353 / 509
第七章
第三百五十二話 太陽神の神威 後編
しおりを挟む
『ご主人様、セフェさん!』
キュウの声が聞こえた瞬間、フォルティシモの脳内にフラッシュバックのようなイメージが走った。太陽神がイベントダンジョン『ユニティバベル』ごと、元クレシェンドの肉体である巨大亜量子コンピュータを消し去ろうとしている。
それはフォルティシモが神戯の勝利条件を達成したため、知覚が人間を超えたせいか。危機に瀕することでキュウの聞く能力が伝える能力へ進化したのか。その両方かは分からない。
だがフォルティシモは、逃げる訳にはいかなかった。
巨大亜量子コンピュータにはセフェールをインストールしていて、そこにはセフェールの魂が入っている。システム的に今の巨大亜量子コンピュータはアイテムではなく従者なので、インベントリに入れて動かすようなことはできない。それに拠点帰還用アイテム望郷の鍵などで瞬間移動できたとしても、移動先がない。こんなものを動かせる設備は、異世界ファーアースにはこの部屋しかない。
フォルティシモは家族を見捨てない。それだけは絶対だ。
急いで拠点攻防戦の勝利までは連絡を控えていた狐の神タマへ音声チャットを繋ぐ。
「タマ! 太陽神の攻撃方法を教えろ!」
『緊急事態かえ? 攻撃は許されていないゆえ、神威の発現だろう』
「どっちでも同じだ! 何をしてくる!?」
『言葉の通りだ。その領域に太陽が現れると考えよ』
太陽の温度は千六百万度、そんなものが地上に現れたら、その瞬間にすべてが滅びる。
それはもはや戦いにさえならない力だ。かつて地上最高の亜量子コンピュータのAIとして神戯に参加したクレシェンドも、人類に革命をもたらした天才近衛天翔王光も、太陽神にはついぞ届かなかった。
出現するだけで、地上のあらゆる生物を焼き尽くす太陽の神。
『この世界、ファーアースはMAPの概念で区切られているゆえ、影響があるのはそのMAPだけだ』
「何の役にも立たない慰めだな」
『わてはフォルティシモは最強だと聞いたが?』
「フォルティシモは最強だ」
フォルティシモはいつものように返答したものの、それは間違いなく強がりだった。
『ユニティバベル』の最上階の部屋は目も開けるのも辛いほどの光に包まれ、肌が焼けるような温度へと上昇していく。
「考える時間くらい寄越せ! 識域・最大・氷結!」
とにかく何よりも温度に対抗しようと思いスキルを発動する。
『焼け石に水ってぇ、まさにこの状況ですねぇ。クラクラしてきましたぁ』
「AIがめまいを起こしてどうする!」
フォルティシモはセフェールのAIらしからぬ言葉にツッコミを入れながらも、高温と焦燥感から滝のような汗が流れるのを止められなかった。
太陽神と戦う準備はして来ている。今ここで【神殺し】を持つキュウを呼び出して、太陽神と戦うか。
しかしそれは危険過ぎる。ここまで有り得ない特性を持っているなんて情報はなかった。海淵の蒼麒麟の海中戦闘なんて可愛く思える。太陽の中で戦うなんて想定外も良いところだ。
そして徐々に姿を現そうとする太陽に対抗しようにも時間がなさすぎる。今までずっとフォルティシモの味方だった時間が、今は圧倒的に足りない。
フォルティシモが覚悟を決めようかと思った時、自分でもどうかと思う閃きが走った。
フォルティシモはインベントリから、光子メモリを取り出す。カリオンドル皇国の初代皇帝の墓所で見つかった、近衛天翔王光がフォルティシモへ遺したもの。現代リアルワールドで使われている記憶媒体は、少しずつだが解析を進めていた。
しかし読み込むためのコンピュータがないため、量子ビットを一つ一つ解析する必要がある。一昔前で言えば機械語を人間の理解できる言語に翻訳する作業だ。例えば『11100011 10000011 10010101 11100011 10000010 10100001 11100011 10000011 10111100 11100011 10000010 10100010 11100011 10000011 10111100 11100011 10000010 10111001』は『ファーアース』となる翻訳を手作業で行う必要がある。解析は難航を極めていた。
