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第四章
第百五十八話 プレイヤーたちの絶望
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安全地帯から安全地帯を移動し、何日も掛けて一つのダンジョンを攻略する。彼らはファーアースオンラインの頃では考えられない、本物の冒険をしていた。命を預け合い、全力で仲間を補助し、仲間のために戦う。リアルワールドにいたら絶対に至らなかった、本当の連帯感を感じる。
安全地帯で休んだり泊まる時は、これまでは滅多にしなかったプライベートの話で自然と盛り上がった。
あるギルド職員は、実は国内で誰もが知る大企業の会社受付を務めるようなOLで、アバターよりも本人の容姿のが美人なのだと豪語して笑いを誘った。美人ならデートや付き合いでゲームをやってる暇なんて無かっただろうと突っ込んだ仲間は、見事に彼女に殴られていた。
あるメンバーは、サーフィン大会の入賞者で、物理エンジンが最もリアルワールドに近いファーアースオンラインは、サーフィンのような気候によって練習が難しいスポーツ選手が意外とプレイしているのだと教えてくれた。あのゲームは本当に凄かったのを思い出させてくれる。
ある商人は、現代の開発からはすっかり取り残された田舎で、小さな商店を営んでいた。ゲームは昔からの趣味で、お金もない中で色々な場所を楽しみたかったらしい。異世界では、自分の足一つでどこまでも行ける行商人をしているのだと言う。
あるドワーフは、現代では珍しい刀工だったのだと教えてくれた。その彼が、異世界で本当に何かの命を奪う武器を作っていると聞いて、チームメンバーたちは暗くなりかけたが、もうすぐ子供が産まれると言うと、その話題一色となった。リアルワールドから異世界へ転移した自分たちでも、そこでの生活に適応し、子供を持つまでに至れる。それは紛れもない希望だった。
あるヒューマンは、何年も前のことを謝罪した。
あの日、あの時、彼に届いた一通のメール。あのメールに「いいえ」をタップしていれば、彼らが異世界へ転移して、何年もの間苦しむこともなかったはずなのだと。チームメンバーたちは、口々に彼を擁護してくれた。誰もあんなメール一つで、こんなにも人生が変わるなんて想像できなかったと。「はい」を押せと薦めたのは自分たちだと言ってくれた。思わず俯いて、零した涙が地面の雪を少し溶かす。
彼らにとっては危険な難易度のダンジョンを攻略している。それでも彼らに悲壮感はなかった。
チームメンバーが辿り着いたのはデーモンの男が教えてくれた、『樹氷連峰』の中でも少し低い谷間になっている一画に座する小さな祠だった。
樹氷がそこら中にある景色の中、注意して探さなければ見逃してしまいそうな、一メートル四方程度の石の祠だ。ファーアースオンラインの頃にこの祠があったのかどうかは、彼らには分からない。『樹氷連峰』にはそれは見事な樹氷の森を見に行った経験はあるけれど、詳しいマップなんて覚えているはずがない。
石を削って作ったのか形は褒められたものではないが、樹氷に囲まれた中にある石の祠は、趣深さを感じさせた。中央に子供でも入るのが難しそうな大きさの観音開きの扉が取り付けられており、不気味な模様の入った御札が一枚張られて閉じられている。
連峰の山々に囲まれた谷間のせいで、少しばかり薄暗い。そんな雰囲気も相まって、ここがホラースポットであれば中から怨霊でも出て来そうだった。ファーアースオンラインにもゲームには定番のアンデッド系が生息するダンジョンが存在していて、彼らはそれを肝試しに使ったりもしていたが、あれらはあくまでも作り物だった。しかしこの場所には、本当の不気味さがある気がする。
「えっと、これかな?」
「なんか御札とか貼ってあるけど、これで天空のプレイヤーを倒せるの?」
チームメンバーたちの何人かが、祠の周囲をぐるりと回って様子を確認した。
