攻め×攻め事情

おみなしづき

文字の大きさ
1 / 22

問題児VS生徒会長

しおりを挟む
 睨んだだけで相手がビビる男、糸崎いとざき近嗣ちかつぐ
 色素の薄い茶色い髪に、目はくっきりとした二重に鼻が高く、堀の深い顔。派手な見た目とは裏腹に無口なところが余計に絡まれる原因だった。
 噂では、喧嘩は負け知らずらしい。

 そんな男と対峙しているのは悪魔の微笑と呼ばれる微笑みを顔に貼り付けてニッコリと笑っている樋口ひぐち美羽みはね。生徒会長だ。
 眼鏡の奥の瞳は常に笑っているように見えるのに、彼の厳しさを知るものは彼を見ても笑えない。

 男子高校生がはしゃぎながら行き交う放課後の廊下で睨み合っている。

「糸崎くん、言葉を理解できない猿にわかりやすく言ったつもりなんだが、わからなかったか?」
「……るせぇ」

 近嗣の方が身長が高く、美羽を上から見下ろす。
 辺りがシーンと静まり返る。

「君のその手は人を殴るためにあるんじゃない。暴力で相手を威圧する行為は猿にも等しい。いや、猿に失礼か……」
「…………」

 美羽は、睨みつける近嗣に対して、悪魔の微笑で対抗している。

「糸崎おっかねー……」
「生徒会長……あの糸崎に一歩も引かないんだもんな……」
「二人ともマジすげー……」

 周りの野次馬もヒソヒソと囁き合う。

「嫌ならケンカなんてするんじゃなかったな。ペナルティとして奉仕活動を強制する。理解できたか?」
「──放課後は……やる事がある……」
「もう決まった事だ。嫌ならケンカをするんじゃない。生徒会で預かる事になって迷惑なんだ」

 美羽がため息と共に発した言葉に近嗣は一瞬怯む。

「……生徒会で?」
「ああ。生徒会室で僕の補佐をしてもらう事になった」

 そこで、副会長の前原まえはらしのぶが間に割って入る。

「会長が先生方に温情をもらったんだ! 生徒会で預かるから、それでケンカの件で処分するのは勘弁してやって欲しいって頭を下げたんだ!」
「…………」
「…………」

 見つめ合う二人に一瞬暖かい空気が流れたのは誰もわからない。
 むしろ睨み合っているかのように見える。

「……放課後は生徒会室へ行けばいいのか?」
「そうだ。これから来い。逃げるなよ」

 近嗣は頷いてから、無表情のまま美羽に付いていく。

「樋口会長、やっぱり僕も一緒に……!」

 忍が一緒に行こうとする。
 
「大丈夫だ。彼の面倒は僕一人で十分だ。生徒会で急ぎの仕事はないんだ。帰るといい」
「で、でも……!」
「忍」

 美羽の静かでも空気が震えるような声音に、忍はぐっと口籠る。

「僕が大丈夫だと言っている」
「は、はい……わかりました。お疲れ様でした」

 忍が了承すれば、美羽はニッコリと笑った。

「お疲れ様」
「は、はい! (会長……やっぱりかっこいいなぁ……)」

 忍は、美羽に笑顔を向けられてニヤける。
 このやりとりをしている間に、近嗣の方には自称舎弟の信谷のぶたにさとしが声を掛けていた。

「糸崎さん! そんな奴の言う事なんか聞く事ないっすよ!」
「借りは……返す……」
「あのケンカは、俺の友達を守ってくれたからじゃないっすか! それなら、俺が処分されれば……!」
「関係ない……さっさと帰れ」

 近嗣は聡を一瞥しただけで、もう相手にしなかった。

「糸崎さん……(まじ痺れる……)」

 こうして、二人はその場を後にする。

 美羽は、生徒会室のドアを開けて、近嗣を招き入れた瞬間に鍵を閉めた。
 二人で向き合えば、近嗣の顔がフッと柔らかくなる。
 美羽はため息をついて近嗣を見上げる。
 
「チカ……怪我は?」

 美羽は、そっと近嗣の顔に手を添えた。

「大丈夫……」

 近嗣は、顔に添えられた美羽の手を取って、指先にチュッとキスをする。

「まったく……心配かけさせるな」
「ごめんね……」

 シュンとしてしまった近嗣に、美羽は優しく微笑む。
 二人がこんな顔をするのは二人きりの時だけだ。

「怪我がないならいい……チカは自分からケンカしないって知ってるからな」
「迷惑かけたね……」

 美羽は、はぁとため息をついた。

「何のために同じ高校にしたんだ。万が一、退学にでもなったら困る」
「ごめん……」

 近嗣は、美羽をギュッと抱きしめる。

「放課後……会う時間……無くなるかと思った……」

 近嗣の言葉に美羽はクスクスと笑う。

「そうなりそうだったから、逆にこうやって生徒会室で会えるようにしたんじゃないか」
「みぃちゃん……」

 近嗣が甘えるように美羽にスリスリとする。

「先生方を説得するの大変だったんだからな。いつも学校にバレないようにしろと言ってるだろう」
「ごめん……」
「謝ってばかりじゃなく、悪いと思ってるなら……」

 美羽の顔が近嗣に近付く。

「どうするんだ?」
「こうする……」

 近嗣は、美羽の唇にチュッとキスを落とした。
 二人で微笑み合いながら、抱きしめ合う。

 この二人は付き合っている。だが、それを知る者は誰もいない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

処理中です...