身代わりおまけ王子は逃げ出したい

おみなしづき

文字の大きさ
35 / 94
第一章

報復は見えないところで レイジェル視点

しおりを挟む
※しばらくレイジェル視点が続きます。

────────────

「レイジェル殿下! なぜあの王女なのですか!?」

 ベルエリオ公爵は、その場では何も言わなかったものの、後々抗議をしてきた。
 執務室に向かう途中の廊下で声を掛けられてしまった。

「私が王太子妃として相応しいと思ったからだ」
「見誤ってはいけませんぞ……」
「結婚しないと言った私に、妃は子が産めれば誰でもいいと言ったのは他ならぬお前達だ。だから、この馬鹿らしい審査をしたんだ。選んだ相手に異議を言うのはお門違かどちがいだ」
「それは……そうですが……」

 言い淀む公爵にため息をつく。

「他に用は?」
「いえ……」
「ならば、もういいか? 私は忙しい」
「…………はい」

 納得いかないような公爵の話を切り上げて執務室に逃げた。
 自分の椅子に座りながらため息をつく。
 私は妃をミリアンナに決めた。弱小国家だからと問題はありそうだが、もう決めた事だ。
 そもそもミリアンナ本人が納得いってない様子だったのを思い出して笑みがこぼれる。
 ミリアンナは、私と結婚したくないらしい。それも想定内だ。徐々に歩み寄れたらいいと思う。

 見た目だけじゃなく、声も似ていると思っていた。だから、彼女の歌を聴いてみたいと思った。
 もう既にミリアンナに決めていたが、第四審査を受けさせたのは、ヴァイオリンよりも歌が聴きたくてだ。ヴァイオリンが壊れていなくても歌ってもらうつもりだった。

 ミリアンナの歌声は、やはり似ていた。それどころか、私の記憶の初恋相手よりも深みのある綺麗な声だった。
 ミリアンナの歌をすぐに止めたのは、他の人に聞かせたくなかったからだ。誰もがあの声に聞き惚れていた。

「あの変な歌詞はともかく、ミリアンナ様って歌上手でしたね」

 ラトがうっとりしながらそんな事を言ってきた。

「あの場で歌わせたのは間違いだったな……」

 誰もがみんなミリアンナに興味が湧いていそうで気に入らない。

「レイジェル様は、そんなにミリアンナ様が好きですか?」

 ラトにニヤニヤとそんな事を言われてコホンッと咳払いして話を終わりにする。

「報告を──」
「「はい」」

 報告に来たのはカーラの護衛とコルテスだ。
 まずはカーラの護衛からの報告を聞いた。
 カーラの護衛は、カーラの部屋に出入りしていた侍女が怪しいと言った。

「カーラ自身は、僕の目がある場所では特に変化はありませんでした。ですが、部屋の外に出される事も多かったです。気になるのはカーラの侍女です。部屋の外に出される時は、ほとんどその侍女がいました。部屋を出入りする回数も多かったように思います。カーラ自身が動いていたのではなく、カーラの命令でその侍女が動いていたのではないでしょうか」

 それが一番有力だな。

「わかった。何人かでその侍女を捕まえてこい」
「はい!」

 カーラが言い逃れなどできないように証人にしよう。

「コルテスも報告しろ」
「はい。ヤハネへの交易をしばらく取りやめるむねを通知しました。カーラを迎えに来るというよりは、我々に謝りたいと必死になるはずです」

 ヤハネは、カーラの国だ。
 ドレスを引き裂いた犯人だとわかった瞬間から、彼女と彼女の国に報復する事は決めていた。

「絶対に許すな。交易を再開する条件は、カーラが降嫁こうかする事だ。それも爵位などない臣下のところにな。それと、実行犯の侍女への刑罰は、脅されていた場合を除き、クラドラの娼館で一年タダ働きだ」
「はい」

 クラドラの娼館は、テレフベニアの中で最底辺の娼館だ。低賃金で、どんなやつも相手にしなきゃならない。

「そんな甘いので良かったんですか? 前だったら降嫁どころじゃなく、王家を潰して奴隷に落としてるところですよ。そのまま領土もテレフベニアに吸収しちゃえばいいのに。その侍女だって腕ぐらい切り落としてやればいいんですよ」

 ラトが言いたい事もわかる。
 敵は徹底的に潰さないとどこかでほころびが出る。テレフベニアが甘くみられない為に、そういう精神でやってきた。

「ヤハネの領土など必要ない。それに、ミリアンナ殿下が国同士の揉め事にはしたくなかったみたいだからな。色々と考慮した」
「そうですね。それで納得出来ちゃうから、ミリアンナ様の存在はすごいですね」

 ラトはそう言いながら楽しそうだ。

「ミリアンナ殿下にはくれぐれも気付かれないようにな。私に怒鳴られてでも守ろうとしたカーラがそんな事になったと知ったら彼女が心を痛めてしまう」
「わかってますよ。ミリアンナ様が許しても、我々が許すはずないですよね~」

 ラトは、ニヤリと笑う。その通りだ。
 報復はきっちりとさせてもらおう。

「犯人が自ら名乗り出てくれて良かった」
「ミリアンナ様に捜さないって言ってましたもんね」

 ラトが書類を渡してくる。それを確認しつつ笑う。
 ミリアンナのドレスの裾を踏んだ時、ドレスを破った犯人ではないかと思い、ミリアンナにすぐに駆け寄りたい衝動を我慢した。そのままにしておけば、カーラは何かボロを出すじゃないかと思ったが正解だった。

「捜さないとは言ったが、報復しないとは言っていない。知ってしまったからにはそのままにはしない。嘘はついてないだろ?」
「レイジェル様のそういうとこ、怖いですよね」

 ラトは、そう言いながらケタケタと笑う。

「ところで、いつミリアンナとお呼びするんですか?」
「まだ早い……」
「婚約者になるんですから遅いも早いもないでしょう」

 なんとなく「ミリアンナ……」とボソリと呟いてみる。
 ラトにブハッと笑われてしまう。また揶揄からかわれた……。
 コルテスがラトを厳しく睨む。

「ラトはレイジェル様で遊ぶ癖をやめなさい」
「だって面白すぎるだろ? やっぱり呼びたいのがバレバレだもん」

 恥ずかしくなってラトを睨めば、まぁまぁと誤魔化された。

「これなら初恋相手だって忘れられるんじゃないですか?」

 ふと問い掛けられた質問に考え込む。

「忘れられはしない──ただ……ここ最近は、考える事が少なくなったかもしれない……」

 思い出すのは綺麗な銀の髪と雨上がりの空のような澄んだ瞳──。
 私の初恋は、苦い思い出と共に心に残っている。
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~

水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。 「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。 しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった! 「お前こそ俺の運命の番だ」 βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!? 勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

処理中です...