テレワークから始まる大人の恋もある。

みょうじん

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おかえりなさいと隣人

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時刻は17時となり、窓から見える景色は夕焼けに染まりつつあった。私はノートパソコンを閉じ、椅子の上でぐっと背を伸ばす。体力もない中で始まった一日だったが、なんとか恙無く過ごすことができたと思う。
さてこれから帰宅しようかというところで、私の個人携帯が振動した。確認すると知らない人からのメールのようだ。誰からの連絡かはなんとなく察しつつ、それを開くとやはり人栄さんからのメールだった。
『人栄です。どういう状況でしょうか?』
実にシンプルな内容で、彼女の混乱が伝わってくるようだ。というか、昨晩から今までずっと眠っていたというのもすごい話だ。
『目島です。今から帰宅しまうので、少々お待ち下さい』
私はバックパックを背負いながらそう返信すると、ホテルをチェックアウトした。急いで行けば15分もかからないだろう。

私の部屋に入る際、インターフォンを鳴らすか一瞬迷ったものの、自分の部屋なのだから構うまいとそのまま鍵を開けて入った。
「おかえりなさい」
人栄さんはそう言いながらパタパタと玄関まで来てくれた。
「ただいま戻りました」
慣れない言葉でなんとも気恥ずかしいが、そういうものだろう。
「お仕事……テレワークだったはずでは?」
目ざといというか耳ざといというか、人栄さんはそんなことを聞いてくる。
「ええ、まあ。今日は気分を変えてホテルで仕事をしていました」
上手い言い訳は咄嗟に出てこず、そんな当たり障りのないようなことを言うが、当然彼女にも嘘と見破られる。
「えっと、お気遣いありがとうです、か」
「まあ、玄関で話していても仕方がないので、リビングの方へ……」
「あ!そ、そうですよ! どうぞどうぞって私が言うのも変だけど」
彼女に先導されつつ、私はリビングのソファーに座る。すると、何を思ったのか人栄さんは私の真横にストンと腰を降ろす。流石にギョッとして彼女の方を見るが、彼女はなんの疑問も感じていないようで、首を傾げて私の方を見てきた。ここまで彼女はパーソナルエリアが少ない方だったのだろうか。そんな疑問が頭をよぎるが、それよりも思い出したことがあったので、彼女に話しかける。
「そういえば、佐須杜さんにはあいましたか?」
「え、会ってないけど……ナコはどこにいるんです?」
確かに彼女の疑問はもっともだ。
「経緯は後で説明しますが、あなたの部屋にいるかも……って鍵がないか」
人栄さんの部屋の鍵は佐須杜さんが持っていってしまったのだった。
「そういえば鞄の中にキーケースがない……あ、でもお財布の中に予備があるかも」
彼女は財布の小銭入れをじゃらじゃらと漁ると、一本の鍵を取り出した。そんなところに入れているのか。もし発見できていたなら、今のこの状況にはなっていなかっただろうが、後悔は先に立たない。
じゃあ、ちょっと行ってきますと彼女は部屋を出て行ってしまう。これ幸いと私は服を着替える。適当な無地のTシャツにカーディガンを羽織る。そして、キッチンでお茶を入れるためにケトルを火にかける。電気のものも便利なのは分かっているが、湯が沸いたときのあの音が好きで、未だにアナログなケトルを愛用している。
そのケトルが例の音を出し始めた頃、人栄さんが佐須杜さんを連れて戻ってきた。
「ただいま!」
彼女は私とは異なり恥ずかしがる様子もなくそう言う。
「おかえり」
今度は私の口からも自然とそう言うことができた。なんとなく人栄さんの明るさに引っ張られているようだが、嫌な気持ちはしなかった。
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