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アフターストーリー
第五百五話 許すとは言っていない 後編
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フォルティシモとゼノフォーブフィリアは、再びコンピューターの腹の中のような社長室へやって来ていた。今度はキュウもエンシェントも同席しておらず、正真正銘の二人きりである。
フォルティシモは消えてしまった時間であったように、社長室でソファをインベントリから取り出して、今度は一人で腰掛けた。座った感触がなんだか納得いかず、何度も座る位置を変える。
やはり二人用のソファだな、と思っているとゼノフォーブフィリアが何かをコンピューターへ入力している姿が眼に入った。
半透明なディスプレイが彼女の前に浮かび、そこにはびっしりとプログラムのコードが書かれている。
そのコードは文字通り次元が違う。世界的企業ヘルメス・トリスメギストス社のCEOは、VRダイバーの開発者でもある。彼女こそがVR世界の創造主。現代リアルワールドを席巻した世界最高のプログラマー。
フォルティシモが魔王のコードの使い手なら、ゼノフォーブフィリアは神のコードを記述する。
誤解を恐れずに言えば、近衛翔はヘルメス・トリスメギストス社の代表に憧れていた。何を隠そうフォルティシモが異世界ファーアースへ転移した時、最初に思い浮かべた人物は彼女なのだ。その時は彼だと思っていたが。
「近衛翔としては尊敬しているが、フォルティシモとしては認められないジレンマが、お前に分かるか?」
「分からないな。そんなことを二人きりになってまで聞きたかったのか?」
ゼノフォーブフィリアは本気で嫌な表情をフォルティシモへ向けていた。
逆にフォルティシモは誰にも見せたことのない表情を向けているはずだ。
「違う」
「だったら話したいのはなんだ?」
フォルティシモはゼノフォーブフィリアの姿を確認する。小さな体躯に不釣り合いな長い髪、真紅の瞳に綺麗すぎる肌は幻想的で、どう見ても人間ではなかった。ゼノフォーブはゼノフィリアと比べても、神や魔法の世界の生物に近い。
「お前に聞きたいことがある」
「だからそれを話せ」
「あるんだが」
フォルティシモは思わず言い淀んでしまう。これから尋ねる話は、フォルティシモの行動を変えてしまうかも知れないからだった。
「そう、あれだ。ゼノフォーブは、なんでこんな世界を創ったんだ?」
「あからさまに今考えた話題だな。こんなとは?」
「リアルワールドは、クソみたいな世界だろ?」
フォルティシモの知る現代リアルワールドは、努力は実らない、産まれは選べない、才能は開かない、人は老いて衰え、死者は蘇らない。フォルティシモは悲劇に塗れた世界を創造した神様のことが、大嫌いだった。
「敢えて言語化するのであれば、“始まり”はすべての原初だが、ゆえに人間より創出した概念は包括しない。相似の世界を進めていけば、その意志へ辿り着ける。その時に吾らの犯したものが到達か罪かの答えが出るだろう」
「なるほどな」
フォルティシモは理解できないということを理解した。
「お前、世界最高の企業の代表なんだろ。他人と話す時は理解して貰おうとは思わないのか。もっと“俺”に分かり易く話せ」
「最後の一言がなければ、納得できるのだがな。しかし要望通りに分かり易く言ってやろう。其方には関係ないから、知ったところでどうでも良い話。他人の家庭の話に口を挟むな。いいから其方は、密談したい内容を言え、だ」
「今のは前段だ。お前が、単純に人間の世界がどうのという目的で動いていないという確認でしかない」
フォルティシモは深呼吸をする。
何度もゼノフォーブフィリアの頭からつま先までを繰り返し見た。
ゼノフォーブフィリアが苛立っているのが分かる。
意を決した。
「キュウを産み出したのは、お前なのか?」
これがフォルティシモが従者たちから離れてまで、ゼノフォーブフィリアと二人きりになった理由である。
