廃課金最強厨が挑む神々の遊戯

葉簀絵 河馬

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アフターストーリー

第五百七話 事の顛末 開催者編

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 勝利を信仰する者は多い。

 直接的な武力で戦う戦争や闘争は言うに及ばず、競い合うスポーツやゲームにも勝利の概念はある。裁判や選挙、商売に学業まで、およそ人間の文明における“勝利”とは切っても切れないものだった。

 強く願う者が最も多い信仰かも知れない。

 その信仰は太陽に勝るとも劣らない。四十七億年を輝く太陽に対して、物量で対抗する可能性を持つ神。それが勝利の女神ヴィカヴィクトリアである。

 別の見方をすれば、その道が平穏なものであるはずもなく、太陽に勝利するために担ぎ上げられた神輿のようだった。

 そんな彼女は戦って、負けて、嬲られて、抗って、虐げられて、逃げて、彷徨って、行き着いた先で―――一人の俳優に出会った。

「勝利とは目標であって、勝利の先に掴むものの過程であるべき」

 だから勝利の女神ヴィカヴィクトリアはそんなことを言った。

 陳腐な言い方をすれば「私は何もしなくても皆が信仰お金をいっぱいくれるんだけど、そんなに要らないから別のことに使ってね」と言ったところだろうか。信仰お金がなくて命懸けで戦った者たちを、この上なく馬鹿にしている。

「私たち概念の神は、物質の神とはまったく違う。虚ろぎやすく、その能力も絶対ではない。………だから見逃してください!」

 しかし誰も彼女が超強大な信仰を持つ勝利の女神だとは思わないだろう。

 髪はボサボサで破けた服を着た半裸の状態で、泣きながら地面に土下座しているのだから。

 すべてを投げ打って許しを請うその姿は、余りにも哀れだった。

「あーくんだけは! お願いしますうううぅぅぅ、あああぁぁぁーーーくぅぅぅんはぁぁぁ」

 勝利の願いを信仰として集める強大な女神は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした顔を、目の前に立っているヒジャブを被った美女へ押し付けようとして、周囲の者たちから取り抑えられた。

「太陽の神よ」
「空に輝く絶対の神よ」
「我らに無限の恵みを与える神よ」
「この………汚ね………鼻水女神への神罰を」

 場所は四方に雲海しか見えない山頂。ここは太陽神を信仰する信者たちにとっての聖地。この世で最も光に近い場所。世界の法則システム上、そう定義された天使たちの領域である。

 そこに立てられた社で、勝利の女神ヴィカヴィクトリアが大勢の天使に捕縛されて、今にも処刑されそうになっていた。

 そんな聖地でも最も高い場所でヒジャブの美女、太陽神ケペルラーアトゥムは天使たちを振り返り、それから勝利の女神ヴィカヴィクトリアを見た。

「我が偉大なる神への不遜。それだけでも神滅に値する罪である」
「ひいいいぃぃぃ」

 そこにフォルティシモと同じゲームを廃人プレイした、太陽神ケペルラーアトゥムの顔はない。他の神々が見るだけで畏れ、戦いを止め、抵抗さえしない。非情にして強大、神々の世界で恐れられる究極の神威を持つ神が太陽神ケペルラーアトゥムである。

 太陽神ケペルラーアトゥムはフォルティシモやキュウに対しては、あれでも甘い顔を見せていた。何ならキュウに対しては、甘いを通り越していたかも知れない。

 だが、このあらゆるモノを神威で焼き尽くす究極の炎非情さこそが、太陽の根幹。

 祝福を与える一方で、すべての生命の誕生と滅亡を手の中に収めている。

「しかし我が偉大なる神は、弁明の機会をお与えになられる。懺悔せよ」

 太陽神ケペルラーアトゥムに睨み付けられた勝利の女神ヴィカヴィクトリアは、半狂乱になって懺悔を始めた。

「すいませんすいませんすいません! <時>に私の持っていた信仰心エネルギー神威を渡しました! 彼らは、その、<星>に勝ちたいなんて思っていたので、一時的に私の従属神みたいにしまして、それから、もう」
「それから?」
「ほとんど、垂れ流し、みたいな」
「何故、そんなことを続けた?」
「だって<時>の神たちは、私の代わりにあーくんグッズ買うのに何徹でもして並んでくれたし! 抽選だって人数居るから当たる確率高かったし! 車の送り迎えも、海外公演の時は、最前列確保から飛行機のチケットまで全部やってくれて」

 今にも消えかけだった<時>の神々が挑んだ、最後の大博打である<星>への戦争。<星>のすべてを滅ぼすことは出来ずとも、マリアステラの持つ世界さえ制圧できれば全てが変わる。

 それを決断させた最大の支援者が、ここに居た。

 <時>はそれなりの時間を掛けて勝利の女神ヴィカヴィクトリアを懐柔し、その祝福を受けていたのだ。神戯の最中だが、竜神サイがフォルティシモへやった祝福の垂れ流し版と言ったところだろうか。

 それを人間の国同士に例えれば、相手の国へ兵器を大量輸出して使わせていた、という意味だ。

 もはや弁解の余地はない。勝利の女神ヴィカヴィクトリアも、その原因となったアーサー人間も、<星>にとっては邪魔な存在。たった二つを消すだけで、多くの未来を守れる簡単な決断だった。

