への配慮も、ちゃんと感じる。
何だか沸々と笑えてきた。
腹を抱えて声を立て、気が済んでから怪訝な顔の廣瀬を見上げる。
俺は安心したように微笑んだ。
「できないよ、廣瀬には」
「……」
「だって、お前、俺に勃たないじゃん。それは俺もだけど」
「そんなの、やってみなきゃ分かんないよ」
「分かるよ」
断定の口調で。
確信を持って、言った。
「……もっとギラギラしてるんだよ。本気のときは。食われるって、目ぇ見れば分かる」
──お前のそれは、ただの同情だ。
5
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる