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いつも考えております
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立派な玄関のドアを開けて、煌麻様を見送る。
「煌麻様、いってらっしゃいませ」
「いってくる」
チラリと見られて、ニッコリと微笑む。
この離れたくないという毎朝の視線を受け流さなければいけないのが苦しい。
本当なら、抱きしめてやってもいいのに……。
「お寂しいのですか?」
ニッコリしたまま声を掛ければ、ハッとして私を睨む。
「ぜんっぜん」
「ふふっ。私も煌麻様と離れるのは寂しいですよ」
本当に片時も離れていたくないと思っているのに、こういう事を言うと煌麻様は私がふざけているのだと思うらしい。
「全然だって言ってるだろう! もう行く!」
煌麻様は、嬉しいのを隠そうとしてすぐに車に乗り込もうとする。
「煌麻様、離れていても私はいつもあなたの事を考えておりますよ」
ずっとずっとあなたの事しか考えていない。
思わず足を止めて振り返った煌麻様の顔は、照れて赤くなっていた。
「──……別に……寂しくなんかない……」
視線を逸らしてそう言った煌麻様が愛おしくてフッと優しく笑ってしまった。
◆◇◆
煌麻様がいない間、この邸宅でやる事はたくさんある。
それらをこなしながら、寄越される煌麻様の定期連絡を受ける。
煌麻様が通う学園には特別科というものがあり、そこの科に入れるのは大富豪の御子息達だった。
学園には、私のちょっとした知り合いがいて煌麻様の報告をしてくれる。
『今日は、慎也様に絡まれてましたよ』
「またですか……」
慎也は、分家の次男坊で煌麻様の一つ下の従兄弟だ。
本家は煌麻様の方なので、何かというと煌麻様に絡んでいるらしい。
そろそろ慎也を黙らせるべきか──。
『絡むと言っても子供の馴れ合い程度ですね。煌麻様は気にしてないみたいですよ。煌麻様に話しかける人があまりいないんで、あしらいながらも少し喜んでますね』
ふと、口元が綻ぶ煌麻様が思い浮かんだ。
気に入らない──。
けれど、卒業して大学に行くようになれば、今ほど慎也には会わなくなるだろう。
私情は置いておいて、煌麻様が喜んでいるなら良しとするべきか。
「わかりました。しばらくは様子見でお願いします」
『了解です』
煌麻様が帰る時間になれば、窓から見えた車を確認して、玄関のドアを開けてお出迎えだ。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
私を見て、嬉しいのに視線を逸らす煌麻様が今日も尊い。
「お変わりはありませんでしたか?」
「ないよ」
ニッコリ微笑んで聞けば、ちゃんと答えてくれる。
「崇臣、お茶したいから洋梨のタルト出して。紅茶はディンブラがいい」
「かしこまりました。制服はいかが致しますか?」
「そのままでいい」
着替えずにお茶にするらしい。
煌麻様が庭の見えるお気に入りの部屋に向かった。
その間に言われたものを用意して、煌麻様に差し出した。
「ここにいるのか?」
ふと問いかけられた。
「はい。他にも必要があれば何なりとお申し付け下さい」
「そ、そうか……」
煌麻様の横に立っていれば、目元が少し綻んで嬉しそうだ。
私と一緒にいられるのが嬉しいらしい。ああ可愛い──。
タルトを食べ終わり、食後の紅茶を飲みながら横目で見られる。
「今日の仕事は終わったのか?」
煌麻様にそんな質問をされた。
屋敷の仕事でやらなければいけない事は、煌麻様の世話に専念できるようにもちろん終わりにしている。
けれど、その事を伝えはしない。
「これも仕事の一つですよ」
ニッコリ微笑みながら、煌麻様の事も仕事ですと匂わした。
最近は、こうやって煌麻様に自分は特別じゃないのではないかという疑問を抱かせている。
煌麻様は悲しそうに視線を紅茶に落とした。
ゾクゾクッ──。
この顔……たまらないな……。
もっともっと不安になればいい。
私を手に入れたいと思うほどに──。
「……もういらない……」
そっとティーカップを置いた煌麻様を見て微笑む。
