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入学後
甘い記憶と儚い夢 ②
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店を出る頃には、リンゼイと離れ難い。
「この後どうするんですか?」
「寮に君を送る」
「えぇー!? どこにも行かないんですか!?」
「君は生徒だよ。こっそり抜け出すのはここまでだよ」
リンゼイは先生だもんな……でも、リンゼイと過ごせたからいっか。
少しだけの息抜きがこんなにも楽しかった。
店を出て二人で学院までの道のりを並んで歩く。
辺りはすっかり暗くなり、歩いている人も少ない。
そんな中で、俺の隣にリンゼイがいる。
不思議な感覚だ……。
「ディノ……君はエルドを知っている?」
ドキリとした。
異常に喉が渇いた気がしてゴクリと唾を飲み込む。
「トランダムの英雄で【冷酷無慈悲な悪魔】でしょう? 知らない人はいませんよ」
声が震えないように、なんて事ないように、当たり障りのない返答で誤魔化す。
「そうだね。私は、そのエルドと一緒にいたんだ……ずっと……」
前を向いて歩いていたリンゼイがふと俺に視線を寄越す。
立ち止まったのは俺が先かリンゼイが先か──。
「君は──魔法陣が必要ないのかい?」
やっぱり見られていたんだ……。
冷や汗が背中を伝う。
「──そんな事あるわけないじゃないですか! 魔法陣ならベルナルド先生に借りていた物を手に持っていました」
冷静に平静を装え。
「そっか……そうだよね……。そんな事が出来るわけないんだ……」
「そうです。リンゼイ先生から見えなかっただけですよ」
街灯に照らされたリンゼイの顔がくしゃりと歪んだ。
「わかっているんだ……そんなはずないって……でも、おかしいんだ……君がエルドに見えるんだ……っ」
辛そうに話すリンゼイに何も言えなかった。
「魔法を使っていた後ろ姿も、好きな食べ物も左利きなのも、机に頬杖をついてこちらを見る癖も、屈託なく笑う顔も……ディノとエルドの違いを探しても、何も見つからないんだ……っ!」
真っ直ぐに俺を見るリンゼイの青い瞳に吸い込まれそうだった。
「教えて欲しい……ディノ……君は誰……?」
必死に俺へと訴えるようなその瞳に全て見透かされてしまいそうだ。
リンゼイになら打ち明けても──……いや、俺はまだ普通の魔法使いになれていない。
もしも俺が普通じゃないと知られたら、またリンゼイが危険な目に遭う可能性がある。
思い出せ──。
俺はリンゼイを守りたいんだろう。俺はリンゼイのそばにいてはいけない。関わらせてはいけないんだ。
倒れていたリンゼイが脳裏に蘇ってくる。
俺がリンゼイを傷付けた……全部俺が悪い。
俺自身がリンゼイを不幸にする──。
「僕は──……ディノ。ディノ・バスカルディ」
ディノになって初めて、名乗る事を苦痛に感じた。
「そう……」
リンゼイの顔が陰ってしまう。
「ごめんね。私はエルドが大好きだったから……ずっと忘れられなくて……」
無理して笑おうとしたリンゼイに、心臓がギュッと絞られたように痛い。
エルドだった時、一度だってそんな事を言ってはくれなかった……でも、それは俺も同じだ。お互いに言えなかったんだ。
「変な事言って……本当に……ごめん……」
リンゼイの声は、はっきりと聞こえるのに消えてしまいそうだった。
先に歩き出したのはリンゼイだ。
その後をついて歩く。
先を歩くリンゼイの背中を見つめる事しかできない。
「もう勘違いしないようにする」
呟かれた言葉に、胸の奥が膿んだ傷のようにジクジクと疼く。
勘違いなんかじゃない。俺はディノであり、エルドだ。
お前は俺の姿が変わっても、俺だって気づいてくれるんだな……。
リンゼイの背中が寂しそうで、手を伸ばそうとして……ギュッと手を握って下ろした。
「エルドはもう居ないんですよ──リンゼイ先生はもっと周りに目を向けた方がいいです。エルドなんかよりもあなたを大事にしてくれる人がいますから……」
リンゼイには幸せになる権利がある。
「私は彼しか要らない。この世にエルドが居ないなら、私は一人でいい」
静かでもはっきりと聞こえてきた。
ばかやろう……。
死んでからもう三年経ったんだ。
いつまでも俺を想っているじゃない。そんな切ない声で言葉を紡ぐんじゃない。
早く幸せになってくれ……そう思うのに、俺は嬉しかった。
俺だけだというリンゼイに心が震えてしまう。なんて浅ましい魂と心。
今だって本当はお前に言いたい。
俺だって──今でもリンゼイが大好きだって──。
リンゼイは、もうそれ以上俺を見なかった。
俺は、背後を振り向かないリンゼイの後を無言でついていくだけだった。
このまま振り向かないで欲しい。今振り向かれたら上手に嘘がつけそうにない。
リンゼイと一緒にいたいと願うのはとても儚い夢だ。
