テレワークから始まる大人の恋もある。

みょうじん

文字の大きさ
21 / 52

ホテルと隣人

しおりを挟む
『あれ、なんでホテルなんですか?』
私の背景に広がる光景を見て、即座に矢賀さんはホテルで仕事をしていることを見破る。
「いや、ちょっとあって」
流石に昨晩の出来事を全て説明するわけにもいかず、なんとか誤魔化すことを試みる。
『それに目元が腫れっぽいような』
「いつもと光の当たり方が違うからかもしれませんね」
本当は眠りが浅くてそうなってしまったのだが。
『服装がいつもよりラフじゃない?』
「そういう気分のときもあります」
矢賀さんは少し考えるように、顎に右手を当てて少し黙る。そしてはっと思いついたかのように深刻な顔で私に聞いてくる。
『……ワンナイトラブ?』
「違います」
本当に違うからやめて頂きたい。もちろん冗談だったのだろう、私の反応にけたけたと矢賀さんは笑う。
『ま、せんぱいにそんな気力はないかあ』
「この話は止めましょう。お互いにハラスメントの恐れがありますから」
『はあーい。でも、なんか困っていたりするなら言って下さいよ!』
一般論として矢賀の態度には問題ありとされるが、なんだかんだ彼女は気遣いが出来る優しい人間だと思う。それが分かりにくい、ということで少し損しているような印象を持っているが、本人が気にしてなさそうなのに私が口を出すのもおかしな話だろう。
「ええ、ありがとう。問題が解決しなかったら、矢賀さんに一番に相談しますよ」
正直、会社の人間に話すような内容ではないし、別に何かに悩んでいるわけでもない。しかし、実際のところ、この件でさらに何かあった場合、私の周りにいる人間の中では矢賀さんが一番的確なアドバイスをしてくれそうなのは事実だ。
『約束っすよ!……じゃ、そろそろ打ち合わせ始めますかあ。えーと、T社の件からですが……』

「了解しました。そちらについては後ほどメールで指示を送ります。他に何か気になるところとかはありましたか?」
『特に無いっす。金曜日のランチはどこに行くのか気になっているくらいかな!』
矢賀さんはいい笑顔で、元気に聞いてくる。
「ああ、そうですね……矢賀さんは中華料理とイタリアン、具体的にはピザとかだとどっちがいいですか?」
『むむむ、どっちも誠司さんのおすすめのお店ですよね?』
「はい、どちらも自信を持って美味しいと思うところです。もちろん、矢賀さんに合うかどうかは未知数ですけれど」
『うーん……じゃあ中華でお願いしまっす!』
少々意外な選択だった。彼女はどちらかといえばジャンキーな食べ物とか洋風な物を好む傾向にあると思っていたのだが。
「あなたのことだからイタリアンかと思っていました」
『いえいえ、むしろ普段は選ばないからこそ中華に行こうっていう話っすよ』
「なるほど、そういうことですか。じゃあ、適当に予約しますので、前日までにはメールします。ちょっと遅いですが13時集合とかになると思います。場所は◇◇◇駅の近くですが、矢賀さんの自宅からは遠いですか?」
『そこなら家から15分くらいで行けます!』
「うん、それなら大丈夫そうですね。じゃあ、そういうことでよろしくお願いします」
『はあーい、ばいびー』
彼女が満面の笑みで両手を振っているのを見ながら通話を終了する。
卓上の時計を確認すると、12時半。このままお昼休みに入ることにした。
このタイミングでスマートフォンを確認すると特に連絡は入っていなかった。もしかしたら人栄さんはまだ起きていないのかもしれない。というか、佐須杜さんは大丈夫なのだろうか。私が気にしても仕方ないのだが……。
一度ホテルを出て昼食を買おうかと思ったが、それよりも眠気が酷いので一度昼寝をすることにした。スマートフォンで目覚まし時計をセットして、私はポロシャツのボタンを一つ外し、マットレスに身体を預けた。幸いなことに、疲れも相まってか、すぐに眠りにつくことができた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

You Could Be Mine 【改訂版】

てらだりょう
恋愛
平凡な日常だったのに、ある日いきなり降って湧いて出来た彼氏は高身長イケメンドSホストでした。束縛彼氏に溺愛されて、どうなる、あたし!? ※本作品は初出が10年前のお話を一部改訂しております。設定等初出時のままですので現代とそぐわない表現等ございますがご容赦のほどお願いいたします※

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

敏腕SEの優しすぎる独占愛

春咲さゆ
恋愛
仕事も恋愛も、兎に角どん底の毎日だった。 あの日、あの雨の夜、貴方に出逢うまでは。 「終わらせてくれたら良かったのに」 人生のどん底にいた、26歳OL。 木崎 茉莉 ~kisaki matsuri~ × 「泣いたらいいよ。傍にいるから」 雨の日に現れた、30歳システムエンジニア。 藤堂 柊真 ~Todo Syuma~ 雨の夜の出会いがもたらした 最高の溺愛ストーリー。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話

紫ゆかり
恋愛
オムニバス形式です。 理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。 大人の女性のストーリーです。

処理中です...