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男性陣が連れ立って別室に移動したので、女性陣はこのまま紅茶を頂くことにした。
結局、フェルナン様が待ち望んでいただろうご夫婦水入らずの時間を削ってしまった。
「クロエ、ニコラスの相手は大変だったでしょう?」
「いえ、お買い物は楽しかったです。ですが詰めが甘くて、お食事中にあのようなことになってしまい申し訳ございません」
「クロエさん、楽しめたのですか?少し話を聞いただけでも、何というか……純粋過ぎる方だと」
確かにアリー様の言う通り純粋過ぎるけど、裏表のないニコラス様と過ごす時間は楽しい。
侯爵邸で働き始めた時、サロンメイドの研修を受けた事があった。フェルナン様に取り入ろうと、約束も無く押し掛ける貴族たちの、相手を褒めているように見せかけて蔑む言葉を何度も耳にした。悪意の充満する部屋で過ごした数日は精神的に辛かった。
「はい、楽しかったです。裏表のないとっても純粋な方ですよ」
ニコラス様と過ごすのは疑心暗鬼になる必要が無くて安心する。
「純粋な馬鹿だから厄介なのですよ。でもクロエのお陰でとても成長したわ。子供の頃でさえあれほど話さなかった。なにより屋敷の人間以外に興味を持てたことで、あの子の世界は広がったもの」
もともと本を読み漁るほど好奇心旺盛な方だから、何かのきっかけで領民に興味を持てば、自ら出かけて行ったんじゃないかと思う。
それに領民たちの顔を見て、今までも領地経営が健全に行われていたと良く分かった。
これからは領民たちと触れ合う事を覚えたニコラス様によって伯爵領は益々発展して行くのだろう。
発展していく過程を見守ることは出来ないけれど、機会に恵まれれば、またマーガレット様に随行して訪れる時が来るかもしれない。
その頃にはニコラス様に似たお子様が庭を駆けまわっているのだろう。
おつかいのパートナーは美しい奥様と聡明なお子様で、手をつなぎながらお肉屋さんのコロッケを――――
「クロエ?あなた泣きそうな顔をしているわ。辛い事でもあって?」
「いえ!なんでもございません。あの、明日は何をすればいいでしょうか?」
急いで未来予想図をかき消して、話を変えようと明日の予定を尋ねた。
「これですよ」
派手に着色された小魚に似たものを受け取る。
「……疑似餌ですか。釣りをしたことが無いのですが大丈夫でしょうか?」
買い物ならサポートできるが、釣りは素人だ。
「釣れなくてもいいのです。それに釣りの知識はニコラスの頭の中に入っているでしょう。それを頭から引っ張り出して実際に体験させることが重要なのです。知識と現実の違いを知ることが目的です」
それでどんな成果が表れるのか分からないし、皆さんが結婚式に向けて忙しい時にのんびりと釣りをするのは罪悪感はあるが、ニコラス様との釣りは楽しそうだわ。だってニコラス様と釣りって似合わなさ過ぎて想像すら出来ないもの。
「分かりました、やってみます。アリー様は結婚式の準備は順調でしょうか?何かお手伝いできることはございませんか?」
アリー様は照れながらも、マーガレット様のおかげで順調に進んでいるからこちらの事は気にしないで楽しんでとおっしゃってくれた。
ランドルフ様が一時もアリー様から離れたくないと、別室に行くのを渋っていた気持ちがよくわかる。素敵な花嫁さんになるだろう。
良い歳になっても相手の居ない私は結婚式はお呼ばれするだけで、自分の花嫁姿を想像さえしたことが無い。
亡くなった両親には申し訳ないが、結婚できそうにないし、このまま侯爵家で働き続けれればいいのだけど……。
「マーガレット様が手際よく進めて下さるので、私は手持ち無沙汰なくらいです」
お手伝いもしたかったなぁ。
「クロエの結婚式も私が計画しますからね。楽しみにしていてちょうだい」
「私の結婚式なんて……お相手もおりませんし、結婚は諦めているんです」
アリー様は驚いたようだが、私としては驚かれたことに驚く。
「クロエさんは正統派美人だから、多くの男性から交際を申し込まれるでしょう?それに見事な御髪とすらりとしたスタイルには見とれてしまいました。瞳もクロエさんの性格を表すように暖かい茶色で綺麗です。結婚する意志さえあればお相手はすぐに見つかると思うのですが……」
身長も高い方だし、アリー様のような可愛らしさは無い。自分でも女性らしさが足りない自覚がある。
「私はアリー様のように可愛らしくなりたかったです」
「この歳になっても子供と間違えられるのに?私は自分の容姿がコンプレックスです」
「二人とも無い物ねだりね。変人なニコラスにも変態なランドルフにも一か所は良い所があるように、あなたたちは自分にしかない良い所をたくさん持っていますよ。クロエ、あなたの整った見た目に寄って来る害虫ではなく、一緒に笑い合える人を選ぶのですよ」
そんな人と出会えたらいいなと思うけど……今日のような楽しさを共有できる人が居るとは思えないわ。
【マーガレット様、クロエさんとニコラス様はお似合いだと思うのですが……まさか私の時のように拉致しませんよね?】
