腹黒執事はご主人様を手に入れたい

おみなしづき

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ご報告でございます

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 聖蘭に会った数日後、峰貞からの連絡を受けていた。

『広隆のやつ、本当にお金貸して下さいって相談に来ましたよ。吸ってたタバコ落としそうになりました』

 その場面が想像できてクスリと笑う。

「それで、お金は渡してあげましたか?」

 私が用意したのはそれほど大した額ではないけれど、数ヶ月は二人でやっていける筈だ。

『はい。俺が返さなくていいなんてセリフを言うのは最初で最後ですよ。自分の金じゃないから言えたことですね。それにしても、どうして二人が駆け落ちするってわかったんですか?』
「聖蘭にとっての宮園家は、息苦しくて仕方がなかったんです。退屈でつまらない事が嫌いな人でした。それが日々の態度にも見えていました。家から連れ出してくれる男が、ヒーローの様にカッコよく見えるのは当たり前かと思います」

 まぁ……二人で逃げた後の事は知りませんが──。
 苦労はするだろうけれど、聖蘭が宮園家に戻って来る可能性はないと言える。
 聖蘭は、伸び伸びと暮らしている事だろう。家から逃げるのが彼女の望みだったからだ。

「峰貞、協力ありがとうございました。今度、私の店でご馳走しますよ」
『一体何店舗経営してるんですか……』
「ふふっ。こちらで書類仕事をするだけで、人に任せきりです。峰貞のような優秀な部下がたくさんいて、私は恵まれていますよ」
『その辺のお店が崇臣さんの……なんて事ないですよね……?』

 電話越しの声が引きつっていてクスクスと笑った。

     ◆◇◆

 数日後、静麻様は煌麻様が寝る頃にビデオ通話をかけて来た。
 煌麻様の部屋で、煌麻様を椅子に座らせてパソコンの画面を見せる。
 静麻様は、スーツ姿で煌麻様と同じように椅子に座っていた。
 その一歩後方で、二人の様子を見守る。

『煌麻。元気そうだな』
「はい。父さん」
『お前に重要な話がある』
「なんですか?」

 静麻様は、気の毒そうに煌麻様を見つめた。

『その……な……お前の婚約者の事なんだが……』
「聖蘭ですか?」
『ああ……その宮園聖蘭の事だ』
「なんでしょうか?」

 煌麻様は、キョトンとしていた。
 言いづらそうな静麻様に頑張れと心の中で励ます。

『婚約は白紙になった……』
「え……?」
『そのな……宮園家の話では、聖蘭は体調を崩して静養する事になったらしい……と言うのは建前で、男と駆け落ちしたようだ』
「はぁ……」

 煌麻様は、それほど驚いた様子はなくて安心する。

「政略結婚でしたよね? こちらの損害はないのですか?」

 しかもそんな事を言い出した。家の事を心配するだなんて正直驚いた。
 さすが煌麻様だ。

『元々、向こうから頼まれて結んだ婚約だ。こちらの損害はない。むしろ宮園家が責任を取るという形で平謝りで、こちらに有利な条件で仕事ができる。プラスになった』
「それなら良かったです」
『お前……意外と落ち着いているな』

 静麻様も煌麻様の落ち着きように感心していた。

「そうですか? まぁ……聖蘭の事を特別に好きという訳ではありませんでしたから」
『そうか。それじゃあ、新しい婚約の話を進めてもいいな?』

 そう──なるよな……。

 煌麻様は、この家の後継者だ。結婚しないなんて事は無理だとはわかっていた。
 聖蘭は、煌麻様の相手に相応しくなかった。それに、個人的に嫌いだった。だから排除しただけで、別のもっと相応しい誰かが来る。それに私も納得しなきゃいけない。

 なんて──納得できるはずがない。

 心を殺して煌麻様とその伴侶に仕える事が一番いいのだとわかっていても、そんな事はできない。
 そんな事ができるなら、最初から手を出す事などしない。
 誰よりも煌麻様の事を考えているのは、この私だと断言できる。
 誰にも渡したくはないし、全て私のものにしたい。

 煌麻様はまだ私のものではない。
 煌麻様から好きだと言う言葉さえもらえれば後は──……。
 
「その事なんですが、僕からもお話しようと思っていました」
『なんだ?』
「僕は結婚しません」

 …………今、煌麻様は結婚しないと言ったか?

