腹黒執事はご主人様を手に入れたい

おみなしづき

文字の大きさ
10 / 16

バレなければ企みではございません ②

しおりを挟む
 峰貞に会って少しして、街で偶然を装って聖蘭に会った。
 彼氏の広隆と腕を組んでデート中だ。

「た、崇臣……」

 さすがに聖蘭も現行犯は気まずいらしい。

「これはこれは聖蘭様」

 ペコリとお辞儀をして、男の方に目を向ければ目が合った。
 気に入らなそうに私を見ている。

「誰?」

 聖蘭は、必死で黙っていろと目で訴えてくる。
 そんなのは気付かないフリをして無視する。

「聖蘭様の婚約者である方の執事です」

 ニッコリ笑顔でその通りの事を告げれば、広隆は眉間に皺を寄せた。

「は? なにそれ……どういう事?」
「ち、違うのよ! 婚約者って言っても親が決めた婚約者で……私は結婚なんてしたくないわ!」

 よくもまぁはっきりと言ってくれる……。
 でも、聖蘭の気持ちもよくわかった。

「おや? 勘違いでなければ、お二人はお付き合いをされていらっしゃるんですか?」
「ああ。俺は聖蘭の彼氏だ。その婚約者ってやつに会わせろよ」

 ずいっと近づかれて胸ぐらを掴まれそうになった。その手首をすかさず掴んで力を入れれば動かせなくなって顔を歪める。

「申し訳ございません。私の主人は何も知らない事ですので了承しかねます」

 聖蘭が慌てて間に入ってくる。

「ひろくん、やめて! 崇臣、離して!」

 パッと手を離せば、その腕をさすりながら睨まれた。

「ふざけやがって……」
「申し訳ございません。服の乱れは心の乱れにも繋がります。(あなたごときに)乱されたくありません」

 ニッコリ笑顔で言えば、チッと舌打ちをして、今度は聖蘭を睨んだ。

「聖蘭……お前……俺と結婚したいって言ったよな? あれもみんな嘘か……?」
「違うわ! 私は本気でひろくんと結婚したいと思ってる!」
「それなら、なんでまだ婚約なんてしてんだ?」
「だって! 家が決めた事だもの! 私が嫌だって言ってもどうにもならない!」

 通行人に見られているけれど、目が合った人には気にしないで下さいという気持ちを込めて笑顔で軽くお辞儀をしておく。

「俺は……遊びか?」
「違う!」
「じゃあ! お前に家を捨てて俺の所に来る度胸があんのかよ! ねぇんだろ! もう俺に構うなよな!」

 腕に縋っていた聖蘭を振り払って広隆はスタスタと歩いて行ってしまった。

「聖蘭様……大丈夫ですか?」

 立ちすくむ聖蘭にそっと声を掛けた。

「あ……私……」
「聖蘭様は、あの男性と共にいたいのですか?」

 コクリと頷かれる。

「煌麻様との婚約は、宮園家にとって最重要です。宮園家は、お二人の仲を許しはしないでしょう」
「わかってる……だから大人しく従ってきたの。でも、私はあの人と一緒にいたいの!」
「では、どうするのですか?」

 心配そうに覗き込めば、深刻そうな顔で下を向いた。

「どうしよう……どうしたら……」

 悩む素振りをしながら、聖蘭に囁いた。

「では──駆け落ちなんてどうですか?」

 私の顔をまじまじと見つめる聖蘭にニッコリと微笑む。

「そ、そんな事……」
「できないと思いますか?」

 ほら……考えてる……。

「できるの……?」
「逃げればいいだけです。手に手を取って誰も知らない街で二人で暮らしたらどうでしょう? 彼もあなたに本気みたいでした。愛のない結婚をするより、きっと幸せになりますよ」

 幸せ……なんて甘い響きだ。
 聖蘭は、視線を彷徨わせてからコクリと頷いた。

「やってみる……」

 そう言うと思った。
 それしかないんだと思い込んでいる。

「天野宮家の方は、私にお任せ下さい。宮園家には悟られないようにすぐに家を出る事をお勧めします」
「その……今日の事は……」
「私は今日あなた達に会いませんでした。ご安心を──」

 ニッコリ笑顔をむければ、未来に希望があるかのような顔を向けられた。

「崇臣、ありがとう……!」
「二度と戻ってはいけませんよ──。手遅れになる前に彼を追いかけた方がよろしいでしょう。さぁ、早く」

 再びコクリと頷いた聖蘭は、走って広隆の後を追いかけた。

 戻ってきたとしても、煌麻様との婚約は白紙で、別の誰かと結婚させられるだけだろう。
 宮園家は、子供を利用する事をなんとも思わない家系だ。
 聖蘭は、本気で想い合う相手と結ばれて、案外幸せになるかもしれない。

「お元気で──」

 見えなくなった聖蘭の背中に声を掛けて鼻歌を歌いながら歩き出す。

 買い出しの途中だった。
 さぁ、煌麻様のために今日も励みますよ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

処理中です...