「煌麻様、まだ終わってない仕事がありました。こちらへどうぞ」
煌麻様を別の部屋に移動させた。
「煌麻様、いってらっしゃいませ」
「いってくる」
チラリと見られて、ニッコリと微笑む。
この離れたくないという毎朝の視線を受け流さなければいけないのが苦しい。
本当なら、抱きしめてやってもいいのに……。
「お寂しいのですか?」
ニッコリしたまま声を掛ければ、ハッとして私を睨む。
「ぜんっぜん」
「ふふっ。私も煌麻様と離れるのは寂しいですよ」
本当に片時も離れていたくないと思っているのに、こういう事を言うと煌麻様は私がふざけているのだと思うらしい。
「全然だって言ってるだろう! もう行く!」
煌麻様は、嬉しいのを隠そうとしてすぐに車に乗り込もうとする。
「煌麻様、離れていても私はいつもあなたの事を考えておりますよ」
ずっとずっとあなたの事しか考えていない。
思わず足を止めて振り返った煌麻様の顔は、照れて赤くなっていた。
「──……別に……寂しくなんかない……」
視線を逸らしてそう言った煌麻様が愛おしくてフッと優しく笑ってしまった。
◆◇◆
煌麻様がいない間、この邸宅でやる事はたくさんある。
それらをこなしながら、寄越される煌麻様の定期連絡を受ける。
煌麻様が通う学園には特別科というものがあり、そこの科に入れるのは大富豪の御子息達だった。
学園には、私のちょっとした知り合いがいて煌麻様の報告をしてくれる。
『今日は、慎也様に絡まれてましたよ』
「またですか……」
慎也は、分家の次男坊で煌麻様の一つ下の従兄弟だ。
本家は煌麻様の方なので、何かというと煌麻様に絡んでいるらしい。
そろそろ慎也を黙らせるべきか──。
『絡むと言っても子供の馴れ合い程度ですね。煌麻様は気にしてないみたいですよ。煌麻様に話しかける人があまりいないんで、あしらいながらも少し喜んでますね』
ふと、口元が綻ぶ煌麻様が思い浮かんだ。
気に入らない──。
けれど、卒業して大学に行くようになれば、今ほど慎也には会わなくなるだろう。
私情は置いておいて、煌麻様が喜んでいるなら良しとするべきか。
「わかりました。しばらくは様子見でお願いします」
『了解です』
煌麻様が帰る時間になれば、窓から見えた車を確認して、玄関のドアを開けてお出迎えだ。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
私を見て、嬉しいのに視線を逸らす煌麻様が今日も尊い。
「お変わりはありませんでしたか?」
「ないよ」
ニッコリ微笑んで聞けば、ちゃんと答えてくれる。
「崇臣、お茶したいから洋梨のタルト出して。紅茶はディンブラがいい」
「かしこまりました。制服はいかが致しますか?」
「そのままでいい」
着替えずにお茶にするらしい。
煌麻様が庭の見えるお気に入りの部屋に向かった。
その間に言われたものを用意して、煌麻様に差し出した。
「ここにいるのか?」
ふと問いかけられた。
「はい。他にも必要があれば何なりとお申し付け下さい」
「そ、そうか……」
煌麻様の横に立っていれば、目元が少し綻んで嬉しそうだ。
私と一緒にいられるのが嬉しいらしい。ああ可愛い──。
タルトを食べ終わり、食後の紅茶を飲みながら横目で見られる。
「今日の仕事は終わったのか?」
煌麻様にそんな質問をされた。
屋敷の仕事でやらなければいけない事は、煌麻様の世話に専念できるようにもちろん終わりにしている。
けれど、その事を伝えはしない。
「これも仕事の一つですよ」
ニッコリ微笑みながら、煌麻様の事も仕事ですと匂わした。
最近は、こうやって煌麻様に自分は特別じゃないのではないかという疑問を抱かせている。
煌麻様は悲しそうに視線を紅茶に落とした。
ゾクゾクッ──。
この顔……たまらないな……。
もっともっと不安になればいい。
私を手に入れたいと思うほどに──。
「……もういらない……」
そっとティーカップを置いた煌麻様を見て微笑む。
「煌麻様、まだ終わってない仕事がありました。こちらへどうぞ」
煌麻様を別の部屋に移動させた。
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