完結【マーガレット様、初対面の天才引きこもり男に股を開けと言われたらどうすればよろしいでしょうか?】

三月ねね

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 翌日は早朝から二人がかりでこねくり回された。
「クロエ、さっさと座らないとすっぴんで出ることになるわよ!」
「そんなこと言ったってストッキングを穿いてるとこなんですぅ」
「座って穿きなさいよ!ほらっ、す・わ・れっ!」
最低限の下着と片足しか穿けていないストッキング姿で椅子に向って押される。
頭はタオルを巻いたままだ。

マーガレット様のお世話をしたくてたまらない家政婦長のエマさんが、
「私たちは年寄りですからね。マーガレット様のお世話が出来るのもこれが最後かもしれないわ。今回は私たちにお支度を任せて頂けないかしら?大丈夫よ。今の流行も知っていますから安心してちょうだい」
と、伯爵邸のベテラン勢を五人も揃えてハンナさんに迫ったのだ。
ハンナさんも自分の親より年上の人たちに囲まれ、渋々譲るしかなかったそうだ。
いつもは冷静なハンナさんがちょっとカリカリしているのは、楽しみにしていたマーガレット様のお支度を奪われちゃったからだろう。
「祖母がすみません。マーガレット様の事になると頑固なんですよ」
エマさんのお孫さんのシンシアさんも、私の支度を手伝ってくれている。
二人で流行はこうだとか、こっちのほうが私には似合うだとか、細かく話し合いながら進めてくれている。
ハンナさんが大きく息を吐き出してた。
「ふぅーごめんなさい。分かってたのよ。いつもの事だもの。エマさんたちを押しのけるつもりは無いのだけど、今回こそは何とか潜り込んで私も参加しようと思っていたのに、また勢いに負けちゃったからちょっと悔しいの。クロエ、まばたきしないで」
瞼に力をいれて、話をしながらも睫毛を弄るハンナさんの言う通りにする。
「祖母もずるいんですよ。いつもは年齢の事を言うと年寄り扱いするなって怒るのに、都合のいい時だけ年齢の事を武器にするんです。クロエさん、顎を引いて下さい」
目が乾くぅ。
「ちょっとクロエ、頭を動かさないでよ。エマさんたちって技術が素晴らしいのよね。言っちゃ悪いけど良いお年じゃない?なのに流行を取り入れつつマーガレット様が光り輝くように仕上げるんだから、参加して技術を盗もうと狙ってるんだけどねぇ」
頭を動かさずに顎を引く方法ってあります?
「クロエさん、次は真っすぐ前を向いて下さい。マーガレット様を子供の頃から見ている自分たちが一番マーガレット様を輝かせる事ができるって言ってます。その上マーガレット様の為に研究をかかさないんですよ。あれは執着ですね」
「次こそは、技術を褒めちぎって弟子に志願するわ。クロエ頭を動かさないでって」
「無理ですぅ。それに目が乾きすぎて血の涙が出そうですぅ」
「あっごめん!もうまばたきはしていいの」
えーん、早く言ってくださいよぉ。
「ほら、泣かないの。泣いたらメイクが取れるでしょ。私の傑作を流したら許さないからね」
「泣いてませんよ。目に水分補給しているだけです。カラカラになったのはハンナさんのせいですからね!」
「あら、クロエったらやっぱり美人さんねぇ。とってもきれいよ」
褒めて誤魔化そうとしてもダメなんですからね。
「クロエさん本当に素敵ですよ。珍しいお色だから御髪に目が行きがちですが、お顔もスタイルも綺麗でうらやましいです」
「そうよ、ラベンダー色のドレスも似合うわ。ほら、ストッキングを穿き忘れてるわよ」
ペッと放られたストッキングをお行儀悪く片足を座面に上げて穿く。
ちぐはぐな姿が鏡に映っていてげんなりする。
ブラとパンティ、ストッキングしか身に付けていないのに、髪とメイクはバッチリ決まっている。
あまりにも間抜けな姿にガウンを取ろうとした時、ノックと共にドアが開き普段着姿のニコラス様が入って来た。
「コサージュを持って来……」
顔を上げたニコラス様が固まった。
「「……」」
「……ぎゃーー!!」
なぜかニコラス様が大声を上げて逃げるように出て行った。
大声を上げたいのは私の方だってば……。

【マーガレット様、見られました。珍妙な姿を見られました】
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