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晩餐は伯爵ご夫妻と、次期伯爵様になられる現役騎士のご長男スタン様ベル様ご夫妻も新たに加わって、騒が……非常に賑やか時間となった。
今日こそ使用人用の大食堂で食べようとしたのに、「僕のパートナーなんだから」と同じ食卓に座る羽目になった。
アリー様のご両親も到着したそうだが、旅の疲れを取るため早くお休みになったそうだ。
「メイシー、早く着いたんだな。公爵が参加できなくて残念だ」
公爵夫人は伯爵様の姉君で、夫の公爵様は腰を痛めたため欠席だそうだ。
「あの人ったら二階のベランダから飛んだのよ」
なぜそんなことになるの!?何度か侯爵邸で公爵様を見たことがあるが、いかめしい顔をした厳格そうな御仁だった。
冗談など言おうものなら右手に持ったステッキを振り上げそうな雰囲気の方だったのに。
「風で飛んだ私のスカーフを追いかけたんだけど、スカーフだけじゃなくて自分が飛んだのよ。笑っちゃうわよね」
全然笑えないはずなのに、食卓に座った方々は爆笑から失笑まで種類は違えど各々笑っている。
目の前に座ったアリー様と目が合った。よかった笑っていない人がいた。
爆笑するスタン様を見て、スタン様の奥様のベル様とも目が合う。もう一人いた。さすがベル様です。伯爵家に染まらず生き抜いていらっしゃる。
「私、やって行けるのかしら……」
小さくつぶやいたアリー様の声を拾ったランドルフ様がアリー様の頭にキスをしながらささやく。
「縁を切ったっていいんだぞ。俺はアリーさえいれば幸せなんだからな」
何度も聞いた言葉なのか、無言でランドルフ様を押しやり、食事を再開したアリー様……頑張ってください。
心の中で応援して、私も食事を――
「アリー、さくらんぼ姫の本は読んだの?感想を聞かせてちょうだいな」
うっ!ホタテのマリネを吹き出しそうになり唇に力を入れる。
喉の奥にホタテを押し込んでから、ニコラス様の顔を窺う。
「メイシーおばさん、あの本は行方不明なんだ。花嫁の教本として素晴らしいものだと思ったのだが、部屋の掃除をしても出てこなかったんだ。僕のパンツも探しているんだが……」
今度はランドルフ様が爆笑し始めた。
「お前、パンツってあのパンツかよ。あれをなくすって!っぶははは」
卑猥パンツを知らない方々がキョトンとしている中、ニコラス様がパンツを事細かに説明する。
素材やリボンの色についても身振り手振りで語る姿はいたってまじめだ。
「サンプルだからね。レポートを出そうと思って穿いて寝たのに、朝起きたらなかったんだ。盗まれたに違いない」
冷や汗がたらりと背筋を流れ落ちる。
「あんなものを誰が欲しがるってんだよ。俺たち一族であのパンツに収まるブツの持ち主はいないぞ」
「収まりはしないが、締め付け感を快感ととらえる人間もいるんだろう?」
「そんなもん紐で縛っとけよ」
さくらんぼ姫がアレの根元をシルクのリボンで縛る場面を思い出してしまう。
もし、ニコラス様の根元を縛ったら……腿を擦り合わせてから、我に返る。
晩餐でなんてことを想像しているのよ。
「さくらんぼ姫が行方不明なのは残念ね。誘拐されたのかしらね?まだまだコレクションの中におすすめがあるからそれを貸しましょう」
まだあるのか……もう関わらないでおこう。クローゼットの中の物で手一杯だ。これ以上あんな経験はしたくない。
「僕はパンツの方が気になるね。ニコラス、出て来たらお兄ちゃんにも貸してくれよ」
「スタン、馬鹿言わないで。ただでさえ息子たちをイラつかせているのに、刺されたくなければやめてちょうだい」
この次期伯爵家のご夫婦は騎士同士で結婚して、息子たちも新米騎士として注目されているそうだ。
騎士でいる間は王都をぐるりと囲む壁の中で住むことが義務付けられているので、領地にもほとんど帰って来れない。
息子たちも結婚式には参列するが、到着するなり伯爵兵団宿舎に行ってしまい、食事も寝泊まりも宿舎でしている。若い彼らはワイワイと過ごす方を好むのだろう。
ニコラス様が領地経営を担っているから問題は無いが、ニコラス様が居なければ現伯爵様の負担は大きかったはずだ。
スタン様の息子たちも騎士だから、この先の領地経営もニコラス様任せになる。
コミュニケーション能力に問題があってもこの先の事を考えれば伯爵家に必要不可欠な人物だ。
伯爵家としては、ニコラス様が結婚して子供をもうけ、子供が領地経営に携わって行って欲しいと思っているのかもしれない。
スタン様の子の意思次第では、ニコラス様の子が伯爵家を継ぐ可能性だってある。
この結婚式がニコラス様のお相手探しにはうってつけだと思うと心が痛い。
ニコラス様と過ごした数日間は、お相手探しの手伝いだったのよ。最初っから分かっていたけど辛い。
せめて私がここを去ってからならよかったのに……。
「クロエ、どうした?具合が悪いのか?それともパンツの話をしたから怒っているのか?」
「いえ、大丈夫です。お料理が美味しいのでそちらに気を取られていただけです」
誤魔化しながら、ふと思った。下半身の話しを禁止したけれど、この家族では無理じゃないかと。
公爵夫人でさえさくらんぼ姫の話をするし、スタン様も悪乗りしてパンツを貸して欲しいなどと言っている。
この家族は下半身の話が日常会話の話題として適切だと思っている節がある。
そんな中でニコラス様だけ禁止したって無駄だ。勝手に巻き込まれる決まっている。
ニコラス様に学んでいただくより、猥談に耐えられるお相手を探した方がいい。
ため息をお肉と共に飲み込んで、今度はランドルフ様の初夜について盛り上がる皆さまを見渡す。
なんて癖が強い方々なんだ……。
【マーガレット様、ニコラス様が常識人に思えて来ました】
今日こそ使用人用の大食堂で食べようとしたのに、「僕のパートナーなんだから」と同じ食卓に座る羽目になった。
アリー様のご両親も到着したそうだが、旅の疲れを取るため早くお休みになったそうだ。
「メイシー、早く着いたんだな。公爵が参加できなくて残念だ」
公爵夫人は伯爵様の姉君で、夫の公爵様は腰を痛めたため欠席だそうだ。
「あの人ったら二階のベランダから飛んだのよ」
なぜそんなことになるの!?何度か侯爵邸で公爵様を見たことがあるが、いかめしい顔をした厳格そうな御仁だった。
冗談など言おうものなら右手に持ったステッキを振り上げそうな雰囲気の方だったのに。
「風で飛んだ私のスカーフを追いかけたんだけど、スカーフだけじゃなくて自分が飛んだのよ。笑っちゃうわよね」
全然笑えないはずなのに、食卓に座った方々は爆笑から失笑まで種類は違えど各々笑っている。
目の前に座ったアリー様と目が合った。よかった笑っていない人がいた。
爆笑するスタン様を見て、スタン様の奥様のベル様とも目が合う。もう一人いた。さすがベル様です。伯爵家に染まらず生き抜いていらっしゃる。
「私、やって行けるのかしら……」
小さくつぶやいたアリー様の声を拾ったランドルフ様がアリー様の頭にキスをしながらささやく。
「縁を切ったっていいんだぞ。俺はアリーさえいれば幸せなんだからな」
何度も聞いた言葉なのか、無言でランドルフ様を押しやり、食事を再開したアリー様……頑張ってください。
心の中で応援して、私も食事を――
「アリー、さくらんぼ姫の本は読んだの?感想を聞かせてちょうだいな」
うっ!ホタテのマリネを吹き出しそうになり唇に力を入れる。
喉の奥にホタテを押し込んでから、ニコラス様の顔を窺う。
「メイシーおばさん、あの本は行方不明なんだ。花嫁の教本として素晴らしいものだと思ったのだが、部屋の掃除をしても出てこなかったんだ。僕のパンツも探しているんだが……」
今度はランドルフ様が爆笑し始めた。
「お前、パンツってあのパンツかよ。あれをなくすって!っぶははは」
卑猥パンツを知らない方々がキョトンとしている中、ニコラス様がパンツを事細かに説明する。
素材やリボンの色についても身振り手振りで語る姿はいたってまじめだ。
「サンプルだからね。レポートを出そうと思って穿いて寝たのに、朝起きたらなかったんだ。盗まれたに違いない」
冷や汗がたらりと背筋を流れ落ちる。
「あんなものを誰が欲しがるってんだよ。俺たち一族であのパンツに収まるブツの持ち主はいないぞ」
「収まりはしないが、締め付け感を快感ととらえる人間もいるんだろう?」
「そんなもん紐で縛っとけよ」
さくらんぼ姫がアレの根元をシルクのリボンで縛る場面を思い出してしまう。
もし、ニコラス様の根元を縛ったら……腿を擦り合わせてから、我に返る。
晩餐でなんてことを想像しているのよ。
「さくらんぼ姫が行方不明なのは残念ね。誘拐されたのかしらね?まだまだコレクションの中におすすめがあるからそれを貸しましょう」
まだあるのか……もう関わらないでおこう。クローゼットの中の物で手一杯だ。これ以上あんな経験はしたくない。
「僕はパンツの方が気になるね。ニコラス、出て来たらお兄ちゃんにも貸してくれよ」
「スタン、馬鹿言わないで。ただでさえ息子たちをイラつかせているのに、刺されたくなければやめてちょうだい」
この次期伯爵家のご夫婦は騎士同士で結婚して、息子たちも新米騎士として注目されているそうだ。
騎士でいる間は王都をぐるりと囲む壁の中で住むことが義務付けられているので、領地にもほとんど帰って来れない。
息子たちも結婚式には参列するが、到着するなり伯爵兵団宿舎に行ってしまい、食事も寝泊まりも宿舎でしている。若い彼らはワイワイと過ごす方を好むのだろう。
ニコラス様が領地経営を担っているから問題は無いが、ニコラス様が居なければ現伯爵様の負担は大きかったはずだ。
スタン様の息子たちも騎士だから、この先の領地経営もニコラス様任せになる。
コミュニケーション能力に問題があってもこの先の事を考えれば伯爵家に必要不可欠な人物だ。
伯爵家としては、ニコラス様が結婚して子供をもうけ、子供が領地経営に携わって行って欲しいと思っているのかもしれない。
スタン様の子の意思次第では、ニコラス様の子が伯爵家を継ぐ可能性だってある。
この結婚式がニコラス様のお相手探しにはうってつけだと思うと心が痛い。
ニコラス様と過ごした数日間は、お相手探しの手伝いだったのよ。最初っから分かっていたけど辛い。
せめて私がここを去ってからならよかったのに……。
「クロエ、どうした?具合が悪いのか?それともパンツの話をしたから怒っているのか?」
「いえ、大丈夫です。お料理が美味しいのでそちらに気を取られていただけです」
誤魔化しながら、ふと思った。下半身の話しを禁止したけれど、この家族では無理じゃないかと。
公爵夫人でさえさくらんぼ姫の話をするし、スタン様も悪乗りしてパンツを貸して欲しいなどと言っている。
この家族は下半身の話が日常会話の話題として適切だと思っている節がある。
そんな中でニコラス様だけ禁止したって無駄だ。勝手に巻き込まれる決まっている。
ニコラス様に学んでいただくより、猥談に耐えられるお相手を探した方がいい。
ため息をお肉と共に飲み込んで、今度はランドルフ様の初夜について盛り上がる皆さまを見渡す。
なんて癖が強い方々なんだ……。
【マーガレット様、ニコラス様が常識人に思えて来ました】
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