身代わりおまけ王子は逃げ出したい

おみなしづき

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第三章

二人の初めて

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 部屋に入ってから会話はない。
 レイジェル……怒ってるかな……。
 そのままベッドに入る気にはならなかった。

「ご、ごめん……」

 レイジェルに向かって謝れば、眉間に皺を寄せたままこちらを見つめる。

「どうしてミオが謝るんだ?」
「俺が……隙がありすぎたかな……と……」

 視線は鋭い。レイジェル……怒ってると怖いんだ……。

「確かにミオは隙がありすぎるし、注意力散漫で流されやすい! だが、それがミオなんだ……しっかりしていたら、ミオじゃない……。私もテアロがあんな事をするとは思わなかった。文句言わないと約束してしまった……」

 顔を押さえてしまった。ガッカリさせてしまった……。

「今日は別で寝ようか……」

 ダイニングの椅子で毛布かぶって丸まって寝るか。

「違う……そんな事が言いたかったんじゃない……私も混乱していた。行くな……行かないでくれ……」

 腕を掴まれた。
 まだ一緒にいていいらしい。ホッと胸を撫で下ろす。
 レイジェルが俺を覗き込んでくる。

「ミオ……キスしたのは初めてなんだろう?」
「うん」
「あまり気にしてなさそうだな……」
「しちゃったものは仕方ないという精神で生きています」

 そうじゃなきゃ、色々考えすぎて動けなくなる。
 レイジェルが遠い目するとか貴重。

「レイジェルには悪いけど、あまり気にしてないかも……」

 相手がテアロだったからか、嫌な気持ちというのがない。テアロに怒るとかそういうのもない。
 テアロの唇は、すごく優しくて、少しだけ震えていた。
 レイジェルは、今度はショックを受けたらしい……。

「なんて言うか……テアロとはずっと一緒にいて、あんな風に強引にされた事なんてないんだ。しようと思えばいつだってできたはずなんだ。それに、あのテアロがレイジェルに俺を譲るって言ってた……」
「確かにそうだな……」
「テアロなりに少しずつレイジェルを認めてるんじゃないかな……」

 レイジェル達が来る前も、俺が嫌がれば離してくれたはずだ。

「そうだな……わかった。今回は許す。次に何かあればテアロと決闘する」

 本気で言っているようで怖い。

「大丈夫。テアロは優しい人だ。俺が嫌がる事はしない」

 いつもそうだった。これからもきっとそうだ。

「俺にとってテアロは、家族以上に家族みたいで、大好きな人だ。それは変わらない」

 レイジェルが考え込んだ。

「私は? ミオにとって私はなんだ?」

 そっとレイジェルの手を取って心臓に当てる。
 胸の鼓動は早い。俺の心が届けばいい。
 少し照れながら笑顔を向ける。

「わかる? ドキドキする人。一緒にいたい人。俺が好きだと初めて思った人。えっと、後は……初めてケンカした人。もっと必要?」
「いや……充分伝わった」

 優しく笑うレイジェルにホッとして手を放す。

「でも、ミオのファーストキスは私が良かったな……」

 まだ気にしてた……。
 仕方がない。少しだけ強行突破しようと思う。

「でもさ、それを言ったら、レイジェルのファーストキスってもう済んでるよね?」
「…………」
「俺じゃない誰かと初めてキスした事覚えてるんでしょ?」
「…………」
「それどころか、俺の経験ない事いっぱいしてるよね?」
「…………」

 うおーい。レイジェルの顔が驚愕したまま時間が止まっている。
 苦笑いだ。

「それってどうなの?」
「気持ちがこもっていなければ、数に入らない……!」

 屁理屈だけれど、レイジェルはそう言うと思った。

「それなら、俺がレイジェル以外とするのは数に入らないって事でいい?」
「そうか……そうだな」

 納得いったようで良かった。

「ミオ、私が今すぐキスしてもいいだろうか?」

 直球勝負で来られるとは……。
 でも、それでレイジェルの気がすむならとコクリと頷く。
 両肩に手を置かれた。

 徐々に近付くレイジェルに緊張してきた。
 鼻先が触れ合う距離にドキドキする。

「目を閉じろ……」
「あ……ごめん……」

 言われた通りに目を閉じれば、少しして唇に柔らかい感触がした。
 触れるだけのキスでもドキドキする。やっぱりレイジェルは特別だ。
 目を開ければ、目が合って見つめ合う。
 二人とも照れたように笑い合った。

「これが二人の初めてのキスだな」

 そっと抱きしめられて、その胸に顔を埋める。
 レイジェルの機嫌がやっと直ったらしい。

「寝ようか」
「うん」

 二人で同じベッドに入る。
 横になりながら向き合っているだけで幸せだった。
 頬を撫でる手が優しい。

「好きだ……」
「俺も……レイが好き」

 ヘラッと笑えば、レイジェルの顔が自然と近付く。
 こうやって彼のキスに慣れて行くんだろう。

「んっ……」

 二回目のキスは、少し長かった。
 うまく呼吸ができなくて息が上がる。
 レイジェルと見つめ合う。
 そんな時間がとても甘く感じる。

「初めてだ……」
「え?」
「キス一つでドキドキする」

 少年のように嬉しそうに笑ったレイジェルに俺も嬉しくなる。
 そうやって初めてを二人で経験していけばいい。
 頬に鼻先におでこに唇に──触れ合うだけのじゃれ合うキスを贈り合った。
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