結局、フェルナン様が待ち望んでいただろうご夫婦水入らずの時間を削ってしまった。
「クロエ、ニコラスの相手は大変だったでしょう?」
「いえ、お買い物は楽しかったです。ですが詰めが甘くて、お食事中にあのようなことになってしまい申し訳ございません」
「クロエさん、楽しめたのですか?少し話を聞いただけでも、何というか……純粋過ぎる方だと」
確かにアリー様の言う通り純粋過ぎるけど、裏表のないニコラス様と過ごす時間は楽しい。
侯爵邸で働き始めた時、サロンメイドの研修を受けた事があった。フェルナン様に取り入ろうと、約束も無く押し掛ける貴族たちの、相手を褒めているように見せかけて蔑む言葉を何度も耳にした。悪意の充満する部屋で過ごした数日は精神的に辛かった。
「はい、楽しかったです。裏表のないとっても純粋な方ですよ」
ニコラス様と過ごすのは疑心暗鬼になる必要が無くて安心する。
「純粋な馬鹿だから厄介なのですよ。でもクロエのお陰でとても成長したわ。子供の頃でさえあれほど話さなかった。なにより屋敷の人間以外に興味を持てたことで、あの子の世界は広がったもの」
もともと本を読み漁るほど好奇心旺盛な方だから、何かのきっかけで領民に興味を持てば、自ら出かけて行ったんじゃないかと思う。
それに領民たちの顔を見て、今までも領地経営が健全に行われていたと良く分かった。
これからは領民たちと触れ合う事を覚えたニコラス様によって伯爵領は益々発展して行くのだろう。
発展していく過程を見守ることは出来ないけれど、機会に恵まれれば、またマーガレット様に随行して訪れる時が来るかもしれない。
その頃にはニコラス様に似たお子様が庭を駆けまわっているのだろう。
おつかいのパートナーは美しい奥様と聡明なお子様で、手をつなぎながらお肉屋さんのコロッケを――――
「クロエ?あなた泣きそうな顔をしているわ。辛い事でもあって?」
「いえ!なんでもございません。あの、明日は何をすればいいでしょうか?」
急いで未来予想図をかき消して、話を変えようと明日の予定を尋ねた。
「これですよ」
派手に着色された小魚に似たものを受け取る。
「……疑似餌ですか。釣りをしたことが無いのですが大丈夫でしょうか?」
買い物ならサポートできるが、釣りは素人だ。
「釣れなくてもいいのです。それに釣りの知識はニコラスの頭の中に入っているでしょう。それを頭から引っ張り出して実際に体験させることが重要なのです。知識と現実の違いを知ることが目的です」
それでどんな成果が表れるのか分からないし、皆さんが結婚式に向けて忙しい時にのんびりと釣りをするのは罪悪感はあるが、ニコラス様との釣りは楽しそうだわ。だってニコラス様と釣りって似合わなさ過ぎて想像すら出来ないもの。
「分かりました、やってみます。アリー様は結婚式の準備は順調でしょうか?何かお手伝いできることはございませんか?」
アリー様は照れながらも、マーガレット様のおかげで順調に進んでいるからこちらの事は気にしないで楽しんでとおっしゃってくれた。
ランドルフ様が一時もアリー様から離れたくないと、別室に行くのを渋っていた気持ちがよくわかる。素敵な花嫁さんになるだろう。
良い歳になっても相手の居ない私は結婚式はお呼ばれするだけで、自分の花嫁姿を想像さえしたことが無い。
亡くなった両親には申し訳ないが、結婚できそうにないし、このまま侯爵家で働き続けれればいいのだけど……。
「マーガレット様が手際よく進めて下さるので、私は手持ち無沙汰なくらいです」
お手伝いもしたかったなぁ。
「クロエの結婚式も私が計画しますからね。楽しみにしていてちょうだい」
「私の結婚式なんて……お相手もおりませんし、結婚は諦めているんです」
アリー様は驚いたようだが、私としては驚かれたことに驚く。
「クロエさんは正統派美人だから、多くの男性から交際を申し込まれるでしょう?それに見事な御髪とすらりとしたスタイルには見とれてしまいました。瞳もクロエさんの性格を表すように暖かい茶色で綺麗です。結婚する意志さえあればお相手はすぐに見つかると思うのですが……」
身長も高い方だし、アリー様のような可愛らしさは無い。自分でも女性らしさが足りない自覚がある。
「私はアリー様のように可愛らしくなりたかったです」
「この歳になっても子供と間違えられるのに?私は自分の容姿がコンプレックスです」
「二人とも無い物ねだりね。変人なニコラスにも変態なランドルフにも一か所は良い所があるように、あなたたちは自分にしかない良い所をたくさん持っていますよ。クロエ、あなたの整った見た目に寄って来る害虫ではなく、一緒に笑い合える人を選ぶのですよ」
そんな人と出会えたらいいなと思うけど……今日のような楽しさを共有できる人が居るとは思えないわ。
【マーガレット様、クロエさんとニコラス様はお似合いだと思うのですが……まさか私の時のように拉致しませんよね?】
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