84 / 107
忠犬が狂犬になった理由(side美夜飛)
06
しおりを挟む俺、男が好きなわけでも、そこまで押しに弱いわけでもないし、そんなことで自分を犠牲にするほど、人に献身的でもねえよ。
お前みたいに、優しい人間には、なれない。
男の性的な視線って、びっくりするくらい分かりやすくて、欲情した表情は、まさに飢えた狼みたいで。
……全身に、訴えかけられるんだ。
言わなくても、求められているのが伝わる。
兼嗣のとき、俺はそれに負けたんだ。
迷い戸惑う俺よりも、兼嗣の気持ちのほうが大きくて強かった。
暗い真夜中の激しい嵐みたいだった。
だから何も見えなくなって、飲み込まれた。
廣瀬の言動は、そういうのとは無縁だった。
「……ごめん。嫌なこと思い出させた」
「そう思うなら、さっさと退いてくんね?」
「……退いたら、行くんだろ」
「まあ……文句言いに、だけどな」
ちゃんとした合意の上で、お互いに求め合う。
お前みたいなやつと付き合う相手は、きっと幸せなんだろうな。
大事に大事に愛されて、安心感があってさ。
それがたとえ男同士であっても、明るい未来しか見えないって感じがする。
兼嗣にも、もう少しそういうところがあればいいのに。
そしたら俺は体調を崩さなかっただろうし、こんなにも悩んで苦しむこともなかっただろうし、ごちゃごちゃ女々しい感情になることもなかった。
そう思う反面、そんな完璧なあいつなんて、最早あいつではないな、とも感じる。
「……文句?」
「ああ、俺、まじで結構イラついてんの、あいつの今の態度に。だから全部、ぶちまけに行ってくるだけ」
「……」
無言で、何か言いたげな微妙な表情をされる。
心配だ、って顔に書いてある。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
267
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる