廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

文字の大きさ
142 / 509
第四章

第百四十二話 思惑の結果

しおりを挟む
「私がお願いした以上の発破を掛けて頂きありがとうございます、マグナさん」

 フォルティシモの【拠点】での夕食の席で、ラナリアが頭を下げる。あの後、ラナリアは鍛冶師たちと共に一度アクロシアへ戻ったため、今になってお礼を言っているのだ。

 最初はあれだけの熱気があったにも関わらず、鍛冶師たちは誰一人としてマグナへ話し掛けることなく、むしろ怯えの視線さえ投げ掛けて去って行った。

「で、どこまでが狙いだった? 済んだんだから白状しろ」
「あの、勘違いされているようですが、私は本当にご迷惑を掛けるつもりはありませんでしたよ?」
「頭の片隅にもか?」
「それは」

 ラナリアは降参と言った表情を作った。

「それでラナ、マグが使った魔石や魔粉、いや生成済みの魔法金属とかでも良いけど、需要はどう?」

 目がお金の形になったダアトが割り込んできた。

「売り出すとは言っていませんが、鍛冶師たちの反応を見るに販売した先から売れていくと思われますね。私としては卸売でも小売りでも、あまり一カ所に集中しないようにして頂けると助かります」
「そういう常識的な話は私たちの間では無しだって。単刀直入に行こう。どのくらいぼったくれる?」
「そうですね。正直、今回は私もマグナさんからの信頼を傷付けられましたので、彼らには痛い目を見て欲しいです」

 正直な同僚従者と後輩従者に囲まれたマグナは苦笑するしかない。

 二人はアクロシアの鍛冶師らの平均的な財力と、現在のアクロシアの状況、それにマグナが見せたパフォーマンスの効果を予測して、どのくらいまで搾り取れるかを嬉々として話し合っている。買わなかった鍛冶師には、マグナの力の前に諦めた負け犬だという噂を流し、何としても買わせるとまで豪語していた。

 ラナリアはどう見ても怒っていた。一見すると笑顔なのだが、その笑顔はどこか加虐的なものが含まれている。

「ほうほう。いいね! マグ、やる事は分かってるね!?」
「まったく分からないって言いたいところだけど、それを採取すりゃ良いんでしょ」
「このアホ! マグ一人で採取する量で、市場を賄えると思ってるの!? 一次産業舐めんな! 従者だよ。大量の奴隷を使って、安定的かつ大量の採取体制を確立するんだよ! もちろん全員に自動採取用ゴーレムを動かすスキルを覚えさせてね!」

 新しい世界に適応しているダアトは、マグナへ対して更なる要求をしてくる。フォルティシモの従者に上下関係はないので、いくら先に作られた従者であるダアトの意見でも、それを無視することは可能だ。

 ただし、従者に上下関係はなくともフォルティシモという上位者はいる。フォルティシモはマグナが奴隷たちを率いてダアトの商業に協力するのが利益となるか損益となるか考えて、マイナス要素がないのでマグナに命令が下るはずだった。

 今までなら。

 マグナは立ち上がって楽しげに皿洗いをしているキュウの元へ走る。

「キュウ、ちょっと話がある」
「え、マグさん? はい、何でしょうか?」
「実は、ダアトの奴と意見が割れてる」
「は、はい」

 キュウはマグナとダアトの争いに意見を求められていることに困惑している。

 【拠点】にほとんど居らず外で飛び回っているダアトと、ほぼ【拠点】から出ないマグナ。キュウと話す回数、当番が一緒になる回数、食事が一緒の回数、食後の歓談を共にする回数、それらは圧倒的にマグナのが多い。特にキュウは家事全般を担うつうを尊敬している節があり、つうに次いで【拠点】から出ないマグナも家事技能を持っている。感情面では確実に勝利している。

「ダアトは金のために私も奴隷を持って育てるように言うが、私はそんな事よりも、フォルさんたちのための武具を作る技術を高めるのに使うべきだと思うんだ」
「汚ねーーー!!」

 ダアトの絶叫、隣のラナリアは苦笑を超えて腹を抱えて笑っている。キュウはマグナの目を見て真剣に話を聞いている。

「キュウはどう思う?」
「え? わ、私ですか?」
「ああ、キュウがどう思うかだけ聞きたい」
「え、えっと、その、私は、ご主人様が使うものを優先して欲しいな、って思います」
「キュウならそう言うと思ってた。ありがとう」
「は、はい?」

 マグナは走ってキュウに襲い掛かろうとしたダアトを取り抑える。

「キュウは食器の片付けの途中だから邪魔しないで貰おうか」
「くそっ! マグがここまで手段を選ばないとは思わなかった!」
「ダアさん、私たちの負けですよ。今の言葉を聞いたキュウさんは、何を言っても説得できません。だから大人しく別の方法を探しましょう」

 ダアトがラナリアに説得される様子を眺めながら、じっとラナリアの表情を観察する。この新人は、ここまでも読み切っていたとしても不思議ではないほどに優秀だからだ。

 マグナはこの場に居ないエンシェント以外の、つうとセフェールの表情も確認してみる。つうは一連の遣り取りをいつものように微笑みで見つめていて、セフェールはこちらを見てもいなかった。ラナリアが定期的に最初の三人と会合を設けているのには気付いている。果たしてどこまで計画通りなのか、それを考えると頭が痛くなる。

「あの、マグさん」

 そんな時にキュウが洗い物の手を止めてマグナに話し掛けてきた。

「どうした?」
「今日は、お疲れ様でした。凄く格好良かったです。ご主人様と一緒に魅入っていました」

 一欠片も裏のない言葉を受けると、正直に言って悪い気はしない。

「見せて頂いてありがとうございました。とても勉強になりました」

 キュウがぺこりと頭を下げると、耳がピクピクと動いていて、綺麗な尻尾が目に入る。その姿を見ると、従者たちの中でマグナが最もフォルティシモに似せて作られたのだと確信してしまう。触りたい。勝手に触ったら、キュウは怒らないだろうがフォルティシモは怒るだろう。

「キュウ」
「はい?」
「楽しめたなら良かった。そうだ。キュウにはキュウだけのために場を用意するって約束してたな。あんな連中に教えたのとは違う、ちゃんとスキルや技術を教えてやる」
「あ、あの、でもそれはマグさんのご迷惑になるのでは」
「なるわけないだろう? なるなら最初から約束なんかしない。ダアトの願いみたいに、今後何ヶ月も何年も毎日毎日やり続けるものでもないしね」
「でしたらマグさんには、色々教えて貰いたいです」

 キュウの表情が明るくなると、マグナも釣られて笑みを浮かべてしまう。

「分かった。キュウが満足のいくまで、いくらでも教えてやる―――二人きりならちょっと触っても大丈夫だろう」

 このキュウとマグナの小さな約束が、アクロシアの鍛冶師たちの未来を変えることになるとは、この時は夢にも思わなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...