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レオフィルドのターン

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 私の非番の日に合わせて順番に会うことになった。
 一番最初に時間ができたのは、レオだった。
 レオはやはり努力家だった。できる事は前倒しして自分の時間を調整し、どうにか一日時間を作った。

 待ち合わせに指定された場所は街のシンボルである時計塔の前だった。
 少し早めの時間に行ったけれど、レオは先に待っていた。私に気付いて手を振って走ってきた。

「アデル! 来てくれたね」

 ニコニコ顔がいつもより紅潮しているようで、それほど私と会えるのが嬉しかったのだろうかと微笑ましく思う。

 父に、よく見てこいと言われているので、レオを観察する。
 こう見ると、レオは幼い時はほんわりとした感じだったけれど、今はそれにキリッとした感じがプラスされている。
 身長は私より少しだけ高くて、大きくもなく小さくもない。
 街に溶け込むような普通の少年のような格好だけれど、こういう服も良く似合う。

「やっぱり僕達と言えば街かなって思って」
「ああ。思い出深いからな」

 レオが歩き出せば、隣に並んで歩いた。
 すると、スッと腕を差し出してきた。

「今日の僕達は恋人だよ。腕に掴まって歩いてみない?」

 そんな普通の令嬢がするような事をしたことがない。
 結婚したらするべきだろうな。
 そう思って、レオの腕に掴まった。
 レオは自分から腕を差し出したのに、驚いているようだった。

「アデル……本当にしてくれるなんて思わなかった」
「擬似体験というやつだな。結婚したら、こうやってエスコートされて歩くことにも慣れないと」
「ふふっ。嬉しいよ。じゃあ、行こう」

 そのまま連れて行かれたのは、お洒落な喫茶店。
 良くくるのか、すぐに個室に案内されて、ケーキと紅茶を頼んだ。
 こうやってお茶をするのはいつもと同じだけれど、違うのは距離だ。
 レオは、隣同士に座ってニコニコとこちらを見ていた。

「レオ……そうやって見られていると食べ辛い……」
「気にしないで」

 ふとレオの分のケーキが減っていない事に気付く。

「ケーキ食べないのか?」
「食べるよ……アデルの事よく見てから……」

 なんでだ?

「レオ。一緒に食べた方が美味しいのでは?」
「……そっか。そうだね。じゃあ、アデルが食べさせてくれる?」

 レオの顔とレオのケーキを交互に見る。

「アデルが食べさせてくれるなら、一緒に食べられるでしょ?」

 笑顔でフォークを差し出されれば、それを握った。
 自分でケーキを食べられないとは、子供のようで笑ってしまう。

「わかった。食べさせてやろう」

 レオにフォークで取ったケーキを差し出した。
 口を開けたレオになんだか少し照れくさい気がする。
 ケーキをパクリと食べた後に少し赤くなって微笑まれる。

「美味しいね」
「そ、そうか……」

 なんだこれは?
 恥ずかしいな……。

 どうにか全部食べさせたら、クスクスと笑われた。

「アデル……真っ赤だよ? 少しは意識した?」
「照れ臭かった……これが意識するという事なんだな……」
「ふふっ。嬉しいな。もしも結婚したら、また食べさせてね」
「そうだな」

 二人で微笑み合う時間は楽しかった。

「次は……リンゴ飴を食べに行こう」

 嬉しそうなレオに頷いた。

     ◆◇◆

 思い出の露天は、何年経ってもずっと同じ場所にある。
 店主とはすっかり顔馴染みになった。

「また来たね。今日は二つでいいのかい?」
「ああ。お願いする」
「ほら、どうぞ」
「ありがとう」

 リンゴ飴を受け取って二人で食べているとレオに誰かがドンッとぶつかった。
 その拍子にリンゴ飴がその人の服に付いてしまった。
 顔を顰めた男は、レオを睨んだ。

「おい。汚れたじゃないか」
「申し訳ありません」

 ぶつかってきたのはその男の方なのにレオは丁寧に謝った。
 王子の時は謝れない。けれど、街の青年に扮している時のレオは頭も下げる。
 レオの態度にその男は、ニヤリと笑った。

「弁償だな」
「では、服を買います」
「あいたたたたっ! ぶつかった拍子に腕が折れたな。服だけじゃダメだ」

 腕を押さえて大袈裟に痛がっている。
 さっきまで普通じゃなかったか?
 これは、因縁というやつだな。
 そうか。わざとレオにぶつかってきたんだ。

「おい。どうしたんだ?」

 男の周りから別の男達が覗き込んできた。

「こいつに腕を折られた」
「そりゃ大変だ。治療費と慰謝料が必要だな」

 レオに手を伸ばしてきた別の男の手を掴んで捻り上げた。

「いててててっ……!」

 これ以上は見過ごせない。
 レオに怪我でもさせてしまったら護衛として恥だ。
 レオを背に庇うように、男達の前に立ち塞がった。

「彼に指一本でも触れてみろ。腕を折るだけじゃ済まさない」
「アデル……カッコイイ……」
 
 レオが何か呟いたけれど気にしていられない。睨みを利かせて男達を牽制する。
 腕を掴んでいた男を別の男に放り投げてやる。
 男達は、後ずさって私達の間に少し隙間ができた。

「な、なんだ、お前!」
「レオは弁償すると言った。それを拒否したも同然。このまま帰れば見逃してやる」
「ふざけんな! やっちまえ!」

 殴りかかろうとしてきた奴らを返り討ちにして地面に沈ませる。
 最後の一人になったやつを背負い投げてやった。
 派手に転んだやつらを腕を組んで見下ろして更に凄む。

「お前達、街の人達にもそうやって因縁つけているのか? この先も同じ事をするつもりなら衛兵に突き出してやる」
「も、もうしません……!」
「なら、今は許す。文句があるなら、シドラス騎士団に来い。お前達の根性叩き直してやる」
「シドラス騎士団!?」
「すみませんでしたぁ……!」

 恐怖に慄いて逃げていくやつらの背中を見送った。
 もう悪い事をしないといい。
 ふぅっと一息ついて、レオに向き直る。

「レオ、怪我はないか?」
「大丈夫。アデル……ありがとう」
「幼い頃の約束は今も有効だ。私はレオを命懸けで守るよ」
「アデル……」

 嬉しそうなレオに微笑めば、そっと手を伸ばされた。
 近付いた距離にドキドキした瞬間に街の人達にわぁっと囲まれた。

「あいつらには困っていたんです!」
「この果物あげるから食べて!」
「ほら、リンゴ飴。途中で落としただろ?」

 リンゴ飴を受け取って、レオと一緒に食べて笑い合った。
 レオは、私にとって太陽みたいだ。
 一緒にいると周りが明るくなる。そんなレオと毎日を過ごせたらきっとキラキラとした毎日が迎えられる気がした。
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