完結【マーガレット様、初対面の天才引きこもり男に股を開けと言われたらどうすればよろしいでしょうか?】

三月ねね

文字の大きさ
24 / 39

23

しおりを挟む
 参列者たちが呼ばれ、花嫁を控室に残し移動する。
ニコラス様もどうにか自力で歩いてくれた。
「打たれた所を撫でながらまじないを言ってくれないのか?」
この人、積極的になり過ぎじゃない?
「マーガレット様に言いつけますよ」
「……ひとり言だ」
ひとり言でも聞こえたらアウトです。

 お式は感動的というより……盛り上がった。
途中までは、神秘的な教会に似合う厳かなお式だったのに、誓いの口づけになった瞬間、伯爵家側の参列席から次々と指笛が鳴り響き、やんややんやの大騒ぎになった。
耳を塞ぎたくなる程の指笛の中、ランドルフ様は成人指定されそうな濃くて長ーーい口づけをぶちかました。
アリー様は逃れようとのけぞっているし、ランドルフ様は逃さないよう覆いかぶさっている。
その二人を見て侯爵家二男のアルバン様が「僕の初恋がぁ」と号泣し始めた。
アリー様のお母様も途中までは感動の涙を流していたのに、笑いながらアリー様の弟さんの目を手で覆っている。
お父様の方は倒れそう。まぁ可愛い娘の貪られている姿を見たらそうなるよね。
酸欠になったアリー様がゼイゼイ言いながらランドルフ様の髪を引っ張りやっと口づけが終わった。
……こんな結婚式は二度と経験できないだろう。

 お庭に設置された披露宴会場へと向かうため、教会から出て来た新郎新婦に剛速球で花びらをぶつける人たちを見ながら大きな疑問が浮かぶ。
「私なぜここにいるんだろう?」
お祝いの為なのはもちろんだけど、そっちじゃない。
「もちろん僕の監視のためだよ。なんで今更?」
監視する必要ある?
「監視すべきはあの人たちじゃないの?ニコラス様なんてちょっとコミニュケーション能力が低いだけでおとなしいわ」
指さした先には、手持ちの花が無くなったのか、地面の草を引っこ抜いてランドルフ様に投げつけているスタン様。
それに誓いのキスの時、一番先に指笛を吹いた人物は伯爵様だった。
「あれはもう治らないからだよ。手遅れだろ?まだ僕の方が矯正できる可能性があるんだろうね」
なるほど納得。
でも、この後ニコラス様がどんなに奇想天外な発言をしようとも、参列者の記憶に残るのは指笛と長いキスになるだろう。
「今日はアリーさんのご家族もいるからおとなしいほうだよ。伯爵家の血縁者たちだけが集まる時は積極的に欠席するようにしているんだ」
積極的な欠席が、積極的なのか消極的なのか疑問だけど、欠席しようとする気持ちは大いに理解できる。
土で汚れたスタン様がご子息に叱られ小さくなっている姿が哀れだけど、次世代はまだまともそうでホッとした。

 ガーデンパーティーが始まり、食べ物とお酒を与えられ、やっとおとなしくなった大人たちが和やかに談笑している。子供より大人たちの行動の方がハラハラするわ。

 テーブルには私たちの他に六人が座っているが、皆様ニコラス様のことをよく分かってらっしゃる方ばかりなので、サポートの必要は無さそう。
「ニコラスお久しぶりね。あなたたまには下界に顔を出しなさいよ」
微笑みながらニコラス様の肩を叩いているのは、ニコラス様のお母様のお姉様だ。
「死んだと思われるぞ」
揶揄ったのは、その伯母様の旦那様だ。
「ニコラス叔父さんはシャイなんじゃないの?」
スタン様のご長男は大人びた雰囲気で、すでに騎士の風格がある。
二男はもう少し幼い雰囲気だが、すごい勢いで目の前の食事をかき込んでいる。
「色々言われて来たけどシャイは初めて言われたな。今度から言い訳に使わせてもらうよ」
「ニコラスがシャイなわけあるか。面倒くさいだけだろ」
「スタン、お前がそういうなら、僕が肩代わりしている面倒な仕事を自分でしろよ」
「そんなことしたら、我が家はあっという間に破産だね」
ベル様の口にエビを入れながら、堂々と家を潰す宣言をした次期伯爵様。
胸を張って言うことではないと思う。

 侯爵家でもフェルナン様がマーガレット様に食べさせているから「あーん」は見慣れているが、目の前の次期伯爵家の状況は、異常にエビの動きがせわしない。
スタン様が自分のエビを身を乗り出しているベル様に食べさせ、スタン様はご長男の皿からエビを盗んで食べる。
ベル様が自分のエビをご長男の皿に移そうとまた身を乗り出すと、スタン様にエビを食べさせられる。目が回りそう……。
「クロエ」
呼ばれてニコラス様の方を向くと、口にエビを押し付けられた。
「ほら、口を開けて。あーん」
目を白黒させている間にねじ込まれ、頬が熱くなる。
「クロエさん、伯爵家の男性陣は餌付けする習性があるのよ。嫌がると余計に面倒になるから諦めた方が賢明よ」
そう言ったベル様は面倒になったのか、ご長男の方へお皿ごと押しやった。
「クロエ美味しい?」
目を輝かせながら聞くニコラス様を叱れなくて、どぎまぎしながらも頷いた。
私の唇に触れたフォークを何事もなかったかのように使うニコラス様を見て、ますます頬が朱に染まり、赤くなった顔を周りの人から隠すため下を向いた。

(ねぇ、あなた。もう一着ドレスを仕立てた方がよさそうだわ。マーガレットにいつ頃になるか聞いてみないと)
(近いうちにもう一度ここを訪ねることになりそうだな。結婚に一番縁遠いニコラスが片付くなら伯爵は踊り狂うぞ。スタンは何か聞いてないか?)
(伯父さん、半年……いや、三か月以内で賭けないか?)
(スタン!自分の弟を賭け事にしないでちょうだい)
(何言ってるんだ。僕のプロポーズの時も賭けられていたんだぞ。あの時は何回でベルが僕に落ちるのか白熱していたなぁ)
(僕が父さんとニコラス叔父さんの老後を看ることになると思っていたからよかった……)
(これ美味いな。おかわりないの?)

皆がこそこそ話していたのには気が付かなかった……。

【マーガレット様、「あ-ん」は憧れだったんです】
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

婚約破棄され泣きながら帰宅している途中で落命してしまったのですが、待ち受けていた運命は思いもよらぬもので……?

四季
恋愛
理不尽に婚約破棄された"私"は、泣きながら家へ帰ろうとしていたところ、通りすがりの謎のおじさんに刃物で刺され、死亡した。 そうして訪れた死後の世界で対面したのは女神。 女神から思いもよらぬことを告げられた"私"は、そこから、終わりの見えないの旅に出ることとなる。 長い旅の先に待つものは……??

処理中です...