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今朝もドアをたたき割る勢いでノックして、マーガレット様に教えて頂いた湖へと歩いて向かう。
「うわぁ、綺麗!」
短い林を抜けると透明度の高い湖が太陽光を反射してキラキラと輝いていた。
シンシアさんに借りた麦わら帽を深くかぶり直し、昼食の入ったバスケットを置いているニコラス様に、湖について質問をした。
「どんな魚が釣れるんですか?」
「この湖の資料が無かったんだ。確か図書室にあったはずなんだが、誰かが持って行ったままなのかもしれないな。湖があるのは知っていたが来たのは初めてだ」
家の裏手にこんな素敵な場所があるのに来たことが無いのか。もったいない。
「子供の頃も遊びに来なかったのですか?」
「釣りをしたり水遊びを好むような子供だったと思うかい?昔っから僕の興味は本の中にあったよ。湖面を眺める時間があるなら本を読んでいたかったんだ。だが、釣り関連の本は読んだことがあるから心配しなくてもいい。今夜のディナーで釣りに行かせたことをマーガレットが後悔するほど魚を食べさせようじゃないか」
自信満々だけど大丈夫だろうか。まぁ、一匹でも釣れたらマーガレット様に顔向けできるだろう。
風は冷たいが着込んで来たので心地よい。
「釣れませんね」
「まだまだこれからだよ。もっと疑似餌を動かしてみたらいいよ」
太陽がいつの間にかてっぺんに昇っている。
「釣れませんねぇ。お昼にしませんか?」
「クロエは忍耐を鍛えるべきだな。疑似餌を魚のように動かすことが重要なんだ」
お腹が鳴りそうになって、腹筋に力を入れたのは三度目。
「……お腹空きました」
「魚との頭脳戦……って本に書いてあった」
お腹が空きすぎてイライラしてきた。
「もうムリ!食べますよ!」
「うむ……適度な休憩も必要だな」
なーにが適度な休憩ですか。
バスケットから丁寧に作られたサンドイッチやサラダを出しながら宣言する。
「私はもう諦めました。食事の後は釣りはしません!」
「何を言う。まだ諦めるのは早いぞ。この湖の主を釣り上げる気でやらないとダメだ」
「ダメがダメです。魚の影さえ見てないですよ!私たちは素人なんです。釣れない理由すら分からないじゃないですか!」
「よし!そこまで言うなら改善しよう。このチーズをエサにして――――」
「チーズで釣れるのは、ワインを抱えた酔っ払いだけです!」
二人でサンドイッチを握りしめたままギリギリとにらみ合う。
「「ぷっ」」
「あはは、なんでチーズなんですか。ハムじゃダメなんですか?」
「はははっ、クロエこそ酔っ払いが釣れるって、どうしてそんな発想が出来るんだ」
初心者の釣りはのんびり楽しめば良いじゃないかと話が付いた。
「じゃあチーズを付けて釣り糸は垂らしておきましょうか。酔っ払った魚が引っかかるかもしれませんし」
「そうだな。寒くなって来たから火でもおこして、チーズを炙りながらワインを抱えた酔っ払いになろう」
「からかいました?ニコラス様が酔っぱらっても放置していきますからね。さっさと薪にふさわしい木の知識を披露してくださいよ」
二人で木を拾い、ニコラス様の火おこしうんちくを参考に、ああでもないこうでもないと言い合いながら火を起こした。
チーズを木に差し炙りながら、ワインを楽しむ。
「自然の中で飲むお酒は美味しいですねぇ。体も温まります」
「寒かったか?熊のように着こんでいるから大丈夫かと思ったが?」
「誰が熊ですか!?こうしてやるっ!」
木に刺さったとろりと溶けかけたチーズをニコラス様のワイングラスに突っ込んでやろうと振り回す。
「うわっやめろ。別々に食べるから美味いんだろ!」
笑いながら逃げまどうニコラス様を同じように笑いながら追い回す。
「お腹に入ったら一緒ですよっ。逃げないで下さいってば!きゃっ」
小石につまずいて、こけそうになった体をニコラス様がとっさに支えてくれる。
お礼を言おうと顔を上げると目の前にニコラス様の整った唇があった。
「……クロエ」
ニコラス様が私の唇を見つめながら、切なそうに名を呼んだ。
「あの、ニ、ニコラ……」
長い睫毛がゆっくりと降りて、二人の吐息が混ざり合うほど唇が近づいて――
「あら、ここにいたのね。やっと見つけたわ!」
背後から聞こえて来た声に一気に現実に引き戻され、急いで体を離す。
「メイシーおばさん!ひ、久しぶりだね」
伯爵様の姉で公爵家に嫁いだメイシー様の登場に体勢を立て直し頭を下げる。
一体私は何をしようとしていたの?マーガレット様の弟君になんてことをしようとしたのか!
「何が久しぶりですか。あなたがモグラみたいに部屋に引きこもっているから会えないんでしょうが」
公爵夫人のお説教にニコラス様が珍しくあたふたとしているが、焦っているのはそれだけが理由ではないだろう。
「クロエ、頭を上げてちょうだいな。マーガレットの誕生日以来ね。ところで釣りに行ったと聞いたのに、なぜここにいるの?」
「なぜって……釣りに来たんだよ。マーガレットに湖に行けって言われたからさ」
「変ねぇ、この湖に魚はいないのに」
「……魚がいないのですか?」
「えぇ、全くいないわけではないでしょうが、一度も見た事ないわ。水がきれい過ぎてエサが少ないから魚が育たないのよ」
ニコラス様と顔を見合わせる。
「マーガレットの奴めっ!やられたっ」
「マーガレット様ったらひどいわ!ニコラス様より魚の方が賢いと信じる所だった」
「おい!クロエもひどいぞ!」
「だって、全く釣れる気配が無いんですもの。あははっ」
「あら美味しそうなワインね。たまには外で飲むのもいいわね。どっこらしょっと」
公爵夫人にワインを取られてしまったことに気付かないほど笑い合った。
【マーガレット様、本日のディナーはお肉に決定です】
「うわぁ、綺麗!」
短い林を抜けると透明度の高い湖が太陽光を反射してキラキラと輝いていた。
シンシアさんに借りた麦わら帽を深くかぶり直し、昼食の入ったバスケットを置いているニコラス様に、湖について質問をした。
「どんな魚が釣れるんですか?」
「この湖の資料が無かったんだ。確か図書室にあったはずなんだが、誰かが持って行ったままなのかもしれないな。湖があるのは知っていたが来たのは初めてだ」
家の裏手にこんな素敵な場所があるのに来たことが無いのか。もったいない。
「子供の頃も遊びに来なかったのですか?」
「釣りをしたり水遊びを好むような子供だったと思うかい?昔っから僕の興味は本の中にあったよ。湖面を眺める時間があるなら本を読んでいたかったんだ。だが、釣り関連の本は読んだことがあるから心配しなくてもいい。今夜のディナーで釣りに行かせたことをマーガレットが後悔するほど魚を食べさせようじゃないか」
自信満々だけど大丈夫だろうか。まぁ、一匹でも釣れたらマーガレット様に顔向けできるだろう。
風は冷たいが着込んで来たので心地よい。
「釣れませんね」
「まだまだこれからだよ。もっと疑似餌を動かしてみたらいいよ」
太陽がいつの間にかてっぺんに昇っている。
「釣れませんねぇ。お昼にしませんか?」
「クロエは忍耐を鍛えるべきだな。疑似餌を魚のように動かすことが重要なんだ」
お腹が鳴りそうになって、腹筋に力を入れたのは三度目。
「……お腹空きました」
「魚との頭脳戦……って本に書いてあった」
お腹が空きすぎてイライラしてきた。
「もうムリ!食べますよ!」
「うむ……適度な休憩も必要だな」
なーにが適度な休憩ですか。
バスケットから丁寧に作られたサンドイッチやサラダを出しながら宣言する。
「私はもう諦めました。食事の後は釣りはしません!」
「何を言う。まだ諦めるのは早いぞ。この湖の主を釣り上げる気でやらないとダメだ」
「ダメがダメです。魚の影さえ見てないですよ!私たちは素人なんです。釣れない理由すら分からないじゃないですか!」
「よし!そこまで言うなら改善しよう。このチーズをエサにして――――」
「チーズで釣れるのは、ワインを抱えた酔っ払いだけです!」
二人でサンドイッチを握りしめたままギリギリとにらみ合う。
「「ぷっ」」
「あはは、なんでチーズなんですか。ハムじゃダメなんですか?」
「はははっ、クロエこそ酔っ払いが釣れるって、どうしてそんな発想が出来るんだ」
初心者の釣りはのんびり楽しめば良いじゃないかと話が付いた。
「じゃあチーズを付けて釣り糸は垂らしておきましょうか。酔っ払った魚が引っかかるかもしれませんし」
「そうだな。寒くなって来たから火でもおこして、チーズを炙りながらワインを抱えた酔っ払いになろう」
「からかいました?ニコラス様が酔っぱらっても放置していきますからね。さっさと薪にふさわしい木の知識を披露してくださいよ」
二人で木を拾い、ニコラス様の火おこしうんちくを参考に、ああでもないこうでもないと言い合いながら火を起こした。
チーズを木に差し炙りながら、ワインを楽しむ。
「自然の中で飲むお酒は美味しいですねぇ。体も温まります」
「寒かったか?熊のように着こんでいるから大丈夫かと思ったが?」
「誰が熊ですか!?こうしてやるっ!」
木に刺さったとろりと溶けかけたチーズをニコラス様のワイングラスに突っ込んでやろうと振り回す。
「うわっやめろ。別々に食べるから美味いんだろ!」
笑いながら逃げまどうニコラス様を同じように笑いながら追い回す。
「お腹に入ったら一緒ですよっ。逃げないで下さいってば!きゃっ」
小石につまずいて、こけそうになった体をニコラス様がとっさに支えてくれる。
お礼を言おうと顔を上げると目の前にニコラス様の整った唇があった。
「……クロエ」
ニコラス様が私の唇を見つめながら、切なそうに名を呼んだ。
「あの、ニ、ニコラ……」
長い睫毛がゆっくりと降りて、二人の吐息が混ざり合うほど唇が近づいて――
「あら、ここにいたのね。やっと見つけたわ!」
背後から聞こえて来た声に一気に現実に引き戻され、急いで体を離す。
「メイシーおばさん!ひ、久しぶりだね」
伯爵様の姉で公爵家に嫁いだメイシー様の登場に体勢を立て直し頭を下げる。
一体私は何をしようとしていたの?マーガレット様の弟君になんてことをしようとしたのか!
「何が久しぶりですか。あなたがモグラみたいに部屋に引きこもっているから会えないんでしょうが」
公爵夫人のお説教にニコラス様が珍しくあたふたとしているが、焦っているのはそれだけが理由ではないだろう。
「クロエ、頭を上げてちょうだいな。マーガレットの誕生日以来ね。ところで釣りに行ったと聞いたのに、なぜここにいるの?」
「なぜって……釣りに来たんだよ。マーガレットに湖に行けって言われたからさ」
「変ねぇ、この湖に魚はいないのに」
「……魚がいないのですか?」
「えぇ、全くいないわけではないでしょうが、一度も見た事ないわ。水がきれい過ぎてエサが少ないから魚が育たないのよ」
ニコラス様と顔を見合わせる。
「マーガレットの奴めっ!やられたっ」
「マーガレット様ったらひどいわ!ニコラス様より魚の方が賢いと信じる所だった」
「おい!クロエもひどいぞ!」
「だって、全く釣れる気配が無いんですもの。あははっ」
「あら美味しそうなワインね。たまには外で飲むのもいいわね。どっこらしょっと」
公爵夫人にワインを取られてしまったことに気付かないほど笑い合った。
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