ゼノフォーブフィリアが黙って目を細める。それは答えを言っているようなものだった。
「どうしてそう思う?」
「サイは竜神のコピーだが、お前に産み出されたと言っていた。そしてサイは、他のレイドボスモンスターとまったく違う。意志の有無なんてつまらない理由だけじゃない。明らかに本物の神と同じ能力を持っている」
最果ての黄金竜サイは、自称竜神である。フォルティシモはそれが、異世界ファーアースという限定された神戯の中での能力だと思っていた。
しかしサイは現代リアルワールドで神と同じように信仰心エネルギーを集め、神と同じように存在を増幅させ、神の力で暴れ回った。
ゼノフォーブフィリアがやったのは、人間の脳をすべてスキャンしてAI化する魂のアルゴリズムとは似て非なる技術。
神の複製だ。
「それからファーアースオンラインだ。あのゲームはヘルメス・トリスメギストス社から技術協力を受けていた。釈迦に説法ってのを味わう気分だが、爺さんやクレシェンドを超えるエンジニアとしての腕を持ち、ファーアースオンラインへ仕込める立場はお前しかいない」
認めたくはないがゼノフォーブフィリアの技術力は、誰にも追随を許さない神のレベルにある。
「まだあるぞ。タマだ。こいつの本名は………忘れたが。タマはキュウの元となった狐の神だ。<星>に所属していながら、太陽神を倒す目的を持っていた。マリアステラを追い出したい、お前と協力できる理由だ」
全視であるマリアステラが腹に一物あるタマを選んだのは、友人ゼノフォーブフィリアの推薦の可能性。
「何よりもだ。キュウの能力は、マリアステラに似すぎてる」
そしてほとんど決定的な理由。
「これは俺の予想だ。お前は、マリアステラの神の因子のようなものを解析して、タマのコピーへ埋め込んだんじゃないのか? キュウが奇跡のような確率で産まれた突然変異だったとして、マリアステラの能力に近いのは、変だろ。マリアステラがキュウとだけ融合できて、お前とはできないのも怪しい」
フォルティシモは不気味なほどに何も言わないゼノフォーブフィリアへ続ける。
「マリアステラの親友として、最も近くに居たお前にしかできないんじゃないのか?」
そこでようやくゼノフォーブフィリアが口を開いた。
「だったら、どうする?」
肯定も否定もせず質問に質問を返すゼノフォーブフィリア。
「結婚式に呼んでやる」
「………………………………ハァ?」
ゼノフォーブフィリアはたっぷりと間を置いて、天井を見て、再びフォルティシモへ視線を戻す。フォルティシモはとても分かり易く伝えてやったのに、理解できないらしい。
「タマが居ないから、キュウの母親役をしてくれ。俺もキュウも、格式ばったのは嫌いだし、あまり騒がしいのも好きじゃない。身内だけを呼んで、最高に豪華にやるつもりだ」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待て」
「どうした?」
「まさかとは思うが、結婚式の準備をしている話をキュウに聞かれたくないから、ここで密談しようとしたんじゃないだろうな?」
「そうだが?」
「はぁ………いつだ?」
「まだプロポーズもしてないが?」
「もう吾の世界からさっさと出て行け!」
フォルティシモとゼノフォーブフィリアは密談を終えて会議室へ戻っていった。
「つまり、キュウさんは、神に遊戯のために造られた人でありながら、魔王フォルティシモと出会い、共に戦い成長していき、太陽の神を追い詰めるに到ったと!? 凄すぎる! どうですか!? ルー・タイムズから自伝を出しませんか!? ライターは是非私が!」
会議室では文屋一心がキュウに詰め寄るように話をしていた。
「自在・瞬間・移動」
フォルティシモは瞬間移動を発動。キュウを守るようにして抱き寄せた。
キュウは未来聴によって、フォルティシモの行動を聴いていたのだろう。まったく驚くことなくフォルティシモの瞬間移動からの抱き締めに身を預けてくれた。キュウが迷い無く全身を任せてくれたのが嬉しくて、キュウの耳へ頬ずりする。
「キュウ、遅れて悪かった」
「遅れ? えっと、ゼノフォーブフィリア様とのお話は終わったのでしょうか?」
