腹黒執事はご主人様を手に入れたい

おみなしづき

文字の大きさ
2 / 16

いつも考えております

しおりを挟む
 立派な玄関のドアを開けて、煌麻様を見送る。

「煌麻様、いってらっしゃいませ」
「いってくる」

 チラリと見られて、ニッコリと微笑む。
 この離れたくないという毎朝の視線を受け流さなければいけないのが苦しい。
 本当なら、抱きしめてやってもいいのに……。

「お寂しいのですか?」

 ニッコリしたまま声を掛ければ、ハッとして私を睨む。

「ぜんっぜん」
「ふふっ。私も煌麻様と離れるのは寂しいですよ」

 本当に片時も離れていたくないと思っているのに、こういう事を言うと煌麻様は私がふざけているのだと思うらしい。

「全然だって言ってるだろう! もう行く!」

 煌麻様は、嬉しいのを隠そうとしてすぐに車に乗り込もうとする。

「煌麻様、離れていても私はいつもあなたの事を考えておりますよ」

 ずっとずっとあなたの事しか考えていない。
 思わず足を止めて振り返った煌麻様の顔は、照れて赤くなっていた。

「──……別に……寂しくなんかない……」

 視線を逸らしてそう言った煌麻様が愛おしくてフッと優しく笑ってしまった。

     ◆◇◆

 煌麻様がいない間、この邸宅でやる事はたくさんある。
 それらをこなしながら、寄越される煌麻様の定期連絡を受ける。

 煌麻様が通う学園には特別科というものがあり、そこの科に入れるのは大富豪の御子息達だった。
 学園には、私のちょっとした知り合いがいて煌麻様の報告をしてくれる。

『今日は、慎也しんや様に絡まれてましたよ』
「またですか……」

 慎也は、分家の次男坊で煌麻様の一つ下の従兄弟だ。
 本家は煌麻様の方なので、何かというと煌麻様に絡んでいるらしい。
 そろそろ慎也を黙らせるべきか──。

『絡むと言っても子供の馴れ合い程度ですね。煌麻様は気にしてないみたいですよ。煌麻様に話しかける人があまりいないんで、あしらいながらも少し喜んでますね』

 ふと、口元が綻ぶ煌麻様が思い浮かんだ。

 気に入らない──。

 けれど、卒業して大学に行くようになれば、今ほど慎也には会わなくなるだろう。
 私情は置いておいて、煌麻様が喜んでいるなら良しとするべきか。

「わかりました。しばらくは様子見でお願いします」
『了解です』

 煌麻様が帰る時間になれば、窓から見えた車を確認して、玄関のドアを開けてお出迎えだ。

「お帰りなさいませ」
「ただいま」

 私を見て、嬉しいのに視線を逸らす煌麻様が今日も尊い。

「お変わりはありませんでしたか?」
「ないよ」

 ニッコリ微笑んで聞けば、ちゃんと答えてくれる。

「崇臣、お茶したいから洋梨のタルト出して。紅茶はディンブラがいい」
「かしこまりました。制服はいかが致しますか?」
「そのままでいい」

 着替えずにお茶にするらしい。
 煌麻様が庭の見えるお気に入りの部屋に向かった。
 その間に言われたものを用意して、煌麻様に差し出した。

「ここにいるのか?」

 ふと問いかけられた。
 
「はい。他にも必要があれば何なりとお申し付け下さい」
「そ、そうか……」

 煌麻様の横に立っていれば、目元が少し綻んで嬉しそうだ。
 私と一緒にいられるのが嬉しいらしい。ああ可愛い──。
 タルトを食べ終わり、食後の紅茶を飲みながら横目で見られる。

「今日の仕事は終わったのか?」

 煌麻様にそんな質問をされた。
 屋敷の仕事でやらなければいけない事は、煌麻様の世話に専念できるようにもちろん終わりにしている。
 けれど、その事を伝えはしない。

「これも仕事の一つですよ」

 ニッコリ微笑みながら、煌麻様の事も仕事ですと匂わした。
 最近は、こうやって煌麻様に自分は特別じゃないのではないかという疑問を抱かせている。
 煌麻様は悲しそうに視線を紅茶に落とした。

 ゾクゾクッ──。

 この顔……たまらないな……。
 もっともっと不安になればいい。
 私を手に入れたいと思うほどに──。

「……もういらない……」

 そっとティーカップを置いた煌麻様を見て微笑む。
 
「煌麻様、まだ終わってない仕事がありました。こちらへどうぞ」

 煌麻様を別の部屋に移動させた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

処理中です...