身代わりおまけ王子は逃げ出したい

おみなしづき

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第四章

招待状と悪ふざけ レイジェル視点

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「招待状、貰えましたか?」

 執務室で仕事をしていたら、ラトに何気なく言われた言葉に眉間に皺を寄せる。

「…………」

 まだ貰っていない……そんな風に言いたくなくて黙り込んだ。
 それを察したラトが苦笑いしながら何か言おうとする。

「えっと……」

 なんだかイライラとする。

「やっぱりお前は地方へ行かせようか?」
「ちょ、待って下さいよ! まだ何も言ってないでしょう!」

 慌てるラトを見てもスッキリしない。

「話題にしたのは間違いだったな」
「そんなぁ~」

 手元にあった猛獣討伐依頼は、既に採決して派遣する兵士は決まっていたが、ラトから見えないようにそれをわざとらしく眺めてやる。

「そうだ! それなら、少しミリアンナ様を困らせてみたらどうですか!?」
「困らせる?」
「そうですよ! 怒ったふりでもしてみたら少しは気分が晴れるのでは?」

 ニヤニヤとするラトの顔に面白そうだと書いてある。

「そんな事するわけないだろう」

 騙すような事はしたくない。そもそもミオが悪い訳でもない。

「もしかしたら、可愛らしい姿が見れるかもしれませんよ?」

 可愛らしい姿……そう言われると、見てみたいと思ってしまう自分がいた。

     ◆◇◆

 それから数日後に、執務室で仕事をしていればノックの音が響いた。

「ミリアンナ様が、レイジェル様に会いにきました」

 ロッシの声だった。会いに来てくれる事はあまりないので嬉しい。

「レイジェル様、怒ったふり上手くやって下さいね」

 ラトは、ウィンクしながらそんな事を言ってから執務室のドアを開けた。どうすればいいのかわからずに、そこにあった書類を読むふりをして顔を隠した。

「あー……今のレイジェル様は、すごくご機嫌斜めなんですよね」

 ラトがポリポリと頰をかいて苦笑いしながらそんな説明をする。この流れでは機嫌の悪いふりをするしかない。

「その……招待状を書いてきたのですけど……」

 招待状! すぐに貰いたくて顔を上げたが、ラトが視線で待てと言ってきて顔を下に戻す。

「ありがとうごさいます! 地方に飛ばされなくてすみます! 直接渡して下さい! さぁ、どうぞ!」

 ラトは、半ば強引にミオだけを執務室に入れる。二人きりになってしまった。機嫌など悪くないと言いたいが可愛いミオが見たくて自分の中で葛藤していた。
 ミオは、座ったままの私に恐る恐る近づいて執務机の前まで来ると声を掛けてきた。

「レイジェル様?」

 機嫌の悪いふりを続けるべきか、返事をするべきなのか迷う。

「レイジェル?」
「…………」
「レイジェール」

 ちょっとふざけて呼ばれて、笑ってしまいそうだった。

「レイレイ?」
「っ!?」

 レイレイ──そんな呼び方をされた事はない。ミオに呼ばれるならレイレイでもいい!

「レイジェル、ごめん」

 私が本当に怒っているのだと思ったのだろう。真剣に謝られてしまった。
 内心で喜んでいたので顔を上げるタイミングを失っていた。

「招待状、渡さなかったわけじゃなくて、レイジェルにも必要だと思ってなかったんだ。だから……俺は来て欲しいと思ってたから……あまり怒らないで欲しい。次は気を付けて──」

 このままではいけないと思い、書類を下ろして顔をあげれば、ミオの真剣な顔と目が合った。
 申し訳なくなって思わず立ち上がる。
 
「すまない。少し怒ってるふりをすれば、可愛いミオが見れると言われて……」
「ふり? 怒ってる……ふり……?」
「そうだ。ふりだった。私は怒っていない」

 ミオは下を向いてしまう。
 やはり人を騙すなんてよくない。レイレイなんて呼ばれて喜んでいる場合じゃなかった。
 今度はこちらが眉根を下げる番だった。

「怒ったか?」
「…………」

 ミオは何も言わなかった。本気で怒ってしまったのでは?
 もう二度とラトの口車には乗らないと誓う。

「騙すような事をしてすまなかった……」

 心の底から反省して言えば、少ししてクスクスと笑い声が聞こえた。

「お返し」

 そう言いながら顔を上げたミオは、頬をほんのりと赤く染めて笑っていた。
 胸にドスっと何か刺さった。
 お返しが可愛すぎた。天使は相変わらず天使だ。

「俺の方が謝ってたのにレイジェルが謝ってるの面白い」
「ミオに嫌われたくないからな」
「嫌わない。俺もレイジェルが怒ってなくて安心した」

 とてもホッとする。
 目と目が合ってニコニコとし合えば、二人の空気が日向みたいにポカポカとしている気がする。

「これ、招待状」

 みんなに散々見せびらかされた白い封筒を笑顔で手渡された。それだけで気分が高揚してくる。
 中を見れば、テレフベニアに咲く小さなピンクの花の絵が添えられていた。この絵は特別に書いてくれたのだろうか?
 ありきたりな招待の言葉の一番最後に、私へのメッセージがあった。

『心を込めて書きました。あなたが来てくれることを心待ちにしております』

 ウダウダと気にしていた時間が吹き飛ぶほど嬉しい。

「ありがとう──」

 嬉しくて浮かれてしまう。

「お茶会をやる前の気持ちで書いてみたんだ。それで……これが、お礼状」

 スッと両手で差し出された薄い黄色の封筒を受け取る。宛名はやはり私だ。

「お礼状?」
「来てくれた事への感謝の手紙……」

 少し照れたミオに期待が膨らんでその封筒を開けた。

『手探りのお茶会は不安もいっぱいでした。そんな中、あなたが来てくれて本当に嬉しく、心強かったです。心から感謝致します。ありがとう』

 招待状は欲しいと催促してしまったようなものだ。私に気を遣って書いてくれたのだとわかる。だが、それ以外にお礼状を貰えるとは思ってもいなかった。
 予想外の事に嬉しさが込み上げる。ミオは私の嬉しいを何度も何度も更新して行く。
 意地を張らずにお茶会に出席して良かったと思う。ラトとコルテスに感謝だ。

「これは……私にだけなのか?」
「そう。レイジェルは……俺の……特別……だから……」

 視線をお礼状からミオの方へ向ければ、頬を染めてエヘっと照れた。愛おしいという感情を通り越して、急激にミオに触れたくなった。
 お礼状を丁寧に机に置いて、ミオの目の前に行った。頬の横にある髪に手を伸ばした。
 川に落ちた時よりずいぶん髪が伸びた。もう本物の髪だ。それが私達二人の時間を表しているようで、とても愛おしかった。
 そこから髪を一房取り、そっと口付ける。ミオが顔を赤くする。その頬に手を添えて微笑めば、こちらを見つめるミオも照れ臭そうに笑ってくれる。
 胸の鼓動は正直で、そんなミオを見る度に好きだという想いがドキドキと音になる。
 決していい人間とは言えない自分にも、こんな幸福な時間が訪れると思っていなかった。
 ミオは、次に来るであろう行為に期待して目を閉じた。

 そっと触れ合わせた唇は、お互いの熱が伝わるみたいに熱く感じた──。
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