「何をするんですか、魔王フォルティシモ! 今、私の取材中ですよ!」
文屋一心がフォルティシモを指差して大声で叫ぶ。
「どうなってるマリアステラ? 俺が席を外す間、キュウを守ると約束しただろ」
「キュウは楽しそうに魔王様との思い出を話してたよ」
腕の中のキュウを確認する。キュウは傷付いてもいないし、怯えた様子もない。尻尾をさわさわする。尻尾がくるりと動いた。いつものキュウの尻尾だった。マリアステラは嘘を吐いていないらしい。
「ちょ、ちょっと、キュウさん、触られてますよ!? なんで人の身体をベタベタ触っているんですか! セクハラ! セクハラ!」
「いえ、私はご主人様に触られるのが嫌では―――」
「あの時も言いましたけど、ご主人様呼びって! それって仲間としても、男としても、人間としても最低じゃないですか! 断固抗議します! 抗議の記事を書きます!」
フォルティシモは夜の都心で文屋一心の指摘に戸惑ってしまったが、今は違う。キュウはフォルティシモの腕の中に居て、フォルティシモへ全身を預けてくれていた。冷静に考えれば心が通じ合っている。
なら間違っているのは文屋一心。ご主人様呼びとか、敬語の関係とか、フォルティシモの時も場所も厭わない尻尾触りとか、何を言われても他人に入り込む余地はない。フォルティシモとキュウの信頼関係である。
「閃光・束縛」
「ぐああぁっ!? 痛、くはないけど、なんですかこれ!?」
まあ、いきなり抹殺するのは我慢した。代わりにフォルティシモの足下から出現した光の腕が、文屋一心をアイアンクローで拘束する。文屋一心は手足をバタバタさせて抵抗していたけれど、戦闘能力を一切持たない文屋一心では逃れる術はない。
意に沿わない相手をPKしないなんて、フォルティシモは成長している。
「【拘束】スキルだ。本当は俺のために働いて貰おうかと思ったが、ちょっと迷ってきたな。お前を自由にさせたら、アーサーやサイとは比較にならない何かをしでかす気がしてきた」
「ナイス! 最強の神! その小姑を亡き者にして!」
勝利の女神ヴィカヴィクトリアから謎の応援が入った。フォルティシモが引き取らない場合は、ゼノフォーブフィリアが記憶処理と権能封印をして元の生活へ戻すだけだ。亡き者にはならない。
視線だけで確認すると、ゼノフォーブフィリアはどちらでも良いというスタンス。先ほどの二人きりの密談のお陰で、彼女との関係が良好になったと思う。
「図星を付かれて実力行使! 人間性が表れてますね! あ、いえ神様だから神性? どっちにしてもこれがこの男の本性ですよ、キュウさん!」
「いつものご主人様ではないでしょうか」
「これで!? アサ兄よりヤバイんじゃないですか!?」
「えっと、ご主人様にはご主人様のお考えがありまして」
「キュウさん、あなたはマインドコントロールされてますよ!」
フォルティシモが本気でどうしようか迷っていると、意外な方向から声が掛かった。
「お待ち下さいませ、偉大なる神々よ!」
割り込んで来たのは、ゼノフォーブフィリアが同席させていた黒スーツの男だった。唐突に言葉を発した黒スーツの男に対して、ゼノフォーブフィリアが睨みを利かせる。
「吾が其方らを同席させたのは、状況を伝えるためだ。発言は許可していない」
「ぜーはお前らを守るために、そう言ってるんだよ。発言しなければ、私や魔王様に睨まれることもないからね。今もほら、発言したから魔王様の視界に入っちゃった」
「偉大なる御神のご配慮は恐悦至極に存じます。しかし、我の竜神としての誇りを賭けて、発言をお許し頂きたい!」
フォルティシモは黒スーツの男を確認する。
「そもそも誰だあいつ?」
フォルティシモは口を挟んだ黒スーツの男が何者かが気になって、誰へと言わず疑問を口にした。
「床から生えた手によるアイアンクローのせいで前が見えませんが、声からして内閣情報調査室の偉い人ですね。サイ様と同じ竜神だって言ってました」
意外にも文屋一心が答えてくれる。
「ゼノフォーブのところの竜神ということは、ディアナと同じか」
