廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第四章

第百五十九話 北への指名依頼

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 その日、フォルティシモはアクロシア冒険者ギルドを訪れていた。キュウを連れて冒険者ギルドへ足を踏み入れると、周囲のギルド職員から冒険者、依頼者まで、それまでやっていた作業の手を止めてフォルティシモを注視している。すぐにギルドマスターが飛んで来て、すっかり慣れた応接室に案内された。

「ラナリアから聞いたんだが、何か指名依頼があるそうだな?」

 基本的に冒険者ギルドへの依頼は誰でも受けて良いものであるが、中には冒険者を指定する指名依頼も存在する。フリーランスや派遣に仕事を紹介する会社へ登録して請け負い、お客から気に入られて次回からは指名されて仕事を請けるようなものだ。

「もちろん、お前が天空の国の王だって説明もしたし、依頼を請けて貰えない可能性もあると伝えた。基本的にはお前への指名依頼は、冒険者ギルドとして断ってる。貴族や商人が、お前と顔繋ぎのためだけに馬鹿高い依頼料で、とんでもなく簡単な依頼を出して来るからだ」

 どんな指名依頼があったのか詳しく聞いてみたところ、断ってくれて礼を言いたくなる内容だった。アクロシア王都で買い物するから護衛をして欲しいとか、最弱モンスターブルスラのドロップアイテムであるスライムの破片の収集依頼とか、酷いものでは話を聞くのが依頼だったりする。それに平民の年収くらいの依頼料が支払われようとしていたのだ。

 ダアトなら喜び勇んで値段交渉を始めそうだが、フォルティシモはそういう依頼を請けるつもりはない。

「まあ、どうせ請けないから好きにして良いんだが、今回は事情があるって聞いたぞ。冒険者の依頼の領分を超えてるってことだとすると、どこかの国でも滅ぼせって依頼とかか?」
「あいにく国を攻め滅ぼして欲しいなんて依頼は無いし、受け付けない」

 冗談なので笑って欲しかったのだが、ギルドマスターは至極真面目な顔で返答した。今からでも冗談だと笑うべきか迷う。

「もしかして、聖マリア教からの指名依頼ではないでしょうか?」

 フォルティシモを見かねてか、キュウが口を挟んでくれたので、フォルティシモの冗談は有耶無耶になった。

 聖マリア教はファーアースオンラインの世界における最大の宗教で、世界の外側から来た女神を至高神として奉り、大陸各地で信者を獲得しているという設定だった。ファーアースオンライン時代では、プレイヤーの敵だったり味方だったりする。特にグランドクエストには何度も絡んできては頭の硬い宗教家っぷりを見せつけて、多くのプレイヤーのヘイトを稼いでいた。

 ちなみに【プリースト】系統のクラスは聖マリア教の神官である。そのためアクロシア大陸の医療は、聖マリア教が担っていると言っても過言ではない。宗教と医療を握った国家を超えた団体だと考えれば、指名依頼を断り辛いのも頷ける。

 質問したキュウもギルドマスターの態度に納得したようだった。それだけこの大陸における聖マリア教の威光は凄まじいものがあるらしい。

 フォルティシモはギルドマスターから差し出された依頼書を確認する。

 仕事の内容はありきたりなもので、大陸北部にある聖マリア教の総本山、サンタ・エズレル神殿へ向かう使節団の護衛依頼である。お偉いさん数名にお付たち、それを守るアクロシアの騎士たち。いつもなら騎士だけで賄える数だったが、立て続けに起きた国内の事件のせいで、使節団の護衛に回す戦力が不足。その埋め合わせとして冒険者ギルドに依頼が発行されたと言う、依頼元がしっかりしたものだ。

 依頼をした人物の名前も記載されているが、フォルティシモに心当たりはない―――のは当然なので、キュウに見て貰って、見知らぬ人物であると確認した。ギルドマスターの態度からすると、聖マリア教の中では有名人らしい。

「随分と冒険者の想定人数が多いな」
「お偉いさんだからな………お前に言うと変な感じだが」
「冒険者登録してるのは、俺とキュウだけだから、二人しかいないぞ」
「お前たちの人数も説明した。したんだが、その人数を譲らなかった」

 この指名依頼には冒険者の人数が指定されていた。護衛依頼なので護衛のローテーションを考えたら、ある程度の人数が必要なのは理解できる。

 フォルティシモの従者や孫従者を集めれば人数だけなら何人でも対応できるが、冒険者登録しているのは非常に少ない。

 このままではフォルティシモも指名依頼を請けられない。この指名依頼を出した者は余程の無能か馬鹿なのかと迷っていると、ギルドマスターが付け加えてくれる。

「お前の知り合いも一緒にってことだろう。あまり考えたくないが、<青翼の弓とオモダカ>を連れてこいって意味なのかもな。あいつらは、そのままじゃ請けないだろうが、お前と合同って言われたらやるしかねぇ」

 ギルドマスターの言う<青翼の弓とオモダカ>はカイルたちの冒険者パーティ名だ。カイル、デニス、エイダという同郷パーティ<青翼の弓>と、フィーナ、サリス、ノーラの幼馴染みパーティ<オモダカ>が合併してできたパーティで、カイルに名前を聞いた時はあまりにそのままのネーミングに、フォルティシモが名前を付けてやろうかと言った。遠慮されたが、フォルティシモだって二つをくっつけるだけよりは、良いネーミングセンスがあるはずだ。

 ギルドマスターは自分で<青翼の弓とオモダカ>の名前を出しておきながら、腕を組んで渋い顔をしていた。娘であるノーラとフォルティシモが関わるのが嫌なのかも知れない。フォルティシモが親だったら、フォルティシモみたいな男と愛娘が関わろうとしていたら止めるだろうから、何も文句は言えなかった。

 改めて依頼書の人数を見る。複数の冒険者パーティで、一つの依頼を請け負う合同受注を想定している。

 フォルティシモには合同受注を請けてくれる者など、<青翼の弓とオモダカ>以外に居ないだろうと煽っているのだろうか。ファーアースオンラインの頃は、よくソロであると煽られたものだ。

 だが相手の思惑は外れている。何せ今のフォルティシモには、誘える相手がいるのだ。なんと冒険者をやっている親友が一人いる。ゼロと比べたら、何億倍しても到達しない、有と無という絶対的な差のある数字だった。

「安心しろ。友人を呼ぶ」

 フォルティシモはピアノへクエストを一緒にやらないかという誘いのメッセージを送る。

『今、別の依頼を請けてるから、十日後なら良いぞ』

 フォルティシモはすべてを悟って無表情になり、ギルドマスターへ返事をする。

「俺にはその指名依頼は請けられない。けど、このクソみたいな指名依頼を出しやがった奴の顔を殴らせてくれ」

 人数制限クエストほど、クソ仕様はない。そんなに大人数が正しいのか。誘える友人が少ない者は悪なのか。一人で生きている者に何の落ち度があるのか。百人の友人全員の顔と名前を十年後に覚えていられるのか。そんな関係に何の価値があるのか。

「あ、あの、ご主人様」
「どうしたキュウ? キュウの知り合いに心当たりがあるなら、呼んでくれても良いぞ」

 キュウは冒険者にエルフにドワーフに、何だかんだと知り合いはフォルティシモよりも多くなっている気がする。

「エルミアさんたちが、ギルドに来たみたいです。エルミアさんたちなら、どうでしょうか?」

 誰かの思惑に乗せられているかのようなタイミングで、顔見知りの冒険者がギルドへ訪れたらしい。
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