廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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アフターストーリー

第五百六話 事の顛末 リアルワールド編

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 VR全盛の時代、紙の新聞を発行している弱小新聞社ルー・タイムズ。そのビルの最寄り駅内にある喫茶店で、文屋《ふみや》一心《ピュア》と黒スーツの男が向かい合って座っていた。

 黒スーツの男の前にはコーヒーが、一心の前にはいくつもの取材写真やメモが置かれている。

「何日も、な、ん、に、ち、も! 近衛天翔王光を張って! ナース服まで着て潜入して、取材と撮影をしたのに!」
「おい、不法侵入に盗撮だぞ」
「神様の法は犯してないでしょ!?」
「そういう問題じゃない」

 その黒スーツの男性は、ルー・タイムズを強制捜査しようとしていた内閣情報調査室の一員であり、一心の住んでいるアパートで竜神サイと戦った翼男でもある。今はその背中に翼はないし、竜神サイに焼かれた黒スーツも新品になっていた。

「異世界や神様を記事にできない事実が、私を追い詰めていく!」
「こ、声が大きいっ。それに滅多なことを言うな。我の責任問題になる。貴様も記憶剥奪では済まない神罰が下るぞ」
「それは困る」
『改めて驚きね。ピュアがこうして“対立組織”のエージェントとお茶しているなんて。私のデータにもネットワーク上のデータにも、“それ”が実在しているなんて有り得ないのに』

 一心のサポートAIネリーは、さすがに異世界避難の際に持ち込むことができなかったため、時間が巻き戻ってしまっていた。

 しかし常に一心の傍に居るネリーは、どうしても神や魔法それに触れてしまう。だからそんなネリーの学習データが漏れないように、ロックが掛けられてしまった。代わりに、こうして会話できる。

「貴様がルー・タイムズの編集長から受けた指令は、白き竜神に対する取材であろう? 我がわざわざ白き竜神へ頭を下げたのだぞ。対面取材をさせてやったではないか。何が不満だ」
「ディアナさん、目茶苦茶取材に慣れてて、あんな短時間じゃ無難な回答しか引き出せなかった。記者対応コンサルタントの仕事をやっていたか、余程人心掌握を学んでたのか、とにかく男性竜神とは真逆だったの。これじゃ何処にでもある記事しか書けない。男性竜神みたいにプライドの塊で短絡的、感情優先だったら、軽くすべてを丸裸にしてやろうと思ったのに」
「さりげない我らへの誹謗中傷を止めて貰おうか」

 一心の目の前の黒スーツの男は、一心の気も知らないでコーヒーを口にしている。

「編集長に特ダネを用意するって約束したのに。内閣情報調査室そっちで、表沙汰にできないようなネタない?」
『ピュア、表沙汰にできないって自分で言ってるわ』

 あの時間が巻き戻ったことで消えてしまった日。

 命懸けの取材で世界の真実を暴いた一心は、魔王フォルティシモとこの世界の神様だというゼノフォーブフィリアCEOから、性奴隷か記憶剥奪の究極の二択を迫られた。

 とても偉い二人が一心の身柄を巡って争う中、それを目の前に座っている黒スーツの男が庇ってくれたのだ。

 最終的に竜神が責任を負い、一心はこの世界で暮らしていく沙汰がくだされた。ただし執行猶予付きの判決を貰ったようなもの。ある程度の予防処置はするし、監視対象にもなる。その一環として、一心の生活周りに怪しいものが色々と現れた。この黒スーツの男もその一つで、どうせ監視されるなら連絡先を交換して頻繁に会うことにしたのだ。

 それから魔王フォルティシモと一つの契約を交わした。

 魔王フォルティシモは文屋一心の記者としての才能に感服し、必要な時に魔王フォルティシモについての記事を書いて欲しいと言ってきたのだ。だから一心はいつかまた、今度はちゃんと本人へ密着取材をした上で、記事を書ける。

 それぞれの出来事の細かいニュアンスは、見聞きした者によって異なる真実の形をしているけれど、一心から見た事実はそんな感じである。

 一心はテーブルに置いてある現像写真を手に取った。それは初めて魔王フォルティシモと出会った時に強行して撮影した写真だ。

 しばらくじっと見つめて、思わず心臓が高鳴った。これは特ダネの臭いかも知れない。

『色々な意味で違うと思うわ』



『戻ったか、召使い! 今日は新規ガチャが実装されるから早く帰って来いと厳命しただろう!』

 一心が高層マンションの自宅へ戻ると、ぷかぷかと空中に浮かぶドラゴンのぬいぐるみが、意味不明な言葉と共に帰宅を出迎えた。

 色々とツッコミ所の多い光景である。一心自身がそう思うのだから、事情を知らない人が見たら混乱するに違いない。

 まずこの高層マンションは、兄である騎士王《アーサー》の自宅だった場所だ。一心はあのボロアパートに住み続けても良かったけれど、魔王フォルティシモの見目麗しい愛人たちが反対してくれたお陰で、この一室の権利が一心へ委譲された。