「ディアナって、近衛天翔王光の後妻のアルビノ美人ですね? 魔王フォルティシモの手先で、近衛翔から遺産を奪おうとしてる………あれ? でも魔王フォルティシモは近衛翔で、じゃああのアルビノ美人は、一体!?」
「爺さんの後妻で合ってる。ディアナは俺の手先じゃなくて、協力者ってところだが」
「なるほど。ちょうど編集長から記事を書くように言われてるので、取材のセッティングをお願いします。その時は近衛翔として同席をして貰うので、コメントの準備もしておいてくださいね。それからディアナさんの連絡先を教えてください」
「ここまで来ると感心してきたぞ」
「ええ、取材は得意です」
文屋一心の言葉はアイアンクローを受けているのに滑舌も良く聞き取りやすい。こんなくだらないところでも才能の片鱗が見えてイラッとする。
その間にもゼノフォーブフィリアと黒スーツの男の話は進んでいた。
「恐れながら、我はこの者に命を救われました。この者の身柄、どうか我に預けて頂けないでしょうか」
「どうしてこう、竜神は問題を起こそうとする? 竜神の誇りを標榜するのであれば、其方らを住まわせている吾の考えを尊重して欲しいものだな」
「あ、魔王様は事情が分からないよね? 私が教えてあげる」
マリアステラがフォルティシモと腕を組もうとして来たので振り払った。
「かつて<竜>は、私の<星>へ挑んで来た。愚かにも星を墜とせると考えたんだけど、私があいつらに敗北するはずもない。だからその戦いは、私たちの勝ち。でも<竜>は、それを認められず、<星>の住人を殺戮し始めたんだ。だから私は、こう命令するしかなかった。“竜を殲滅しろ”」
「何かの例え話か?」
「言葉通りに受け取ってくれて良いよ。そうして<竜>はあっという間に、その数を減らしていき、最後にはぜーの世界へ逃げ込んだ」
フォルティシモはゼノフォーブフィリアと黒スーツの男の話を横で聞きながら、マリアステラの話も頭に入れた。
そしてフォルティシモとして結論する。
「おい、ゼノフォーブ」
「なんだ、フォルティシモ?」
「アーサー妹だが………」
もちろん許すとは言わない。
フォルティシモは消えてしまった時間であったように、社長室でソファをインベントリから取り出して、今度は一人で腰掛けた。座った感触がなんだか納得いかず、何度も座る位置を変える。
やはり二人用のソファだな、と思っているとゼノフォーブフィリアが何かをコンピューターへ入力している姿が眼に入った。
半透明なディスプレイが彼女の前に浮かび、そこにはびっしりとプログラムのコードが書かれている。
そのコードは文字通り次元が違う。世界的企業ヘルメス・トリスメギストス社のCEOは、VRダイバーの開発者でもある。彼女こそがVR世界の創造主。現代リアルワールドを席巻した世界最高のプログラマー。
フォルティシモが魔王のコードの使い手なら、ゼノフォーブフィリアは神のコードを記述する。
誤解を恐れずに言えば、近衛翔はヘルメス・トリスメギストス社の代表に憧れていた。何を隠そうフォルティシモが異世界ファーアースへ転移した時、最初に思い浮かべた人物は彼女なのだ。その時は彼だと思っていたが。
「近衛翔としては尊敬しているが、フォルティシモとしては認められないジレンマが、お前に分かるか?」
「分からないな。そんなことを二人きりになってまで聞きたかったのか?」
ゼノフォーブフィリアは本気で嫌な表情をフォルティシモへ向けていた。
逆にフォルティシモは誰にも見せたことのない表情を向けているはずだ。
「違う」
「だったら話したいのはなんだ?」
フォルティシモはゼノフォーブフィリアの姿を確認する。小さな体躯に不釣り合いな長い髪、真紅の瞳に綺麗すぎる肌は幻想的で、どう見ても人間ではなかった。ゼノフォーブはゼノフィリアと比べても、神や魔法の世界の生物に近い。
「お前に聞きたいことがある」
「だからそれを話せ」
「あるんだが」
フォルティシモは思わず言い淀んでしまう。これから尋ねる話は、フォルティシモの行動を変えてしまうかも知れないからだった。
「そう、あれだ。ゼノフォーブは、なんでこんな世界を創ったんだ?」
「あからさまに今考えた話題だな。こんなとは?」
