腹黒執事はご主人様を手に入れたい

おみなしづき

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バレなければ企みではございません ②

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 峰貞に会って少しして、街で偶然を装って聖蘭に会った。
 彼氏の広隆と腕を組んでデート中だ。

「た、崇臣……」

 さすがに聖蘭も現行犯は気まずいらしい。

「これはこれは聖蘭様」

 ペコリとお辞儀をして、男の方に目を向ければ目が合った。
 気に入らなそうに私を見ている。

「誰?」

 聖蘭は、必死で黙っていろと目で訴えてくる。
 そんなのは気付かないフリをして無視する。

「聖蘭様の婚約者である方の執事です」

 ニッコリ笑顔でその通りの事を告げれば、広隆は眉間に皺を寄せた。

「は? なにそれ……どういう事?」
「ち、違うのよ! 婚約者って言っても親が決めた婚約者で……私は結婚なんてしたくないわ!」

 よくもまぁはっきりと言ってくれる……。
 でも、聖蘭の気持ちもよくわかった。

「おや? 勘違いでなければ、お二人はお付き合いをされていらっしゃるんですか?」
「ああ。俺は聖蘭の彼氏だ。その婚約者ってやつに会わせろよ」

 ずいっと近づかれて胸ぐらを掴まれそうになった。その手首をすかさず掴んで力を入れれば動かせなくなって顔を歪める。

「申し訳ございません。私の主人は何も知らない事ですので了承しかねます」

 聖蘭が慌てて間に入ってくる。

「ひろくん、やめて! 崇臣、離して!」

 パッと手を離せば、その腕をさすりながら睨まれた。

「ふざけやがって……」
「申し訳ございません。服の乱れは心の乱れにも繋がります。(あなたごときに)乱されたくありません」

 ニッコリ笑顔で言えば、チッと舌打ちをして、今度は聖蘭を睨んだ。

「聖蘭……お前……俺と結婚したいって言ったよな? あれもみんな嘘か……?」
「違うわ! 私は本気でひろくんと結婚したいと思ってる!」
「それなら、なんでまだ婚約なんてしてんだ?」
「だって! 家が決めた事だもの! 私が嫌だって言ってもどうにもならない!」

 通行人に見られているけれど、目が合った人には気にしないで下さいという気持ちを込めて笑顔で軽くお辞儀をしておく。

「俺は……遊びか?」
「違う!」
「じゃあ! お前に家を捨てて俺の所に来る度胸があんのかよ! ねぇんだろ! もう俺に構うなよな!」

 腕に縋っていた聖蘭を振り払って広隆はスタスタと歩いて行ってしまった。

「聖蘭様……大丈夫ですか?」

 立ちすくむ聖蘭にそっと声を掛けた。

「あ……私……」
「聖蘭様は、あの男性と共にいたいのですか?」

 コクリと頷かれる。

「煌麻様との婚約は、宮園家にとって最重要です。宮園家は、お二人の仲を許しはしないでしょう」
「わかってる……だから大人しく従ってきたの。でも、私はあの人と一緒にいたいの!」
「では、どうするのですか?」

 心配そうに覗き込めば、深刻そうな顔で下を向いた。

「どうしよう……どうしたら……」

 悩む素振りをしながら、聖蘭に囁いた。

「では──駆け落ちなんてどうですか?」

 私の顔をまじまじと見つめる聖蘭にニッコリと微笑む。

「そ、そんな事……」
「できないと思いますか?」

 ほら……考えてる……。

「できるの……?」
「逃げればいいだけです。手に手を取って誰も知らない街で二人で暮らしたらどうでしょう? 彼もあなたに本気みたいでした。愛のない結婚をするより、きっと幸せになりますよ」

 幸せ……なんて甘い響きだ。
 聖蘭は、視線を彷徨わせてからコクリと頷いた。

「やってみる……」

 そう言うと思った。
 それしかないんだと思い込んでいる。

「天野宮家の方は、私にお任せ下さい。宮園家には悟られないようにすぐに家を出る事をお勧めします」
「その……今日の事は……」
「私は今日あなた達に会いませんでした。ご安心を──」

 ニッコリ笑顔をむければ、未来に希望があるかのような顔を向けられた。

「崇臣、ありがとう……!」
「二度と戻ってはいけませんよ──。手遅れになる前に彼を追いかけた方がよろしいでしょう。さぁ、早く」

 再びコクリと頷いた聖蘭は、走って広隆の後を追いかけた。

 戻ってきたとしても、煌麻様との婚約は白紙で、別の誰かと結婚させられるだけだろう。
 宮園家は、子供を利用する事をなんとも思わない家系だ。
 聖蘭は、本気で想い合う相手と結ばれて、案外幸せになるかもしれない。

「お元気で──」

 見えなくなった聖蘭の背中に声を掛けて鼻歌を歌いながら歩き出す。

 買い出しの途中だった。
 さぁ、煌麻様のために今日も励みますよ。
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