「ああ、この中には、使った瞬間にどんなプレイヤーも倒しちゃうような、即死ギミックのトリガーが入ってるらしい。火山ダンジョンの噴火とか、ユニティバベルの塔の時間制限とかみたいな」
厳密に言えば、彼らの言うそれらは即死ギミックではない。ギミックが発動しても強大なステータスを持つプレイヤーならある程度は耐えられるもので、トッププレイヤーたちからは何故攻略可能なように見えるギミックを作ったのか理解できないと言われたものだった。例えば、『浮遊大陸』の積乱雲から発射される光線のように。
もしもそれらを自由に使う方法があれば、彼らのような弱いプレイヤーでもトッププレイヤーを打倒できるだろう。それどころか、彼らこそが最強のプレイヤーになるかも知れない。ダンジョン内限定という情けない範囲では。
チームメンバーが顔を合わせて頷き合い、その中の一人が恐る恐る祠へ近付いて、御札を剥がした。
祠の中身を確認するためには、御札を剥がす必要があったので誰かがやらなければならない。何か嫌な予感がするからと止めたところで、天空のプレイヤーを倒す手段が必要なチームメンバーたちにとって、この祠を開けるのは絶対条件だった。
それでもこれであの悪鬼羅刹である天空のプレイヤーを倒す手段を得られたのだと考えたら、嫌な予感を吹き飛ばすくらいには祠の中身への期待が膨らむ。
祠の扉を開け、次の瞬間に彼らの情報ウィンドウに表示されたログを見るまでは。
> 【海淵の蒼麒麟】との戦闘が開始されました
祠の扉から周囲を塗りつぶす蒼い光が放たれる。光は小さな祠には収まりきれないと言わんばかりに、少しずつ祠に亀裂を入れて左右上下から漏れ出していく。そしてついには石の祠を破砕して、天高くへ昇った。
蒼い光が雪と共に降り注ぎ、谷間の暗闇を染め上げる。
蒼い光の中心に位置するのは、巨躯のモンスター。
海淵の蒼麒麟。
Lv:60000
それは最果ての黄金竜よりも後期に実装され、ある理由からファーアースオンライン最強のプレイヤーを最も苦しめたレイドボスモンスターだった。そんな巨大で強大なモンスターの瞳が、雪の上に尻餅を付いているプレイヤーたちを見下ろしている。
絶望が彼らへ襲い掛かろうとしていた。
安全地帯で休んだり泊まる時は、これまでは滅多にしなかったプライベートの話で自然と盛り上がった。
あるギルド職員は、実は国内で誰もが知る大企業の会社受付を務めるようなOLで、アバターよりも本人の容姿のが美人なのだと豪語して笑いを誘った。美人ならデートや付き合いでゲームをやってる暇なんて無かっただろうと突っ込んだ仲間は、見事に彼女に殴られていた。
あるメンバーは、サーフィン大会の入賞者で、物理エンジンが最もリアルワールドに近いファーアースオンラインは、サーフィンのような気候によって練習が難しいスポーツ選手が意外とプレイしているのだと教えてくれた。あのゲームは本当に凄かったのを思い出させてくれる。
ある商人は、現代の開発からはすっかり取り残された田舎で、小さな商店を営んでいた。ゲームは昔からの趣味で、お金もない中で色々な場所を楽しみたかったらしい。異世界では、自分の足一つでどこまでも行ける行商人をしているのだと言う。
あるドワーフは、現代では珍しい刀工だったのだと教えてくれた。その彼が、異世界で本当に何かの命を奪う武器を作っていると聞いて、チームメンバーたちは暗くなりかけたが、もうすぐ子供が産まれると言うと、その話題一色となった。リアルワールドから異世界へ転移した自分たちでも、そこでの生活に適応し、子供を持つまでに至れる。それは紛れもない希望だった。
あるヒューマンは、何年も前のことを謝罪した。
あの日、あの時、彼に届いた一通のメール。あのメールに「いいえ」をタップしていれば、彼らが異世界へ転移して、何年もの間苦しむこともなかったはずなのだと。チームメンバーたちは、口々に彼を擁護してくれた。誰もあんなメール一つで、こんなにも人生が変わるなんて想像できなかったと。「はい」を押せと薦めたのは自分たちだと言ってくれた。思わず俯いて、零した涙が地面の雪を少し溶かす。
