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開いた扉から飛び込んできたニコラス様にタックルされて尻もちをついた。
なぜニコラス様が王都に居るのかという疑問より、公爵夫人を巻き込まずに転がれたことにホッとしてそのまま横になり目を閉じた。
「クロエぇ――死なないでくれーー!」
……死にませんよ。
「ニコラス様なぜここに?」
マーガレット様の誕生会にも欠席するのに。
「ニコラス、あなた臭いますわ」
鼻をひくつかせる。
うむ、確かにちょっと臭うかもしれない。
人のお腹に縋り付いてわんわん泣いている所申し訳ないが、顎に手をやると無精ひげでざらざらしている。
「だって魚が終わるまでダメだと言われてっ!」
魚?また魚釣りでもしていたのだろうか?あそこでは釣れないのに。
「スタンが攻め込むとか言うし!」
湖に攻め込んでも魚は釣れないと思う。
「うるさい子ね。泣いてないで風呂に入りなさい。ハンナ、入浴の用意を」
出て行くハンナさんに私も連れて行って欲しいと念を送ったがこちらを見てもくれなかった。
「まあまあニコラス落ち着いて。座ってお茶でも飲みなさいよ」
「メイシーおばさま、我が家のソファーにそんな臭いものを座らせたくありませんわ。ニコラス立ちなさい。カーペットが臭くなるでしょう」
そうだった、マーガレット様は臭いとか汚いものには容赦ないんだった。例え父親や弟でも。
どうにか上半身を起こして、ニコラス様にも立つように促すためぺちぺちと肩を叩く。
ニコラス様の肩を支えに立ち上がると、ニコラス様が離されまいと急いで膝立ちになり、人のお腹に縋り付いた。
涙がお腹に染み込んで冷えて行くが、やっとマーガレット様の鼻の皺は消えた。
「それで隣国はどうなったの?やるからには徹底的にしないとまた繰り返すわよ」
「したよっ!徹底的にやったさ!じゃないとスタンが隣国に攻め込むって言うし、終わるまでクロエを追いかけさせてもらえなかったんだよ!実の兄に監禁されたんだ!こんなのありえないよ!!」
やっと話が見えて来た。買い物に行った報告をした時、隣国からの魚の輸入量が落ちていると言っていた。確か流通量を抑えて価値を上げたがっているんじゃないかとか言ってたっけ。
「たった数日でなにが監禁ですか。元々あなたは何十年も部屋から出てこなかったじゃありませんか」
マーガレット様の勝ちですね。ほら、公爵夫人も頷いてますよ。
頭をポンポンとすると、やっと顔を上げてこっちを見てくれた。
……美丈夫でもこれはダメだ。いや美丈夫だからこそダメだ。ぐっちゃぐっちゃだもの。
涙と鼻水となぜか泥まで付いている。
「クロエ、クロエ、本物のクロエだぁーー」
瞬きもせず見つめる目の下にはどす黒い隈が出来ている。
思わず指で撫でると、ニコラス様は白目をむいて気絶した。
「えーー!ちょっと、なんでっ!?」
「安心したんだろうよ」
低い声がした方を見ると、スタン様が爽やかに笑いながら立っていた。ニコラス様の様子と随分違う。
「こいつ、あれから一睡もしていないからな。不眠不休で隣国をやり込めて、その後俺の後ろにへばりついて馬で駆けて来たんだよ」
詳しく話を聞くと、怒涛の勢いで隣国との交渉に当たって、その後一人で馬に乗ったらしい。生まれて初めて……。
当たり前だが途中で落馬してしまい、仕方なくスタン様が後ろに乗せて半日で王都まで駆けて来たそうだ。半日で?馬車で一日半の距離を半日で?落ちたら間違いなく死ぬ。
「そんな話はいいから、スタン、この汚物を入浴させてちょうだい」
ついに汚物へと成り下がってしまった、気絶しても縋り付いていた白目の美丈夫をスタン様は軽々肩に担ぎ上げ浴場へと消えて行った。
「クロエ、あなたもまだ顔色が悪いわ。着替えてから休みなさい。汚物の臭いが移っているかもしれないわ」
「あの、待ってください。ニコラス様とは、その、私が悪いんです。だから――」
「続きは汚物が戻ってからよ」
ぴしゃりと言われ、とぼとぼ自室に向かった。
【マーガレット様、臭くても嬉しいんです。だって二度と嗅げないと思っていたニコラス様の臭いだから】
