廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

文字の大きさ
73 / 509
第三章

第七十三話 ギルドマスターの自信

しおりを挟む
 ギルドマスターと一対一の応接室。フォルティシモがギルドマスターと話す時はいつもこの場所に通される。

「すまなかった。目立ちたくないって話だったから、考慮するように言ってはおいたんだが」
「急いでいるのか?」
「騎士と冒険者たちを待たせてるからな」
「明後日でいいと言ったはずなんだが」

 フォルティシモが職員たちに言った明後日という日時は、明日はアクロシアに来るピアノと会う用事があるため提示しただけで他意はまったくない。この辺りは、クエストを後日に回すような気持ちだった。

「最強の冒険者を相手にするんだから、こっちも誠意を見せないとな」

 ギルドマスターは苦笑しながらも嬉しいことを言ってくれる。

「大方、また強いのが出現したから俺に倒して欲しいってところか」
「話が早くて助かる。本当は今日にでも出て欲しいんだが」
「悪いが明日は外せない用事がある」
「明日? ああ、エルディンか。そりゃそっち優先だな」

 ギルドマスターも明日のことを知っているようで、忘れていたと言いながら己の頭を叩いていた。

「客を待たせる必要もなかっただろうに」
「言ったろ。お前を特別扱いしてるぞ、ってアピールをしたかった。それに個人的には助けられてるからな」

 相手が客を待たせているのに自分を優先される経験など無かったので、なんだかそわそわする。そんな態度は最強の男に相応しくないので、出さないよう努めて我慢が必要だった。

「気が早いかも知れないが、討伐隊を編成するとしたらどうなる?」
「ん? すれば良いんじゃないのか?」
「いや、すまん、言葉が足りなかった。フォルティシモ、お前を中心に討伐隊を編成したら、そのメンバーがどうなるのか聞きたかった」

 パーティ強制クエスト、フォルティシモ的クソ仕様である。

「お断りだ。その中でキュウに色目を使う奴が出たら、二度と冒険をできなくするぞ」
「女冒険者だけなら良いのか?」
「話を聞こう」

 以前から思っていたがこのギルドマスターはやり手だ。的確にフォルティシモを見抜いてくる。考えてみればラナリアが読心術の使い手かと思うほどなので、上に立つ者にとっては必須スキルなのかも知れない。フォルティシモには永久に手に入れることのできないスキルだろう。

「ははっ、悩む程度にはお前も女好きと分かって、少し安心したぞ」
「俺も男だからな。まずは顔写真入りのリストを出してくれ」
「ねぇよ。レベルも何も気にしないってことは、討伐隊はお前一人で十分なんだな? 相当な強敵でもか?」

「ここでなんでリストが無いんだよと激昂すると思ったのなら間違いだったな。俺は冷静だ」
「すまん。本当に無いから諦めてくれ。まあ、連れて行きたいメンバーが居るなら、事前に言ってくれればギルドから指名という形は取れるが」

 そう言われると、丁度良いタイミングかも知れない。

 フォルティシモは今朝キュウから聞かされたフィーナがカイルにパーティに誘われたという話を受けて、フィーナとカイルを誘い野良パーティを作ってクエストをやろうと思っていた。
 加えてフィーナの容姿と胸を思い出して、本人が良さそうならカイルには悪いがキュウの仲間として勧誘も有りだとも考えていたのだ。

 クエストの内容は決めていなかった、というよりもゲームと違って一定のクエストがあるわけではないので、ギルドに行ってみないとどんな依頼書が張り出されているのか分からないのだ。
 そんな中でギルドマスターからの依頼であれば明後日という日時指定もできるし、場合によってはラナリアも参加できるかも知れない。

 とりあえず手続きだけ頼んでおくことにした。



 ◇



 フォルティシモを見送り、ガルバロスはギルバートや騎士たちを待たせている場所へ戻るため廊下を歩いていた。普段自宅よりもギルドに居る時間が長く廊下も目を瞑って歩けるような慣れ親しんだ場所だが、今は廊下にまで座り込んだ冒険者たちでひしめき合っており、フォルティシモとの話を盗み聞きしようとしている冒険者だって一人や二人ではない。ガルバロス個人としてはそういう積極的な姿勢は嫌いではないので、度が過ぎない限りは見て見ぬ振りするつもりだ。

