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家族の推薦する人

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「困ったな……何を基準に決めたらいいんだ?」
「アデル。突出して好きなやつがいないんだろう? なら、兄が決めてやる」

 ウル兄さんの言葉にみんなの注目が集まる。

「カラムだ」

 カラムは得意げに胸を張る。

「カラムはいい男だぞ。大使としてイザドアにおもむいた時はとても良くしてくれた。イザドアの民にも人気はあるし、何より男らしい。アデルは、カラムの好きなところはないのか?」

 カラムの好きなところ?
 カラムをジッと見れば、ニヤリと笑う。

「……瞳が好きだ。鷹のような瞳はカッコよくて、何者にも屈しないような意志を感じる。ずっと見ていられる」
「ほぅ。初めて聞いたな。なかなか嬉しいものだな。アデルの側にいたなら抱きしめていたぞ」

 先程言ったばかりの鷹の瞳でこちらを見ていた。
 少し恥ずかしいと思うのは気のせいか?
 すると、父が口を開く。

「おい。ふたりきりの空気を作るな。カラム殿下には先程注意したばかりだぞ。ウル、お前がカラム殿下を推すなら、俺はギルバートを推そう」
「父さん!」

 父の言葉に、ウル兄さんは厳しい顔をして、ギルは目を見開いた。
 ギルは、まさか自分が騎士団長から推薦されるとは思わなかったらしい。

「今はまだ若く経験も少ないが、将来はシドラスの騎士団にとって、かけがえの無い人物になるだろう。ギルバートは幼い頃から知っている。言葉は少ないが真っ直ぐで、アデルを大切にするだろう。それに、ギルバートは次男だ。ギルバートとの結婚ならばアデルは嫁に行く必要もない。アデル、ギルバートに対しても好きな所はあるだろう?」

 ギルをジッと見れば、幼い頃からのたくさんの思い出が蘇る。
 ギルは、いつも優しい。どんな時も私の事を一番に考えてくれていた。
 三人の中で、一番一緒にいる時間が長い。

「ギルの優しさが好きだ。さっきも私を気遣ってくれた。それに、剣を持った姿も男らしい」

 父は、グッと口籠ったウル兄さんにニヤリと笑う。
 ギルは、照れているのかそっぽを向いたが耳が赤かった。
 照れ屋な所も相変わらずだ。

「人から推薦されるという事は、それだけ人望があるという事だ。カラム殿下かギルバートで決めるといい」
「待って!」

 レオが納得できないという雰囲気で父に食ってかかった。

「まだ結論を出すのは早いよ。もう少し僕の事も考えてほしいな」
「レオフィルド殿下は、ローマンの弟ですからな……結婚させるのも気が引けるんですよ」
「それは心外だ。兄と僕とは関係ないよ。僕だって三男だし、こちらに婿に来てもいいよ」
「それなら考えてもいいですな」

 ニコニコ顔のレオに父は面白そうに笑っている。

 すると、客室のドアがバタンッと勢いよく開かれた。

「おい! 家族の大事な話をしているのに、どうして俺に言わないんだ!」

 怒りながら入ってきたのはラース兄さんだった。

「ラースは仕事だったろう?」

 父が受け応える。

「父さんもウルも仕事だろ!?」
「俺はレオフィルド殿下の護衛中で、ウルはカラム殿下の護衛中だ」
「護衛しているようには見えない!」
「自分の家だからなぁ」

 ラース兄さんは、ガッハッハと笑う父に悔しそうな顔をする。
 父もウル兄さんも現在仕事中らしい。
 ラース兄さんは、夜勤の当番で城の守衛をしていたそうだが、交代になって慌てて帰ってきたそうだ。
 せっかく駆けつけてくれたのだ。ラース兄さんの意見も聞いてみよう。

「ラース兄さんはどう思う?」
「今は何の話をしているんだ?」
「父さんはギルがいいと言って、ウル兄さんはカラムがいいと言った。ラース兄さんはどうだ?」
「もちろんレオフィルド殿下だ! 今日の事を教えてくれたのはレオフィルド殿下だけだからな! 俺をちゃんと家族だと思ってくれているのはレオフィルド殿下だけだ!」

 ラース兄さんは、仲間はずれにされてちょっといじけているらしい。
 苦笑いするしかない。
 レオを見ると、ニコニコしている。

「待っていたんだ。ありがとう、ラース」

 ラース兄さんは何度も頷いて、レオフィルド殿下は素晴らしいと言った。

「ラースに声を掛けたのは、こういう状況を見越していたとしたら末恐ろしい王子だな……」

 父さんは何やらレオに対してぶつぶつ言っている。

「アデルは僕の好きな所もあるでしょう?」

 レオが私に問いかけてくる。

「もちろん。レオの努力をしている所が好きだ。努力を見せようとはしないが知っている。それに、甘いものが好きな所も好感が持てる」

 レオは、街に出るために城での勉強や稽古など、誰よりも熱心に取り組んで時間を作っていた。
 その事も直接聞いたわけではない。そんな努力家なレオは好ましい。
 レオは、照れているのかほんのりと頬を染めて、ふふふと笑う。

「アデル、ありがとう。僕は君といるためならどんな事も頑張れるよ」
「そんな事……普段言わなかった」

 照れ臭くて真っ直ぐに顔が見れない。

「婚約者がいるのに言えると思う?」
「確かに……」

 婚約者がいた時だったら、友人として受け取ってしまっていただろう。
 今は私を好いてくれているとわかる。
 人からの好意とは恥ずかしいものなんだな。

「やはり決め手がない……」

 ボソリとつぶやけば、ウル兄さんはズイッと前のめりになる。

「カラムだ。カラムは俺だけじゃなく、イザドアの王族も国民も推している」

 今度は、ラース兄さんが一歩前に出る。

「いいや、レオフィルド殿下だ。殿下だってトラキネシアの王族も国民も推してるぞ」

 最後に父が兄達に睨みを効かせる。

「ギルバートだ。シドラスの騎士達は、全員ギルバートを推す。お前達以外はな」

 家族の意見がバラバラになってしまった……。
 当人達よりも白熱してしまったようで少し呆れる。

「平行線だな……」
 
 私の呟いた言葉は、言い争うみんなには聞こえていないようだった。
 結局、話し合いは平行線のまま終わり、誰が婚約者になるのかは保留になった。
 最後に父はこう言った。

「お前達にアデルの時間を一日やろう。そこで自分達をアピールしろ。自分と結婚したらどれほど有益かをアデルに示せ」

 その言葉に皆お互いを見やる。
 ギルは表情が変わっていないし、レオはニコニコしているし、カラムはニヤリと笑い得意げだ。

「アデルもそれで決定しろ。いいな?」
「はい」

 どうなるのかと不安だ。
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