それに対して、今、目の前に巨大亜量子コンピュータがある。光子メモリをこれに差し込めば、手作業の解析なんてせずに内容を見ることが可能だ。
「セフェ、ここまでの解析結果から、おおまかな中身の予想は付いている。だが、もし、もし爺さんがウイルスを仕込んでいたら大変なことになる。具体的には俺の抹殺リストに爺さんが載る」
『もう時間がないのでぇ、やってくださいぃ』
フォルティシモは光子メモリを巨大亜量子コンピュータへ差し込んだ。セフェールが超々高速で内容を読み出す。
『やはりこれはぁ。異世界ファーアースのソースコードですねぇ』
「………そうか」
オウコーの遺産光子メモリの内容は、VRMMOファーアースオンラインではなく異世界で開催されている神戯のソースコード。
オウコーは、現実を解析してVR空間を作成したように、女神の創った法則『異世界ファーアース』を人間が読み取れる文字に翻訳したのだ。
『これならぁ、フォルさんの権能と合わせてぇ、この部屋の座標を書き換えられるかも知れませんよぉ』
「いいから全部見せろ!」
フォルティシモの周囲に数百枚の情報ウィンドウが表示されると、フォルティシモはそれらを俯瞰しながら詳細まで確認していく。神戯の勝利者へなったことで、AGIやINTがフォルティシモの感覚や脳にまで影響を与えていると思える速度だった。
そして新しいスキル設定を完成させる。
「識域・自在・移動」
フォルティシモはこの部屋ごと、自分とセフェールを空間転移させる。
行くべき場所は拠点攻防戦が始まる前に狐の神タマが教えてくれた。太陽の届かない地下だ。
キュウの声が聞こえた瞬間、フォルティシモの脳内にフラッシュバックのようなイメージが走った。太陽神がイベントダンジョン『ユニティバベル』ごと、元クレシェンドの肉体である巨大亜量子コンピュータを消し去ろうとしている。
それはフォルティシモが神戯の勝利条件を達成したため、知覚が人間を超えたせいか。危機に瀕することでキュウの聞く能力が伝える能力へ進化したのか。その両方かは分からない。
だがフォルティシモは、逃げる訳にはいかなかった。
巨大亜量子コンピュータにはセフェールをインストールしていて、そこにはセフェールの魂が入っている。システム的に今の巨大亜量子コンピュータはアイテムではなく従者なので、インベントリに入れて動かすようなことはできない。それに拠点帰還用アイテム望郷の鍵などで瞬間移動できたとしても、移動先がない。こんなものを動かせる設備は、異世界ファーアースにはこの部屋しかない。
フォルティシモは家族を見捨てない。それだけは絶対だ。
急いで拠点攻防戦の勝利までは連絡を控えていた狐の神タマへ音声チャットを繋ぐ。
「タマ! 太陽神の攻撃方法を教えろ!」
『緊急事態かえ? 攻撃は許されていないゆえ、神威の発現だろう』
「どっちでも同じだ! 何をしてくる!?」
『言葉の通りだ。その領域に太陽が現れると考えよ』
太陽の温度は千六百万度、そんなものが地上に現れたら、その瞬間にすべてが滅びる。
それはもはや戦いにさえならない力だ。かつて地上最高の亜量子コンピュータのAIとして神戯に参加したクレシェンドも、人類に革命をもたらした天才近衛天翔王光も、太陽神にはついぞ届かなかった。
出現するだけで、地上のあらゆる生物を焼き尽くす太陽の神。
『この世界、ファーアースはMAPの概念で区切られているゆえ、影響があるのはそのMAPだけだ』
「何の役にも立たない慰めだな」
『わてはフォルティシモは最強だと聞いたが?』
「フォルティシモは最強だ」
フォルティシモはいつものように返答したものの、それは間違いなく強がりだった。
『ユニティバベル』の最上階の部屋は目も開けるのも辛いほどの光に包まれ、肌が焼けるような温度へと上昇していく。
「考える時間くらい寄越せ! 識域・最大・氷結!」
とにかく何よりも温度に対抗しようと思いスキルを発動する。
『焼け石に水ってぇ、まさにこの状況ですねぇ。クラクラしてきましたぁ』
「AIがめまいを起こしてどうする!」
