大魔法使いは二度目の人生を〝普通〟に楽しみたい

おみなしづき

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入学後

魔法陣学 三年生

 教卓の上には箱が置いてあり、魔石がたくさん入っている。

「今日は魔石について学んでもらうぞ。魔法陣と魔石は切り離せないからな」

 魔石があれば、魔力がなくても魔法陣が発動する。魔石は便利だ。

「魔石は色んな種類があるが、そのほとんどはここにあるものが主流だ」

 魔法陣学のアンリ先生は、箱の魔石を一つ手に取った。

「これらは、生徒達が寮で使っているシャワーなどで使った魔石だ。空になった魔石を交換しにきた人も何人かいるだろう?」
「俺、この前交換に行きました」

 寮のほとんどは魔石でできるようになっていた。
 授業以外で魔力を使うのは、魔力の少ない人にとっては大変な事だからだ。

「それらの魔石が勝手に魔力が貯まるわけがない。三年生が定期的に魔力の補充をしているんだ」

 なるほど。確かにこんな量の魔石に魔力を込めるのは先生だけじゃ足りない。

「もしかして……それ……全部魔力を込めるんですか?」

 クラスの一人が言えば、アンリ先生はニヤリと笑う。

「君たちもわかってきたな。魔力のなくなる限界までやれ」

 俺の魔力で補充したら、結構な量の魔石に魔力を込められる。
 途中で手を抜かないといけない。

 気になるのは、俺らの教室の後ろで見ているマベルだ。
 やりづらい……。

「全員前に来て初めてくれ」

 席から立って前に行き、みんなで教卓の前に集まった。
 幾つかの魔石を持ってその場で魔力を込める。
 くすんだ薄灰色の魔石が真っ白に変わる。魔力がこもった証拠だ。
 それを別の箱に移せば完了だ。

「ほぅ。ディノは、魔力の扱いが上手いじゃないか」
「え……?」

 周りをよく見れば、魔力を魔石に込められなくて四苦八苦している生徒が数人いる。
 魔石に魔力を込めるのって難しいんだったか!?

「それなのに、なぜ魔法陣に魔力を通すのが苦手なのかわからん……」
「そ、そうですね……あはは……」

 腕を組んで悩むアンリ先生に苦笑いだ。
 これでも少しは発動時間が早くなったんだけどな。

「ディノ。こっちにも寄越してくれ」

 隣にいたメルフィスに幾つか手渡す。

「メルフィスも早いな」

 メルフィスがいて良かった。俺だけが目立つわけじゃない。

 順調に魔石に魔力を込めていく。
 途中で魔力切れになって席に戻って突っ伏してしまう生徒が何人か出てきた。
 俺はそこそこ魔力がある設定だから、まだやらなきゃな。

 いつの間にか隣がブルーノになっていた。

「俺も魔力はあるかならな。ディノになんか負けないぐらい数こなしてやる」

 はいはい。エーベルトと付き合っても俺の事が気に入らないのは相変わらずらしい。
 もうこれが普通なんだよね。

 箱の魔石も少なくなってきていて、ブルーノが手を突っ込んで魔石を取り出す。
 その魔石の色が黒だった。
 それを見た瞬間にゾクッと鳥肌が立った。

「あれ? こんな色の魔石初めて見るな。魔力込めていいのかな?」
「ブルーノ! 手を離せ!」

 思わずブルーノの腕を握った。その反動でブルーノの手から魔石が落ちて床に転がる。

「おい! ディノ! 何すんだよ!」
「馬鹿っ! あれは普通の魔石じゃない!」
「はぁ?」
「いいから! 触るな!」

 ちっと舌打ちされたけれど、ブルーノが手を離して良かった。
 魔力の無くなった魔石は、薄灰色が普通だ。

 ごく稀に魔石自体に特別なものがある。
 リンゼイにあげた腕輪の魔石がそれだった。あの魔石には癖があって、俺以外の魔力を受け付けない。だから強力だったし、他の奴らに弄られる事もなくて安全だった。

 黒い魔石は、魔力を込めるとなんらかの魔法が発動する──。
 火魔法だったとしたら火傷する。

 すると、今まで見ているだけだったマベルがこちらに来て、その石を拾い上げた。

「ディノ・バスカルディ。君はこの魔石がなんの魔石なのかわかるんですね」
「っ……」

 今の行動は普通じゃなかったのかもしれない……。
 アンリ先生が俺の前に立ってくれた。

「マベル様! その魔石はマベル様のものですか!? 持ち込む許可はあるんですか!? 生徒の安全が第一です! 困ります!」

 庇ってくれる背中に感動する。
 やっぱりここの先生方はちょっと意地悪だけれど、立派な人たちだと思わずにいられない。

 アンリ先生がマベルに説明を求めるが、マベルはニコニコとしている。

「大丈夫ですよ。ほら」

 マベルが魔石に魔力を込めると、辺りに風が吹いた。
 髪が靡く程度の風が教室に吹いている。
 それだけ……。

「これは、暑い時に私が使っているもので害はありません。それに、四つ星以上の魔法使いにしか魔力を込められません。私の私物が生徒の魔石に混じってしまったのでしょう。すみません。以後気をつけます」

 マベルの言葉に周りはホッと安心していた。

 やられた……。
 俺は試された? まさかとは思うが疑われている?
 それとも本当に偶然?

 マベルは、エルドとリンゼイの同級生で、エルドと話したのなんてマベルが学院を卒業してからだ。
 俺がエルドだからってマベルに関係ないはずだ。

 もしもあの魔石が風が吹くだけのものじゃなかったらと思うと怖い。
 授業でこんな風に試されるのは他の生徒にも迷惑が掛かる。
 マベルの目的をはっきりとさせたい。
 その日の夜、俺は自分からマベルの部屋を訪ねに行った。
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