「リアルワールドは、クソみたいな世界だろ?」
フォルティシモの知る現代リアルワールドは、努力は実らない、産まれは選べない、才能は開かない、人は老いて衰え、死者は蘇らない。フォルティシモは悲劇に塗れた世界を創造した神様のことが、大嫌いだった。
「敢えて言語化するのであれば、“始まり”はすべての原初だが、ゆえに人間より創出した概念は包括しない。相似の世界を進めていけば、その意志へ辿り着ける。その時に吾らの犯したものが到達か罪かの答えが出るだろう」
「なるほどな」
フォルティシモは理解できないということを理解した。
「お前、世界最高の企業の代表なんだろ。他人と話す時は理解して貰おうとは思わないのか。もっと“俺”に分かり易く話せ」
「最後の一言がなければ、納得できるのだがな。しかし要望通りに分かり易く言ってやろう。其方には関係ないから、知ったところでどうでも良い話。他人の家庭の話に口を挟むな。いいから其方は、密談したい内容を言え、だ」
「今のは前段だ。お前が、単純に人間の世界がどうのという目的で動いていないという確認でしかない」
フォルティシモは深呼吸をする。
何度もゼノフォーブフィリアの頭からつま先までを繰り返し見た。
ゼノフォーブフィリアが苛立っているのが分かる。
意を決した。
「キュウを産み出したのは、お前なのか?」
これがフォルティシモが従者たちから離れてまで、ゼノフォーブフィリアと二人きりになった理由である。
ゼノフォーブフィリアが黙って目を細める。それは答えを言っているようなものだった。
「どうしてそう思う?」
「サイは竜神のコピーだが、お前に産み出されたと言っていた。そしてサイは、他のレイドボスモンスターとまったく違う。意志の有無なんてつまらない理由だけじゃない。明らかに本物の神と同じ能力を持っている」
最果ての黄金竜サイは、自称竜神である。フォルティシモはそれが、異世界ファーアースという限定された神戯の中での能力だと思っていた。
しかしサイは現代リアルワールドで神と同じように信仰心エネルギーを集め、神と同じように存在を増幅させ、神の力で暴れ回った。
ゼノフォーブフィリアがやったのは、人間の脳をすべてスキャンしてAI化する魂のアルゴリズムとは似て非なる技術。
神の複製だ。
「それからファーアースオンラインだ。あのゲームはヘルメス・トリスメギストス社から技術協力を受けていた。釈迦に説法ってのを味わう気分だが、爺さんやクレシェンドを超えるエンジニアとしての腕を持ち、ファーアースオンラインへ仕込める立場はお前しかいない」
認めたくはないがゼノフォーブフィリアの技術力は、誰にも追随を許さない神のレベルにある。
「まだあるぞ。タマだ。こいつの本名は………忘れたが。タマはキュウの元となった狐の神だ。<星>に所属していながら、太陽神を倒す目的を持っていた。マリアステラを追い出したい、お前と協力できる理由だ」
全視であるマリアステラが腹に一物あるタマを選んだのは、友人ゼノフォーブフィリアの推薦の可能性。
「何よりもだ。キュウの能力は、マリアステラに似すぎてる」
そしてほとんど決定的な理由。
「これは俺の予想だ。お前は、マリアステラの神の因子のようなものを解析して、タマのコピーへ埋め込んだんじゃないのか? キュウが奇跡のような確率で産まれた突然変異だったとして、マリアステラの能力に近いのは、変だろ。マリアステラがキュウとだけ融合できて、お前とはできないのも怪しい」
フォルティシモは不気味なほどに何も言わないゼノフォーブフィリアへ続ける。
「マリアステラの親友として、最も近くに居たお前にしかできないんじゃないのか?」
そこでようやくゼノフォーブフィリアが口を開いた。
「だったら、どうする?」
肯定も否定もせず質問に質問を返すゼノフォーブフィリア。
「結婚式に呼んでやる」
「………………………………ハァ?」
ゼノフォーブフィリアはたっぷりと間を置いて、天井を見て、再びフォルティシモへ視線を戻す。フォルティシモはとても分かり易く伝えてやったのに、理解できないらしい。