 ガルバロスとて、いくらレベルが高いとは言え一人の冒険者をここまで特別扱いするつもりはなかった。ガルバロスが現役時代であれば強い冒険者とのコネクションを作るのに躍起になったけれど、今のガルバロスはアクロシア冒険者ギルドのギルドマスターであり、仕事振りで評価することはあっても他のことで優劣を付けるべきではない。

 それが分かっていてもガルバロスがフォルティシモを優遇しているのは、実のところアクロシアの王女であるラナリアに【隷従】を掛けているからというのが大きい。現王デイヴィッド・オブ・デア・プファルツ・アクロシアも悪い王ではないし、王子ウイリアムも年齢の割には聡明と言って良い。しかし、ガルバロスから見てラナリアはずば抜けている。隠すことでもないが、ガルバロスはラナリア派だ。

 先日の事態でラナリアの人気は更に高まり、派閥はかつて無いほど盛り上がっている。その中でフォルティシモとの関係をガルバロスに打ち明けたラナリアに、当初は失望にも似た感情を抱かなかったと言えば嘘になる。

 しかし、今となっては彼女の先見に脱帽するしかない。それと言うのもあのエルディンの王を僭称するヴォーダンが現れたことを皮切りに、大陸各地で今まででは考えられない巨大なモノが動き出したのだ。

 まずはつい先日まで最も近い問題だったエルディンを襲ったという巨大なドラゴン。正確な証言ではないが、遠方から確認しただけでも山のように大きく、とてつもない破壊をもたらすブレスを持っている。もしもアクロシアにもやって来るとすれば、史上最悪の厄災となっただろう。

 次に、南の冒険者たちに目撃された鬼。血のように紅い角を持ち、砂漠の遺跡を守るレベル二〇〇〇を越える魔物スフィンクスを討伐したという。スフィンクスは拳を受けて宙を舞い、冒険者たちは怖くなって逃げ出したので詳細は分かっていない。

 南東にある天を貫く謎の塔の扉が突然開き、中から現れた魔物に近くのキャンプの人員が虐殺された。商人たちの話から推測すれば、初めて発見される魔物。鋼鉄の身体を持ち、魔技も魔術も通用しないのだと言う。

 他にも積乱雲の合間から大地が見えて、光ったと思ったら凶悪な魔物が空から落ちてきたという眉唾な話。間抜けな魔物が雷に打たれて死んだという見解だが、持ち込まれた魔物の死体を見聞したところ自然の雷程度で死ぬようなものではなく、あのベンヌを超えるだろう力があったと考えられている。

 北の国からの目撃情報では、大陸で最も高い山に天使が舞い降りたなどの証言もある。こちらは北の国で大規模な調査団が結成されるため、その結果如何ではアクロシアにも応援要請があるかも知れない。

 そして、今回の“魔王”だ。

 ラナリアがフォルティシモというレベル九九九九、それ以上は強くなれないとまで言う規格外の力を持つ冒険者をアクロシアに留まらせることに成功しなければ、これらの問題を解決する糸口はおろか、ベッドに入って震えて眠ることしかできなかったはずだ。

 すべての事柄を彼一人に対処させるのには無理があるだろうが、アクロシア国内に対処できる人物が居るという事実が、そしてその人物がある程度こちらの話を聞いてくれる味方であることがガルバロスの心労をとても軽くしてくれる。

 会議室へ戻ると、そこは静かになっていた。ギルバートとそのパーティメンバーの合計九人、冒険者登録して一年も経っていない新米二人、王国騎士が三人、ギルド職員が二人。ガルバロスは一人残らず顔と名前を知る者たちだ。

 人数が人数なので、飾り気はないが大人数が座れる会議室を使用している。

 事件は昨夜に起きたものだ。ギルバートは新米冒険者の面倒を積極的に見ている得難い冒険者であり、依頼で西のキャンプへ向かっていた。その途中でカイル、デニス、エイダという、かつてギルバートが面倒を見たことのある冒険者の姿を見つけて、新米たちに近い冒険者歴である彼らを誘ったのだと言う。

 そこまではよくある話だったが、問題は夜になってからだった。カイルたちには一人の同行者がおり、その少女もギルバートたちに付いて来た。しかし、少女の姿をした何者かは、夜になってギルバートの仲間と新米冒険者四人を殺害、生き残った新米冒険者マウロの話ではいきなり襲われたという。マウロの傷も決して浅いものでは無く、今も病院で治療を受けている。