彼らにとっては危険な難易度のダンジョンを攻略している。それでも彼らに悲壮感はなかった。
チームメンバーが辿り着いたのはデーモンの男が教えてくれた、『樹氷連峰』の中でも少し低い谷間になっている一画に座する小さな祠だった。
樹氷がそこら中にある景色の中、注意して探さなければ見逃してしまいそうな、一メートル四方程度の石の祠だ。ファーアースオンラインの頃にこの祠があったのかどうかは、彼らには分からない。『樹氷連峰』にはそれは見事な樹氷の森を見に行った経験はあるけれど、詳しいマップなんて覚えているはずがない。
石を削って作ったのか形は褒められたものではないが、樹氷に囲まれた中にある石の祠は、趣深さを感じさせた。中央に子供でも入るのが難しそうな大きさの観音開きの扉が取り付けられており、不気味な模様の入った御札が一枚張られて閉じられている。
連峰の山々に囲まれた谷間のせいで、少しばかり薄暗い。そんな雰囲気も相まって、ここがホラースポットであれば中から怨霊でも出て来そうだった。ファーアースオンラインにもゲームには定番のアンデッド系が生息するダンジョンが存在していて、彼らはそれを肝試しに使ったりもしていたが、あれらはあくまでも作り物だった。しかしこの場所には、本当の不気味さがある気がする。
「えっと、これかな?」
「なんか御札とか貼ってあるけど、これで天空のプレイヤーを倒せるの?」
チームメンバーたちの何人かが、祠の周囲をぐるりと回って様子を確認した。
「ああ、この中には、使った瞬間にどんなプレイヤーも倒しちゃうような、即死ギミックのトリガーが入ってるらしい。火山ダンジョンの噴火とか、ユニティバベルの塔の時間制限とかみたいな」
厳密に言えば、彼らの言うそれらは即死ギミックではない。ギミックが発動しても強大なステータスを持つプレイヤーならある程度は耐えられるもので、トッププレイヤーたちからは何故攻略可能なように見えるギミックを作ったのか理解できないと言われたものだった。例えば、『浮遊大陸』の積乱雲から発射される光線のように。
もしもそれらを自由に使う方法があれば、彼らのような弱いプレイヤーでもトッププレイヤーを打倒できるだろう。それどころか、彼らこそが最強のプレイヤーになるかも知れない。ダンジョン内限定という情けない範囲では。
チームメンバーが顔を合わせて頷き合い、その中の一人が恐る恐る祠へ近付いて、御札を剥がした。
祠の中身を確認するためには、御札を剥がす必要があったので誰かがやらなければならない。何か嫌な予感がするからと止めたところで、天空のプレイヤーを倒す手段が必要なチームメンバーたちにとって、この祠を開けるのは絶対条件だった。
それでもこれであの悪鬼羅刹である天空のプレイヤーを倒す手段を得られたのだと考えたら、嫌な予感を吹き飛ばすくらいには祠の中身への期待が膨らむ。
祠の扉を開け、次の瞬間に彼らの情報ウィンドウに表示されたログを見るまでは。
> 【海淵の蒼麒麟】との戦闘が開始されました
祠の扉から周囲を塗りつぶす蒼い光が放たれる。光は小さな祠には収まりきれないと言わんばかりに、少しずつ祠に亀裂を入れて左右上下から漏れ出していく。そしてついには石の祠を破砕して、天高くへ昇った。
蒼い光が雪と共に降り注ぎ、谷間の暗闇を染め上げる。
蒼い光の中心に位置するのは、巨躯のモンスター。
海淵の蒼麒麟。
Lv:60000
それは最果ての黄金竜よりも後期に実装され、ある理由からファーアースオンライン最強のプレイヤーを最も苦しめたレイドボスモンスターだった。そんな巨大で強大なモンスターの瞳が、雪の上に尻餅を付いているプレイヤーたちを見下ろしている。
絶望が彼らへ襲い掛かろうとしていた。
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