「タマが居ないから、キュウの母親役をしてくれ。俺もキュウも、格式ばったのは嫌いだし、あまり騒がしいのも好きじゃない。身内だけを呼んで、最高に豪華にやるつもりだ」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待て」
「どうした?」
「まさかとは思うが、結婚式の準備をしている話をキュウに聞かれたくないから、ここで密談しようとしたんじゃないだろうな?」
「そうだが?」
「はぁ………いつだ?」
「まだプロポーズもしてないが?」
「もう吾の世界からさっさと出て行け!」
フォルティシモとゼノフォーブフィリアは密談を終えて会議室へ戻っていった。
「つまり、キュウさんは、神に遊戯のために造られた人でありながら、魔王フォルティシモと出会い、共に戦い成長していき、太陽の神を追い詰めるに到ったと!? 凄すぎる! どうですか!? ルー・タイムズから自伝を出しませんか!? ライターは是非私が!」
会議室では文屋一心がキュウに詰め寄るように話をしていた。
「自在・瞬間・移動」
フォルティシモは瞬間移動を発動。キュウを守るようにして抱き寄せた。
キュウは未来聴によって、フォルティシモの行動を聴いていたのだろう。まったく驚くことなくフォルティシモの瞬間移動からの抱き締めに身を預けてくれた。キュウが迷い無く全身を任せてくれたのが嬉しくて、キュウの耳へ頬ずりする。
「キュウ、遅れて悪かった」
「遅れ? えっと、ゼノフォーブフィリア様とのお話は終わったのでしょうか?」
「何をするんですか、魔王フォルティシモ! 今、私の取材中ですよ!」
文屋一心がフォルティシモを指差して大声で叫ぶ。
「どうなってるマリアステラ? 俺が席を外す間、キュウを守ると約束しただろ」
「キュウは楽しそうに魔王様との思い出を話してたよ」
腕の中のキュウを確認する。キュウは傷付いてもいないし、怯えた様子もない。尻尾をさわさわする。尻尾がくるりと動いた。いつものキュウの尻尾だった。マリアステラは嘘を吐いていないらしい。
「ちょ、ちょっと、キュウさん、触られてますよ!? なんで人の身体をベタベタ触っているんですか! セクハラ! セクハラ!」
「いえ、私はご主人様に触られるのが嫌では―――」
「あの時も言いましたけど、ご主人様呼びって! それって仲間としても、男としても、人間としても最低じゃないですか! 断固抗議します! 抗議の記事を書きます!」
フォルティシモは夜の都心で文屋一心の指摘に戸惑ってしまったが、今は違う。キュウはフォルティシモの腕の中に居て、フォルティシモへ全身を預けてくれていた。冷静に考えれば心が通じ合っている。
なら間違っているのは文屋一心。ご主人様呼びとか、敬語の関係とか、フォルティシモの時も場所も厭わない尻尾触りとか、何を言われても他人に入り込む余地はない。フォルティシモとキュウの信頼関係である。
「閃光・束縛」
「ぐああぁっ!? 痛、くはないけど、なんですかこれ!?」
まあ、いきなり抹殺するのは我慢した。代わりにフォルティシモの足下から出現した光の腕が、文屋一心をアイアンクローで拘束する。文屋一心は手足をバタバタさせて抵抗していたけれど、戦闘能力を一切持たない文屋一心では逃れる術はない。
意に沿わない相手をPKしないなんて、フォルティシモは成長している。
「【拘束】スキルだ。本当は俺のために働いて貰おうかと思ったが、ちょっと迷ってきたな。お前を自由にさせたら、アーサーやサイとは比較にならない何かをしでかす気がしてきた」
「ナイス! 最強の神! その小姑を亡き者にして!」
勝利の女神ヴィカヴィクトリアから謎の応援が入った。フォルティシモが引き取らない場合は、ゼノフォーブフィリアが記憶処理と権能封印をして元の生活へ戻すだけだ。亡き者にはならない。
視線だけで確認すると、ゼノフォーブフィリアはどちらでも良いというスタンス。先ほどの二人きりの密談のお陰で、彼女との関係が良好になったと思う。
「図星を付かれて実力行使! 人間性が表れてますね! あ、いえ神様だから神性? どっちにしてもこれがこの男の本性ですよ、キュウさん!」