 その少女は冒険者ギルドにおいてギルドカードを作成しており、彼女は自分の荷物を持たずに去って行った。カイルのパーティが回収したギルドカードに書かれた情報を見て騒然となった。

 氏名:アルティマ・ワン
 レベル:9999
 種族:九尾狐
 クラス:魔王

 ガルバロスでさえ偽造を疑ってしまったほどだ。すぐに王宮へ報告し、ギルバートたちは情報統制のためにギルド内に軟禁状態にさせて貰った。ギルバートは古参でガルバロスの現役時代を含めれば三十年以上の付き合いもあり、その扱いには文句は言わなかったのだが、カイルという冒険者は違った。

 カイルは魔王を連れ出した本人であるにも拘わらず、少女は魔王なんてものではない、ギルバートの仲間と新米を殺害したのはマウロだと主張し始めたのだ。

 これにはギルバートが怒りだし、ガルバロスや騎士たちが見ている前で言い争いになり、終いにはギルバートが手を挙げた。
 フォルティシモの来訪はそんな時に報され、落ち着くためにも一度休憩にしたわけだ。今はそのカイルの姿がない。

「カイルはどうした?」
「寝かせました。正気な状態じゃない」

 ガルバロスの質問にギルバートが答える。カイルの仲間のデニスとエイダが隅に座って俯いていることから、うっすらと事情を察する。

「【隷従】を受けたんじゃないですかね?」
「冷静でないのは認めるが、操られているとは考えにくいな」

 ガルバロスは近場の椅子に座る。

「討伐隊の準備をする。もう一度、可能な限りの特徴を話してくれ。特に目の前で戦闘を見ていた二人には詳しく教えて欲しいな」
「反対です。勝てる相手じゃない」
「その通りです。大規模な避難の準備をしておくべきでしょう」

 ギルド職員と騎士が常識的な判断をする。二人の判断は正しい。

「俺たちはやらせて貰う。ドミトリーを殺されたまま引き下がれるか。ガルバロスさん、俺たちを討伐隊に参加させてくれ」
「お前らの意思は汲んでやりたい。が、難しいと思ってくれ」
「どうしてだ! 俺たちだけでやらせてくれと言ってるわけじゃない! 討伐隊の作戦には従う!」

 とても信じられる様子ではないギルバートの態度に、普段の彼を知っているギルド職員からは驚きの声が、騎士たちからは呆れたような侮蔑が漏れる。それも仕方ない。

「ギルバートも落ち着け。うちの職員が怖がるだろ」

 らしくない、とは言わない。ギルバートは元々激情家だ。年齢が高くなって多少落ち着いてきたものの、根っこの部分は変わっていない。長年連れ添った仲間を殺されて冷静でいられるようならば、とっくに王国騎士に志願しているだろう。

「どうして、という理由だが。確実に勝てる冒険者に依頼をするからだ。討伐隊に参加できるのは、その冒険者の意向が反映される」
「な、何を言ってるんだ、ガルバロスさん?」

 ギルバートだけでなく、その仲間たちやギルド職員たちからも訝しむような視線が集まる。常識的に考えてレベル九九九九の魔王相手に戦える者など存在しない。冒険者や騎士を含めたアクロシアの全戦力を結集したところで、蹴散らされるのがオチだ。

 ガルバロスだって正気だとは思えない。レベル九九九九の魔王が現れたのに、落ち着いているのだ。

「魔王を討伐するのは勇者の仕事だ。このアクロシアに居る最強の勇者が魔王を討伐してくれる。何も心配することなく、吉報を待てばいい」

 ガルバロスは驚く冒険者、ギルド職員、騎士たちを前にして不敵に笑った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

愛鶴ソウ
ファンタジー
十二の公爵によって統制された大陸の内、どの公爵にも統治されていない『東の地』 そこにある小さな村『リブ村』 そしてそこで暮らす少年剣士『クロト』。 ある日リブ村が一級魔物『ミノタウロス』によって壊滅させられる。 なんとか助かったクロトは力を付け、仲間と出会い世界の闇に立ち向かっていく。 ミノタウロス襲撃の裏に潜む影 最弱属性魔剣士の雷鳴が今、轟く ※この作品は小説サイト『ノベルバ』、及び『小説家になろう』にも投稿しており、既に完結しています。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...