なぜニコラス様が王都に居るのかという疑問より、公爵夫人を巻き込まずに転がれたことにホッとしてそのまま横になり目を閉じた。
「クロエぇ――死なないでくれーー!」
……死にませんよ。
「ニコラス様なぜここに?」
マーガレット様の誕生会にも欠席するのに。
「ニコラス、あなた臭いますわ」
鼻をひくつかせる。
うむ、確かにちょっと臭うかもしれない。
人のお腹に縋り付いてわんわん泣いている所申し訳ないが、顎に手をやると無精ひげでざらざらしている。
「だって魚が終わるまでダメだと言われてっ!」
魚?また魚釣りでもしていたのだろうか?あそこでは釣れないのに。
「スタンが攻め込むとか言うし!」
湖に攻め込んでも魚は釣れないと思う。
「うるさい子ね。泣いてないで風呂に入りなさい。ハンナ、入浴の用意を」
出て行くハンナさんに私も連れて行って欲しいと念を送ったがこちらを見てもくれなかった。
「まあまあニコラス落ち着いて。座ってお茶でも飲みなさいよ」
「メイシーおばさま、我が家のソファーにそんな臭いものを座らせたくありませんわ。ニコラス立ちなさい。カーペットが臭くなるでしょう」
そうだった、マーガレット様は臭いとか汚いものには容赦ないんだった。例え父親や弟でも。
どうにか上半身を起こして、ニコラス様にも立つように促すためぺちぺちと肩を叩く。
ニコラス様の肩を支えに立ち上がると、ニコラス様が離されまいと急いで膝立ちになり、人のお腹に縋り付いた。
涙がお腹に染み込んで冷えて行くが、やっとマーガレット様の鼻の皺は消えた。
「それで隣国はどうなったの?やるからには徹底的にしないとまた繰り返すわよ」
「したよっ!徹底的にやったさ!じゃないとスタンが隣国に攻め込むって言うし、終わるまでクロエを追いかけさせてもらえなかったんだよ!実の兄に監禁されたんだ!こんなのありえないよ!!」
やっと話が見えて来た。買い物に行った報告をした時、隣国からの魚の輸入量が落ちていると言っていた。確か流通量を抑えて価値を上げたがっているんじゃないかとか言ってたっけ。
「たった数日でなにが監禁ですか。元々あなたは何十年も部屋から出てこなかったじゃありませんか」
マーガレット様の勝ちですね。ほら、公爵夫人も頷いてますよ。
頭をポンポンとすると、やっと顔を上げてこっちを見てくれた。
……美丈夫でもこれはダメだ。いや美丈夫だからこそダメだ。ぐっちゃぐっちゃだもの。
涙と鼻水となぜか泥まで付いている。
「クロエ、クロエ、本物のクロエだぁーー」
瞬きもせず見つめる目の下にはどす黒い隈が出来ている。
思わず指で撫でると、ニコラス様は白目をむいて気絶した。
「えーー!ちょっと、なんでっ!?」
「安心したんだろうよ」
低い声がした方を見ると、スタン様が爽やかに笑いながら立っていた。ニコラス様の様子と随分違う。
「こいつ、あれから一睡もしていないからな。不眠不休で隣国をやり込めて、その後俺の後ろにへばりついて馬で駆けて来たんだよ」
詳しく話を聞くと、怒涛の勢いで隣国との交渉に当たって、その後一人で馬に乗ったらしい。生まれて初めて……。
当たり前だが途中で落馬してしまい、仕方なくスタン様が後ろに乗せて半日で王都まで駆けて来たそうだ。半日で?馬車で一日半の距離を半日で?落ちたら間違いなく死ぬ。
「そんな話はいいから、スタン、この汚物を入浴させてちょうだい」
ついに汚物へと成り下がってしまった、気絶しても縋り付いていた白目の美丈夫をスタン様は軽々肩に担ぎ上げ浴場へと消えて行った。
「クロエ、あなたもまだ顔色が悪いわ。着替えてから休みなさい。汚物の臭いが移っているかもしれないわ」
「あの、待ってください。ニコラス様とは、その、私が悪いんです。だから――」
「続きは汚物が戻ってからよ」
ぴしゃりと言われ、とぼとぼ自室に向かった。
【マーガレット様、臭くても嬉しいんです。だって二度と嗅げないと思っていたニコラス様の臭いだから】
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