 <星>は神々の最大派閥の一つ。それだけ所属する神も多く、その神の世界で暮らす人間も多い。その数は億や兆、京でさえも足りない。それだけ大勢の人々の安全と幸福を脅かす存在を滅ぼす。太陽神ケペルラーアトゥムには大衆的正義があった。

 しかし太陽神ケペルラーアトゥムは情報ウィンドウを表示する。

 そこに表示されているメッセージは、アーサーと勝利の女神ヴィカヴィクトリアへの助命だった。

 送り主は、とある黄金狐。内容はとても単純で、彼女は自分の能力を使いこなすためアーサーに世話になった。そこから勝利の女神ヴィカヴィクトリアにも助けて貰ったというもの。

 そして母なる星の女神からは、最強神か黄金狐のどちらかから嘆願があった場合のみ、太陽神ケペルラーアトゥムが“好きに”判断して良いという神託があった。

 黄金狐からのメッセージを見た時点で、世界を統べる星の女神は、勝利の女神ヴィカヴィクトリアをお許しになられたのだ。

 それでも裁くかどうか決めるのは、太陽へ任された。

「すべては我が偉大なる神の御心のまま」



 ◇



「それで、まー、何処までが目論見通りだ?」
「何処まで? 予想外なことばかりだったけど?」

 光に照らされた世界で勝利の女神ヴィカヴィクトリアが処刑されそうになっている頃、ヘルメス・トリスメギストス社の本社ビル最上階にある個人宅に、黒髪紅眼ゼノフォーブと金髪虹眼マリアステラの姿があった。

 大企業の創業者が会社ビルを自宅とするのは、それほど珍しい話ではない。自宅と会社が繋がっていればいつでも仕事へ出られるし、税金面も色々と有用な法律がある。

 しかしゼノフォーブに関して言えば自宅を持つ意味がなかった。何故ならゼノフォーブが休んでいる時はゼノフィリアが活動しているため、自宅で休む時間などないからだ。

 リアルワールド最高の企業、その本社ビル最上階の自宅。これこそが大金持ちのリビングを体現した部屋。ゼノフォーブがわざわざ自宅を所持して、インテリアに金を掛けて、ハウスメイドを雇って常に綺麗に掃除させているのは、間違いなく大嫌い大好きクソ野郎親友のせいである。

 この家は、親友マリアステラが遊びに来た時だけ使われる。

 そして今、ゼノフォーブとマリアステラは二人でリビングの四百インチテレビに向かい合っていた。その画面に映っているのは、ぷるぷると動くまんじゅうのような物体が落ちてきて、それを積み上げて消す落ち物レトロゲームである。

 ゼノフォーブとマリアステラ、神々の世界で畏敬と尊敬を集める二柱の神は対戦ゲームの真っ最中だった。

「まーは言ったな。フォルティシモが吾の世界で目茶苦茶をやるつもりだと。そうであれば、吾も全力で迎え撃つつもりだった」
「私の代わりに魔王様を倒してくれるんだっけ」
「まーの言葉が本当だったならな。しかしゼノフィリアが出会ったフォルティシモは、とてもそんな人物とは思えなかった」
「目茶苦茶やったじゃん。ぜーの地球、木っ端微塵にされたじゃん。私、嘘吐いてないよー」
「それは、まあ、なんだ。おいておいてだ」
「おいておくー!」

 落ち物ゲームの対戦内容は、一見すると互角である。未来視と可能性観測のマリアステラ、僅かな揺らぎさえも許さない完全計算のゼノフォーブ。

 あくまでゲームだが、強力な二柱の戦いは互角に見えた。

「フォルティシモ、いや近衛翔は最初から吾へ好意的な面があった。竜神さえ居なければ………いや竜神さえも、吾とフォルティシモ、そしてまーが協力する切っ掛けではなかったか? 今後、我ら三柱は交流を深めるだろう」
「親友のぜーと、大ファンの魔王様と遊べるなんて楽しいなー」

 ゲームの趨勢が変わる。マリアステラが積み重なった中から強烈な連鎖攻撃を始めたのだ。

「ぜーは親友だから、一つだけ大きな間違いを正しておいてあげる」
「何だ?」
「魔王様が最強神なんてものになるのは、私でも視えなかった。それでもここまで来たのは、私やキュウが魔王様を愛した結果だよ」

 ゲームはマリアステラの連鎖攻撃を捌ききり、ゼノフォーブが信じられない反撃に出た。

「まーの態度はいつも怪しい」
「あははは、私は嘘も吐かないし、約束も破らない」
「楽しい限りな」
「本当にぜーは、私を理解してくれてる」

 ゲームに決着が付く。

「フォルティシモ、私も少し噛ませて貰う。まーが引き込んだんだ。嫌とは言わないだろう?」
「もちろんだよ。私は魔王様の最初のファンだから、布教活動に余念がないからね。ああ、早くまた、遊戯で遊びたいなぁ」

 その虹色の瞳には、何が視えているのか。神のみぞ知る事柄を、彼女こそが知っている。

 ちなみにゲームの勝敗については、そのまま二回戦へ突入したという事実だけがあった。
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