 アーサーはこちらの世界で活動するつもりはないため、すぐに快諾。なんか異世界の王女様だという超美人にペコペコしている兄の姿に苛立って、フライングドロップキックをお見舞いしてしまったが、スムーズに登記の変更が済んだ。相続税とかあったようだけれど、それはすべてお任せしている。

 反対していたのは、高層マンションの最上階一室が聖地なのだと騒いだ勝利の女神ストーカーだけだ。

 しかし一心にとって怨敵であるストーカーは、金髪虹眼の少女を前にしたら大人しいものだった。一心の記憶では、あのストーカーが大人しくしたなど初めてだ。あれは常に己が勝利の女神だと豪語する異常者。

 今となっては本物なのかも知れないけれど、兄のストーカーであることも本当である。

 どちらにしても、ストーカーを睨み付けるだけで完封する金髪虹眼の少女には、一心の才能が全力で警報を鳴らしている。金髪虹眼の少女の名前を、マリアステラと言うらしい。いつか絶対に、魔王フォルティシモにもゼノフォーブフィリアCEOにも内密で取材をさせて貰いたい。

 新“聞”を信仰する者として、魔王フォルティシモにマインドコントロールされている狐少女と同じくらいに興味深い人である。

 そんな騒がしいやりとりがあった末、高層マンションの一室が晴れて一心の自宅となった。

 そしてドラゴンのぬいぐるみ―――竜神サイである。

 何故、竜神サイが一心の自宅に居るかと言えば、異世界で魔王フォルティシモと大喧嘩した末に、逃げて来たらしい。もちろん本人ならぬ本竜に「逃げて来た」なんて言ったら、怒り狂うに違いない。この世界に逃げ込む時、二度と同じことはできないように能力は封印されているので、黄金ブレスは吐けないらしいが。

 しかしゼノフォーブフィリアCEOは、あれだけ暴れた竜神サイが助けを求めて来たら、あっさりと受け入れてしまっている。甘いのか、何か考えがあるのか。世界的大企業のCEOが甘いはずもないので、何かの利益があるのだろう。

 ちなみに、それが一心へ預けられた理由は謎だ。

 また一心の家に転がり込んできた竜神サイが毎日しているのはVRMMOゲームだった。『ファーアースオンライン』というタイトルのゲームで、竜神だから眠る必要がないのか、一心の家の電気代へ深刻なダメージを与え続けている。

 さらに今のようにガチャへ課金したいと一心へ命令してくる。アーサーの持ち物だったマンションへ引っ越したことで住宅費がなくなったものの、元々住んでいたのが格安アパートだった上、取材費用を私費で賄っているため懐に余裕はない。

「ゼノフォーブフィリアCEOの単独取材でも許可して貰わないと、割に合わないっ」
『ヘルメス・トリスメギストス社には、世界最強の弁護団がいることを忘れたら駄目よ。一単語でも問題のある記事を書いたら、数十億円の賠償が請求されるわ。そんな会社のCEOの記事を書きたい?』
「ネリーと居ると現実に引き戻されるね」
『ピュアの体験を共有できなかったのは残念だけど、今のピュアが生きる場所が現実よ。とにかく明日までに記事を書かないと、編集長を怒らせてしまうことが大切』
「本当に現実!」

 一心はかつてのボロアパートでは考えられない空調の効いた部屋で、ふわふわの絨毯へ寝転がり、グルグルと転がった後、全自動洗濯機へ服を突っ込み、温かいお風呂へ入り、スーパーの半額弁当を電子レンジで温めて食べた。それから高そうなコーヒーメーカーのボタンを押して、高層マンションには不釣り合いな旧型パソコンの前へ座る。

 パソコンに映る画面には、一文字も進んでいない特集記事の草稿が表示されていた。

「あのね、ネリー、私の中で大変なことが起きてるの」
『どうしたの?』
「私、世界一の記者になった。異世界、神様、魔法、竜、そんな存在を世界中に公表する記事を書いた。人類の歴史に永遠に刻まれるような記事を!」

 天才記者文屋一心はすっかりスランプに陥っていた。

「どんなネタを見つけても、あれと比べちゃう! この程度で記事にするのか。私の取材力はこんなものじゃない! うがーーー!」

 文屋一心の苦悩がいつまで続くかは、意外と最強厨魔王に掛かっているかも知れない。

「………そうだ」

 否、天才記者は他人の行動をただ待つなど有り得ない。

「神戯だっけ、私自身がそれに参加して、突撃取材したら、その記事が神様たちに読まれるんじゃあ」

 その後、幾柱もの竜神を従えた天才記者が数々の神戯へ参加して暴れ回ることになる。

 また、その天才記者の書いた記事が神々の中で話題になるかどうかは、まさに神のみぞ知るだろう。
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