フォルティシモはセフェールのAIらしからぬ言葉にツッコミを入れながらも、高温と焦燥感から滝のような汗が流れるのを止められなかった。
太陽神と戦う準備はして来ている。今ここで【神殺し】を持つキュウを呼び出して、太陽神と戦うか。
しかしそれは危険過ぎる。ここまで有り得ない特性を持っているなんて情報はなかった。海淵の蒼麒麟の海中戦闘なんて可愛く思える。太陽の中で戦うなんて想定外も良いところだ。
そして徐々に姿を現そうとする太陽に対抗しようにも時間がなさすぎる。今までずっとフォルティシモの味方だった時間が、今は圧倒的に足りない。
フォルティシモが覚悟を決めようかと思った時、自分でもどうかと思う閃きが走った。
フォルティシモはインベントリから、光子メモリを取り出す。カリオンドル皇国の初代皇帝の墓所で見つかった、近衛天翔王光がフォルティシモへ遺したもの。現代リアルワールドで使われている記憶媒体は、少しずつだが解析を進めていた。
しかし読み込むためのコンピュータがないため、量子ビットを一つ一つ解析する必要がある。一昔前で言えば機械語を人間の理解できる言語に翻訳する作業だ。例えば『11100011 10000011 10010101 11100011 10000010 10100001 11100011 10000011 10111100 11100011 10000010 10100010 11100011 10000011 10111100 11100011 10000010 10111001』は『ファーアース』となる翻訳を手作業で行う必要がある。解析は難航を極めていた。
それに対して、今、目の前に巨大亜量子コンピュータがある。光子メモリをこれに差し込めば、手作業の解析なんてせずに内容を見ることが可能だ。
「セフェ、ここまでの解析結果から、おおまかな中身の予想は付いている。だが、もし、もし爺さんがウイルスを仕込んでいたら大変なことになる。具体的には俺の抹殺リストに爺さんが載る」
『もう時間がないのでぇ、やってくださいぃ』
フォルティシモは光子メモリを巨大亜量子コンピュータへ差し込んだ。セフェールが超々高速で内容を読み出す。
『やはりこれはぁ。異世界ファーアースのソースコードですねぇ』
「………そうか」
オウコーの遺産光子メモリの内容は、VRMMOファーアースオンラインではなく異世界で開催されている神戯のソースコード。
オウコーは、現実を解析してVR空間を作成したように、女神の創った法則『異世界ファーアース』を人間が読み取れる文字に翻訳したのだ。
『これならぁ、フォルさんの権能と合わせてぇ、この部屋の座標を書き換えられるかも知れませんよぉ』
「いいから全部見せろ!」
フォルティシモの周囲に数百枚の情報ウィンドウが表示されると、フォルティシモはそれらを俯瞰しながら詳細まで確認していく。神戯の勝利者へなったことで、AGIやINTがフォルティシモの感覚や脳にまで影響を与えていると思える速度だった。
そして新しいスキル設定を完成させる。
「識域・自在・移動」
フォルティシモはこの部屋ごと、自分とセフェールを空間転移させる。
行くべき場所は拠点攻防戦が始まる前に狐の神タマが教えてくれた。太陽の届かない地下だ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
正しい聖女さまのつくりかた
みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。
同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。
一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」
そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた!
果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。
聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる