廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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第五章

第二百十五話 不意の遭遇

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「なんだ、この気持ち悪い奴は!」

 フォルティシモはカリオンドル皇帝と蠅人間を見比べる。

 蠅人間はアンチチートと言葉にした。推測だが蠅人間はチートに対抗する存在で、チートツールを使っていたカリオンドル皇帝を殺しに来たのではないだろうか。

 だが、カリオンドル皇帝には絶対に尋問しなければならない。異世界ファーアースで、神戯でチートツールを使うなんて、どうやって実現したのかを。

「おい、さっきの座標書き換えを使って遠くへ逃げろ」
「で、できん」
「何言ってんだ」
「あ、あれは視界内を自在に移動するものだっ」
「阿呆か。違う、位置情報を書き換えてるんだ。どこへでも行ける。早くしろ!」

 蠅人間が動き出した。こちらの逃走意思を読み取ったのか、指のない腕を突き出してくる。

物質マテリア防御ディフェンサ!」

 フォルティシモの作り出した光の壁と蠅人間がぶつかり合う。火花を散らすエフェクトが発生し、蠅人間は光の壁を押し退けようとしている。

「くっ、嘘だろ」

 フォルティシモは少しの驚きを覚えた。蠅人間の殴り攻撃を【障壁】スキルで防いでいるが、予想以上にMPの消費が早い。蠅人間はフォルティシモのカンストした【障壁】スキルを、充分な攻撃力を以て削っている。

 この蠅人間、信じたくはないが海淵の蒼麒麟以上の攻撃力を持っていた。海淵の蒼麒麟はその攻撃が超広範囲だったり海中ギミックなどがあるので、蠅人間のが強力なモンスターだとは一概に言えないものの、少なくともフィールドボスやダンジョンボスの強さではない。

 フォルティシモが拳を振るうと、蠅人間はそれに合わせる。二人の拳がぶつかり合い、衝撃波で周囲の地面が吹き飛んだ。

 三、四、五と打ち合う。

「こいつ!」

 フォルティシモはムキになって拳の速度を上げ、蠅人間の頭、胸、腰、肩を次々と打ち抜く。フォルティシモの拳を受けて、連続で打ち抜ける程度には耐えている。それどころか反撃までしてきた。

 クロスカウンター気味に入った一発が、フォルティシモのHPを削った。

 それはフォルティシモのHPから比べれば、ほんの僅かなポイントだった。しかしバランスブレイカー【魔王】にして廃課金によって極めた最強のフォルティシモのAGIに対抗し、DEFを貫いてHPへダメージを与えた意味は大きい。この異世界ファーアースでフォルティシモのHPを削ったのは、最果ての黄金竜だけだ。

 エルフやラナリアの親衛隊は当然として、フォルティシモの従者でさえ戦闘系以外はこいつを倒せない。いや下手をすればアルティマ以外は、ステータスで押し切られてしまうかも知れない。

「おい! 早く逃げろと言っているだろ!」
「だ、だが!」

 フォルティシモがチーターを見逃してやると言っているのに、まごついているカリオンドル皇帝に苛立ちが募る。

 蠅人間の殺意は、カリオンドル皇帝へ向かっている。蠅人間がアンチチートシステムの塊なのであれば、カリオンドル皇帝のHPチートが意味をなすとは思えない。もしかしたら座標書き換えチートも封じられてしまっている可能性もある。

 フォルティシモは蠅人間との打ち合いをしながらも、インベントリから望郷の鍵を取り出して、カリオンドル皇帝へ向かって放り投げた。

「使え!」

 カリオンドル皇帝が望郷の鍵を使うと、彼の姿が消えていった。

 フォルティシモは蠅人間と対峙する。蠅人間は得物を失ったせいか、先ほどまでの気勢を削がれているようだった。

「神様を名乗る神戯の主催者側でも、チートは困るようだな。どうやってチートツールを手に入れたのか、どうしても聞く必要がありそうだ」

 フォルティシモはアンチチートシステムと戦うなんて初めてだなと思いながら、魔王剣を取り出し構えを取る。

 しかし次の瞬間、最悪の連絡が入った。

 連絡をしてきたのは、つう。こちらの状況も聞かない、一方的な連絡だった。

『フォル、落ち着いて聞きなさい―――』

 その内容は。

「―――キュウが、攫われた?」

 他のプレイヤーが攻めて来る可能性があるのだから、こんな時にキュウが外出しているはずがない。キュウには申し訳ないけれど、戦いが終わるまでは【拠点】で待っていてくれと言ってあるし、キュウも了承してくれた。キュウがフォルティシモとの約束を破って出掛けたとは考えられない。

 そんなフォルティシモの【拠点】に居るはずのキュウは、カリオンドル皇国に向かったらしい。

 攫った者の名は、女神マリアステラ。

 フォルティシモの【拠点】へシステムの法則を破って侵入し、キュウを攫って行ったのだと言う。

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 フォルティシモは目の前の敵を怒りに任せて滅殺した。



 ◇



 天空の王フォルティシモから恵んで貰った望郷の鍵を使ったカリオンドル皇帝は、自分がカリオンドル皇城の皇帝の間に座り込んでいることに気が付いた。

 先ほどまでの出来事は夢か幻か。初代皇帝の遺産を使った最強の存在であるカリオンドル皇帝が手も足も出なかった。初代皇妃の獅子神の祝福を世界に展開する御技を使っても、奴はそれを破壊してしまった。

 奴は強かった。強すぎた。恐怖の化身、魔王だった。どんな存在も敵わないのではないかと思う。最強を体現するかのような存在。

 カリオンドル皇帝は飾られている初代皇帝の絵を見上げる。灰色の髪に銀の瞳をした神々しい存在。カリオンドル皇国にとって絶対である初代皇帝。

 そんな初代皇帝でさえあの魔王には―――。

 そう思ってしまったら、カリオンドル皇帝の芯となっている誇りが折れたのを感じる。身体が震えて仕方がない。奴はカリオンドル皇帝を救った。いつでも殺せると思われたからだ。それは事実だった。カリオンドル皇帝が何をやっても、あの魔王には傷一つ与えられる気がしない。怖い。恐ろしい。あの天空の、魔王が。

 そんな時、皇帝の間に人影が現れる。

「誰も通すなと言ったはずだ!」

 カリオンドル皇帝は【威圧】スキルを使って怒鳴った。これを使えば、耐性のない人間は立っていることもままならなくなる。【威圧】スキルは大陸の人間では習得もできないスキルで、これもカリオンドル皇帝が初代皇帝から引き継いだ力の一つだ。

 それにも関わらず、人影は姿を現した。

 人影は二つ。

 一つは見覚えのない羊人族の女。思い出そうとしたが、すぐに気にならなくなった。その理由はもう一つの人影にある。

 第二皇女ルナーリスだった。

 カリオンドル皇帝は歓喜に震えた。この自分の娘を殺せば、自分は絶対的な力を手にすることになる。クレシェンドも、アーサーも、あの恐るべき力を持つおよそ世界の誰も敵わないと思わせる天空の魔王も、何もかもを越えた存在に至れる。

 初代皇帝、竜神初代皇妃、獅子神初代皇妃、三つの力を得た時、神戯の勝者となる資格を得る。さすればこの神戯に参加する誰にも敗北しない。その確信があった。

「おお、おおおおおお! よくやった! こやつをよく我の前に差し出した! これで我は世界の支配者となる! あの天空の魔王を倒せるのだ!」

 雪のように白い髪の下にある、氷のように冷たい瞳がカリオンドル皇帝を見つめている。
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