大魔法使いは二度目の人生を〝普通〟に楽しみたい

おみなしづき

文字の大きさ
9 / 77
入学前

実技試験

しおりを挟む
「次は実技試験です。訓練場へ行ってください」
「はい」

 魔法の練習ができる訓練場はとても広い。そこで実技試験がある。

 訓練場に足を踏み入れて、そこにいた人物に胸がドキリと鳴った。
 一瞬頭が真っ白になる。

 リンゼイ──なんでこんな所にいるんだ……。

 そう思っても顔に出さないように注意する。

 俺にとっては数ヶ月だけれど、リンゼイの時間は3年以上経っているんだよな……。
 それでもリンゼイは変わらず、彫刻のような綺麗な顔をしていた。
 少し痩せたか?
 黒髪は肩まであって、深海のような青い瞳が俺を見た。

 ああ……良かった……こんな形でも、無事だったのだと知れた。

「こちらへ」
「はい」

 なんでリンゼイが試験官なんかしているんだろう……。

「名前は?」
「──ディノ・バスカルディです」

 これ以上、何も考えるな──関わらないようにしようと決めたばかりだ。

「そこの用紙に描いてあるどの魔法陣を使ってもいいので、あそこにある木を倒して下さい」
「はい」

 リンゼイが指差したその場所には、自分の身長より少し大きめな木があった。
 机の上にある手のひら位の大きさの魔法陣が描いてある用紙を手に取って見てみる。
 なるほど。この初級の魔法陣が何の魔法陣なのかもわからないといけないわけだ。
 知識も必要な試験だ。

 どれどれ──なんだこれ……ふふっ。頭に花が咲く魔法陣か。
 水を頭から被る魔法陣。
 落とし穴が出現する魔法陣。

 こんな悪戯みたいな魔法陣を作ったのはリンゼイか?
 魔法陣を知らない人はこれに引っかかるわけだ。
 クスクスと笑ってしまう。

「君にはその魔法陣がわかるのかい?」

 リンゼイに声を掛けられてドキリとした。

「あ……いえ……」

 なんと答えたらいいのかわからない……初級なら知っていても大丈夫なはず……。

「少しだけ……」
「それなら、どれを使うのかはわかるよね?」

 優しく笑う顔に胸が痛くなる。

「はい……」

 エルドが受けた試験と違うんだな。
 毎年実技は試験が変わるみたいだ。

 風の魔法陣を選んでしゃがみ込み、魔法陣を地面に置いて手をついて風を起こそうと魔力を通す。
 魔法陣の使い方はまだ慣れなくて時間が掛かる。
 いちいち魔法陣に魔力を通すという行為が自分に合っていないのだ。

 すると、集中しているところに背後からポンッと肩を叩かれてビクリと震えた。
 急に触るなよ……びっくりするだろ……。
 リンゼイを見れば、さっきと同じように優しく微笑んでくれた。
 胸の奥がズキズキと痛む──。

「緊張しないで。ゆっくりでいいから」
「は、はい……」

 俺が緊張していると思ったのか。
 相変わらず優しいやつだ。口角が少し上がりそうになるのを我慢する。

 どうにか魔法陣から小さい竜巻のような風を出して木を薙ぎ倒した。

「魔法陣がわかった大抵の子は火を選んだ。火は攻撃魔法の最上位だ。そっちの方がアピールにもなる。それなのに、君はどうして風魔法に? 火魔法が使えないのかい?」
「──木はまだ生きています。倒すだけでいいのなら、火を使う必要はありません。焼き尽くしてしまうのは可哀想でしょう?」

 フッと笑ってやれば、驚いたように目を見開かれた。
 どこかに驚くような要素があったか……?

「君は……」

 今度は考え込んだ。
 これで不合格って事はないだろうな?
 余計な事を言ってしまう前にリンゼイと離れたい。

「リンゼイ先生、もう終わりですよね? 戻ります」

 そのまま訓練場を出ようと歩き出せば、なぜだかガシッと腕を掴まれた。
 俺の腕を掴んでいるリンゼイの腕に着けられていた腕輪に目が行った。
 まだそんな物を持っていたのか……効力も何もないただの腕輪になってしまったはずだ。
 それを見て、どうしようもなく胸が痛い。
 
「待って。私は君と会った事があるんだろうか……?」

 なんで急に……。

「いいえ。ありません」

 じっと見つめられて、視線を逸らす。
 この時間が気まずい。
 すると、手を離してくれてホッとした。

「すまなかったね……私の勘違いみたいだ」

 見た目が全然違う。俺だと気付くはずはない。
 訓練場を出るまでじっと見られているような視線を背中に感じて、なんだか緊張した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹
BL
不幸な王子は幸せになれるのか? 異世界ものですが転生や転移ではありません。 素敵な表紙はEka様に描いて頂きました。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」 最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。 そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。 亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。 「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」 ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。 彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。 悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。 ※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。   ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。 そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。 恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。 交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。 《ワンコ系王子×幸薄美人》

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...