「いつものご主人様ではないでしょうか」
「これで!? アサ兄よりヤバイんじゃないですか!?」
「えっと、ご主人様にはご主人様のお考えがありまして」
「キュウさん、あなたはマインドコントロールされてますよ!」
フォルティシモが本気でどうしようか迷っていると、意外な方向から声が掛かった。
「お待ち下さいませ、偉大なる神々よ!」
割り込んで来たのは、ゼノフォーブフィリアが同席させていた黒スーツの男だった。唐突に言葉を発した黒スーツの男に対して、ゼノフォーブフィリアが睨みを利かせる。
「吾が其方らを同席させたのは、状況を伝えるためだ。発言は許可していない」
「ぜーはお前らを守るために、そう言ってるんだよ。発言しなければ、私や魔王様に睨まれることもないからね。今もほら、発言したから魔王様の視界に入っちゃった」
「偉大なる御神のご配慮は恐悦至極に存じます。しかし、我の竜神としての誇りを賭けて、発言をお許し頂きたい!」
フォルティシモは黒スーツの男を確認する。
「そもそも誰だあいつ?」
フォルティシモは口を挟んだ黒スーツの男が何者かが気になって、誰へと言わず疑問を口にした。
「床から生えた手によるアイアンクローのせいで前が見えませんが、声からして内閣情報調査室の偉い人ですね。サイ様と同じ竜神だって言ってました」
意外にも文屋一心が答えてくれる。
「ゼノフォーブのところの竜神ということは、ディアナと同じか」
「ディアナって、近衛天翔王光の後妻のアルビノ美人ですね? 魔王フォルティシモの手先で、近衛翔から遺産を奪おうとしてる………あれ? でも魔王フォルティシモは近衛翔で、じゃああのアルビノ美人は、一体!?」
「爺さんの後妻で合ってる。ディアナは俺の手先じゃなくて、協力者ってところだが」
「なるほど。ちょうど編集長から記事を書くように言われてるので、取材のセッティングをお願いします。その時は近衛翔として同席をして貰うので、コメントの準備もしておいてくださいね。それからディアナさんの連絡先を教えてください」
「ここまで来ると感心してきたぞ」
「ええ、取材は得意です」
文屋一心の言葉はアイアンクローを受けているのに滑舌も良く聞き取りやすい。こんなくだらないところでも才能の片鱗が見えてイラッとする。
その間にもゼノフォーブフィリアと黒スーツの男の話は進んでいた。
「恐れながら、我はこの者に命を救われました。この者の身柄、どうか我に預けて頂けないでしょうか」
「どうしてこう、竜神は問題を起こそうとする? 竜神の誇りを標榜するのであれば、其方らを住まわせている吾の考えを尊重して欲しいものだな」
「あ、魔王様は事情が分からないよね? 私が教えてあげる」
マリアステラがフォルティシモと腕を組もうとして来たので振り払った。
「かつて<竜>は、私の<星>へ挑んで来た。愚かにも星を墜とせると考えたんだけど、私があいつらに敗北するはずもない。だからその戦いは、私たちの勝ち。でも<竜>は、それを認められず、<星>の住人を殺戮し始めたんだ。だから私は、こう命令するしかなかった。“竜を殲滅しろ”」
「何かの例え話か?」
「言葉通りに受け取ってくれて良いよ。そうして<竜>はあっという間に、その数を減らしていき、最後にはぜーの世界へ逃げ込んだ」
フォルティシモはゼノフォーブフィリアと黒スーツの男の話を横で聞きながら、マリアステラの話も頭に入れた。
そしてフォルティシモとして結論する。
「おい、ゼノフォーブ」
「なんだ、フォルティシモ?」
「アーサー妹だが………」
もちろん許すとは言わない。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
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村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
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