今はただ、先を歩くリンゼイの背中を見つめる事だけを許して欲しいと思った──。
「この後どうするんですか?」
「寮に君を送る」
「えぇー!? どこにも行かないんですか!?」
「君は生徒だよ。こっそり抜け出すのはここまでだよ」
リンゼイは先生だもんな……でも、リンゼイと過ごせたからいっか。
少しだけの息抜きがこんなにも楽しかった。
店を出て二人で学院までの道のりを並んで歩く。
辺りはすっかり暗くなり、歩いている人も少ない。
そんな中で、俺の隣にリンゼイがいる。
不思議な感覚だ……。
「ディノ……君はエルドを知っている?」
ドキリとした。
異常に喉が渇いた気がしてゴクリと唾を飲み込む。
「トランダムの英雄で【冷酷無慈悲な悪魔】でしょう? 知らない人はいませんよ」
声が震えないように、なんて事ないように、当たり障りのない返答で誤魔化す。
「そうだね。私は、そのエルドと一緒にいたんだ……ずっと……」
前を向いて歩いていたリンゼイがふと俺に視線を寄越す。
立ち止まったのは俺が先かリンゼイが先か──。
「君は──魔法陣が必要ないのかい?」
やっぱり見られていたんだ……。
冷や汗が背中を伝う。
「──そんな事あるわけないじゃないですか! 魔法陣ならベルナルド先生に借りていた物を手に持っていました」
冷静に平静を装え。
「そっか……そうだよね……。そんな事が出来るわけないんだ……」
「そうです。リンゼイ先生から見えなかっただけですよ」
街灯に照らされたリンゼイの顔がくしゃりと歪んだ。
「わかっているんだ……そんなはずないって……でも、おかしいんだ……君がエルドに見えるんだ……っ」
辛そうに話すリンゼイに何も言えなかった。
「魔法を使っていた後ろ姿も、好きな食べ物も左利きなのも、机に頬杖をついてこちらを見る癖も、屈託なく笑う顔も……ディノとエルドの違いを探しても、何も見つからないんだ……っ!」
真っ直ぐに俺を見るリンゼイの青い瞳に吸い込まれそうだった。
「教えて欲しい……ディノ……君は誰……?」
必死に俺へと訴えるようなその瞳に全て見透かされてしまいそうだ。
リンゼイになら打ち明けても──……いや、俺はまだ普通の魔法使いになれていない。
もしも俺が普通じゃないと知られたら、またリンゼイが危険な目に遭う可能性がある。
思い出せ──。
俺はリンゼイを守りたいんだろう。俺はリンゼイのそばにいてはいけない。関わらせてはいけないんだ。
倒れていたリンゼイが脳裏に蘇ってくる。
俺がリンゼイを傷付けた……全部俺が悪い。
俺自身がリンゼイを不幸にする──。
「僕は──……ディノ。ディノ・バスカルディ」
ディノになって初めて、名乗る事を苦痛に感じた。
「そう……」
リンゼイの顔が陰ってしまう。
「ごめんね。私はエルドが大好きだったから……ずっと忘れられなくて……」
無理して笑おうとしたリンゼイに、心臓がギュッと絞られたように痛い。
エルドだった時、一度だってそんな事を言ってはくれなかった……でも、それは俺も同じだ。お互いに言えなかったんだ。
「変な事言って……本当に……ごめん……」
リンゼイの声は、はっきりと聞こえるのに消えてしまいそうだった。
先に歩き出したのはリンゼイだ。
その後をついて歩く。
先を歩くリンゼイの背中を見つめる事しかできない。
「もう勘違いしないようにする」
呟かれた言葉に、胸の奥が膿んだ傷のようにジクジクと疼く。
勘違いなんかじゃない。俺はディノであり、エルドだ。
お前は俺の姿が変わっても、俺だって気づいてくれるんだな……。
リンゼイの背中が寂しそうで、手を伸ばそうとして……ギュッと手を握って下ろした。
「エルドはもう居ないんですよ──リンゼイ先生はもっと周りに目を向けた方がいいです。エルドなんかよりもあなたを大事にしてくれる人がいますから……」
リンゼイには幸せになる権利がある。
「私は彼しか要らない。この世にエルドが居ないなら、私は一人でいい」
静かでもはっきりと聞こえてきた。
ばかやろう……。
死んでからもう三年経ったんだ。
いつまでも俺を想っているじゃない。そんな切ない声で言葉を紡ぐんじゃない。
早く幸せになってくれ……そう思うのに、俺は嬉しかった。
俺だけだというリンゼイに心が震えてしまう。なんて浅ましい魂と心。
今だって本当はお前に言いたい。
俺だって──今でもリンゼイが大好きだって──。
リンゼイは、もうそれ以上俺を見なかった。
俺は、背後を振り向かないリンゼイの後を無言でついていくだけだった。
このまま振り向かないで欲しい。今振り向かれたら上手に嘘がつけそうにない。
リンゼイと一緒にいたいと願うのはとても儚い夢だ。
今はただ、先を歩くリンゼイの背中を見つめる事だけを許して欲しいと思った──。
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