身代わりおまけ王子は逃げ出したい

おみなしづき

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第五章

レレテスの特使

 謁見の広間で、レレテスからやってきた特使をレイジェルと共に出迎えた。
 特使というからにはそれなりに身分が上の人なんだと思ってはいた。

「レレテス第三王子、セスタ・オールセン・レレテスです」

 まさか王子様だとは思わなかった。
 白い肌に見事な長い水色の髪を一括りにまとめ、立ち居振る舞いにも品があった。
 セスタは、スラっとした体格で、レイジェルの方が体格は良いように見える。
 レイジェルに名簿を見せてもらった時に特使が王子だという事に驚いた。

『どうしてレレテスは、王子を特使に?』
『大事な会合で王子を特使として派遣する事は珍しい事じゃない。私も父上の代わりに他国へ赴く事は多々ある。それだけこの訪問に力を入れていると思っていい』

 正直、アスラーゼでは王子として役に立っていなかった。レイジェルの隣にいるためには、もっと勉強しないといけないと思う。

『王子の他に……従者と護衛が数人いて……えっと……護衛隊長はガレオ。従者長はシェスって人だね。レイジェルは、彼らに会ったことは?』
『ない。海の向こうの大陸とは、お互いの大陸同士に余計な口出しはしないという暗黙の了解のようなものがあった。大陸を統一した者同士が争えば、ただでは済まないからだ。お互いに干渉しない事で火種を作らないというのが根底にあったんだが……それを今回は、一歩踏み込んだ形になる』

 いつもより真剣な顔をしたレイジェルと、そんな会話をしたのを覚えている。

 ガレオは、護衛というだけあってレイジェルよりも体格が良かった。短髪でいかにも力が強そうだ。
 シェスはセスタと同じような体格で、薄灰色の絹糸のように美しい髪を肩につかない程度に切っていて清潔感がある。従者だけあってセスタの背後に控えて大人しく見える。

「レレテス第四王女、システィーナと申します。目新しい物がたくさんありますわね」

 目の前のウェーブ掛かった薄桃色の髪を腰まで下ろした可愛らしい女性は上品に笑った。
 更に驚いていたのは、セスタの妹である王女も一緒に来た事だった。名簿には載っていなかった。

「妹は自由奔放な性格で、テレフベニアに付いていくと言ってきかなくて……急な事でご迷惑を掛けるかもしれませんが、大目に見てあげて下さい」
「お兄様ったら、ひどいわ」

 頬を膨らます仕草も可愛らしい。兄妹も仲が良さそうで微笑ましい。

 レレテスの王族がテレフベニアにやってきた名目は、簡単に言えば今後の交易を盛んにしようという事だった。
 現在、海の向こうの大陸との接点はほぼない。船は大金が掛かる乗り物で、国でしか管理ができないのが現状だった。船がある国というのが珍しいのだ。それを一般市民などにも広く開放し、港町に人を集め、お互いの利益にしようという条約を結ぶ為の訪問だった。その条件をお互いに提示して話し合う。これはなかなか大仕事だと思う。
 今回のレレテス御一行の訪問が上手くいって無事に条約が結ばれれば、俺の評価も上がるはずだ。と思っても、全くもって役に立てそうにはない。

「テレフベニアは、この大陸を纏め上げる大国。噂では、レイジェル殿下は【冷徹な若獅子】と呼ばれているとか」

 どこで調べてきたのか、セスタは爽やかな笑顔でそんな事を言う。一歩間違えれば失礼とも捉えられる発言でこちらの反応を見ているようだ。

「敵には容赦しない、という点では間違っていません」

 レイジェルは至って冷静に受け応えている。さすがだと思う。

「敵だと思われないようにしないとですね」

 ニコッと笑うセスタに、レイジェルも笑顔を返して口を開く。

「レレテスはテレフベニアと同じように、海の向こうの大陸で一番の大国だと聞きました。その立役者は【無慈悲な銀狼】の率いる騎士団だったとか……ガレオ殿は【銀狼団】の団員ですか?」

 ガレオの騎士服の肩の部分に縫い付けられている紋章は、銀の狼が牙を剥いているようなデザインだった。
 かっこいい刺繍でもっと間近で見てみたい。

「そうです。我が国の自慢の騎士団ですよ」
「私もセスタ殿下に嫌われないようにしないとですね」

 笑顔で言葉のジャブを打ち合って、腹の探り合いをしているようだ。既に色々始まっているような気がして遠い目をしたくなる。

「お疲れでしょう。仕事の話は明日にして、部屋にご案内します」
「それなら、女性の方にお願いしたいですね」

 俺に向かってニコッと笑ったセスタに作っていた笑顔のままで固まる。
 この人は、女好きなのだろうか……。

「それでしたら、わたくしがご案内しますわ」

 俺の横から笑顔でズイッと前に出てきたのはマリエラだった。
 この特使の接待は、マリエラも一緒だった。マリエラの父親であるベルエリオ公爵は、どうやらこの特使の接待で俺よりもマリエラの方が優れているのだと知らしめたいらしい。
 セスタは、マリエラに向かってニコッと笑った。

「マリエラ嬢でしたね。とても可愛らしい」
「ありがとうございます。とても嬉しいですわ。では、こちらにどうぞ」

 マリエラは、城内を良く知っているので自信満々に歩いて行く。マリエラの横に笑顔のセスタが並ぶ。ガレオとシェスは、その後から付いて行ってしまった。
 出遅れてしまった……マリエラの後を追ってみんな歩き出してしまったので、今更俺が案内するとも言えなかった。

「それなら、レイジェル殿下には私のエスコートをお願いします」

 システィーナは、すかさずレイジェルの隣へ行き、その腕に捕まった。
 レイジェルの腕にシスティーナの胸が当たっている気がするぅ! 俺に無いものを武器にされたら太刀打ち出来ない。

 システィーナはレイジェルをまっすぐに見つめてニコッと笑った。頬をピンク色に染めている。
 レイジェルは苦笑いを返していた。大事な特使を無碍むげには出来ない事はわかっている。相手に名指しされればエスコートしなければいけない。

 俺は列の後方でみんなの背中を見ながら歩く事しかできなかった……。
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