 考えていた事がパッとかき消されて煌麻様の背中に集中する。
 画面越しの静麻様は、厳しい顔をしつつも煌麻様を見つめていた。

「結婚をしなくても天野宮家を継ぐ事はできます」
『お前が継いだ後はどうするつもりだ?』
「姉の子供を後継者として育てようと思います。姉夫婦とは話し合いました。それで問題はないでしょう」

 驚いた……いつの間に……。

 もしかしたら煌麻様は、私が余計な心配をしなくても、全てご自分で解決できたんじゃないだろうか……。

『もう話し合っていたのか。ならば問題はない。だが……結婚しない理由はなんだ?』
「僕が好きな人は、男性だからです」
『崇臣か?』

 え……?
 間髪入れずに出てきた自分の名前に呆気に取られる。

「はい。彼の事が好きです」

 煌麻様もサラリと答えた。
 ちょっと待て。
 さすがの私も開いた口が塞がらない……思わず口元を手で隠した。

 この状況はなんだろうか……煌麻様は私の想像を軽く飛び越えてくる。

 煌麻様が私を好きなのはわかっていた。後は煌麻様から好きだと言ってもらえれば良かった。
 それが、私自身に言う前に父親に言うってどういう事だ……。

 そんな煌麻様が──本当に愛おしくてたまらない……。

『崇臣、お前もそんな顔をするんだな』

 静麻様はクスクスと笑いながらそんな事を言うので、煌麻様が私の方を振り向いた瞬間に慌てて顔を逸らす。

「崇臣! 顔を見せろ!」
「…………」

 顔がニヤけそうで煌麻様に顔を向けられない。

「崇臣!」

 何度か深呼吸をして煌麻様にいつもの笑顔を向ければ、頬を膨らませた。

「いつもと同じじゃないか……」

 煌麻様はまたも画面に向き直る。

『それで……崇臣は、うちの煌麻をパートナーとして一生支えてくれるのか?』

 一生……支える……パートナーとして……。
 これは私の都合の良い夢なんだろうか?

「もちろんでございます──」

 お辞儀をして心に誓う。
 心が震えて止まらない。

『まぁ……お前らが仲が良いのは昔からだからな。いつかそうなると思っていた。なぁ忠臣ただおみ

 静麻様の後方から顔を覗かせたのは父だ。

『そうですね。煌麻様しか興味のない子ですからね』

 余計なお世話だ。

『煌麻様は、崇臣でよろしいのですか?』
「崇臣がいいんだ……僕には崇臣が必要なんだ」

 私は今日、死ぬんだろうか……。
 こんな事があっていいのか……。

『崇臣、煌麻様をしっかり支えるんだ』

 そう言って父は、画面から消えた。

『下手な相手と結婚させるより、崇臣のような優秀なパートナーといる方が煌麻も仕事に励めるというものだ。それに、天野宮は息子の結婚を利用するほど落ちぶれてもいない』

 ニヤリと笑う静麻様は天野宮の当主としての貫禄があった。

『崇臣、煌麻をよろしく頼む。それじゃあ、また連絡する』

 静麻様は、そう言って通話を切った。
 前から奇特な方だとは思っていたが、柔軟性がありすぎる。
 これが天野宮家を繁栄させる理由なのかもしれない。

 煌麻様は、私を振り返って顔を赤くしている。

「崇臣……ちゃんと聞いてくれてたか?」
「いいえ。聞いていませんでした」
「な、なんだと……?」

 煌麻様は、顔が引きつっている。
 ああ可愛い。

「もう一度言って下さい……今度は私の目を見てお願いします──」

 じっと見つめれば、再び顔を赤くして口を開いた。

「崇臣、お前が好きだ。ずっと好きだった……お前じゃないとダメだ。お前がいい……僕にはお前が必要だ。これからも僕の隣はお前しか考えられ──んっ!」

 唇を唇で塞いでしまった。
 これ以上聞いていたらここで押し倒してしまう。
 いや……唇を奪ってしまった時点でもう手遅れか……。

「んっ……た、崇臣……」

 そっと押し返されて、ほんの少しの冷静さを取り戻す。

「今度こそ聞いてたか?」
「はい……しっかりと聞かせていただきました。静麻様に反対されたらどうするつもりでしたか?」
「結婚で大事なのは後継ぎだ。その問題が解決していれば、反対なんてされない。僕の父親だからな」

 煌麻様は、私なんかよりも何倍もやり手な気がする。
 ニヤリと笑った顔が先ほどの静麻様と被る。思わず顔が綻んだ。
 成長していらっしゃる……。

「崇臣……嬉しいか?」
「はい。とても……──とても嬉しく思います……」

 心の中を見せてあげたいぐらい、私はこんなにも煌麻様を愛している。

「じゃあ、今度こそ僕をお前のものにしてくれるか?」

 煌麻様の真剣な顔に呆気に取られる。

「意味は……」
「わかっている」

 あ。赤くなった。

「崇臣は、僕が欲しいんだろう?」
「──欲しいです! めちゃくちゃ欲しいです!」

 想いのまま抱きしめたら、抱きしめ返してきた。

 こんなにも愛おしい──。

「寝室に行くぞ……」

 私の腕の中でボソリと呟いた煌麻様は、私の手を引いて歩き出した。
 私の前を歩く煌麻様に戸惑いながらついて行く。
 またしても顔がニヤけそうで口元を押さえる。
 こんな風にリードされる日が来るとは思っていなかった。
 先ほどの事もとても頼もしかった。

 こんな煌麻様を見せられたら……もう限界です。
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