完結【マーガレット様、初対面の天才引きこもり男に股を開けと言われたらどうすればよろしいでしょうか?】

三月ねね

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 応接室に戻って来て座らされる。
さっきと違うのは、ハンナさんに代わりニコラス様が居るところだ。
皆が無言で紅茶を飲んでいる中、手は繋がれたままで放してくれない。
前に座る二人の視線が繋がれた手に集まっていて、汗が出てきた。
「マーガレット、あれをよこしなさいな」
「まだ決着はついていませんわ」
「あきらめの悪い子ね」
「正確に判定しないと」
やっと無言の壁が崩れたけれど、何の話?
「二人に聞くわ。結婚するの?」
「いいえ!」
「もちろん!」
ほぼ同時に別の返答をしてしまい、気まずい空気が流れる。
「……やっぱり僕は捨てられたんだね。童貞だったから?下手だった?」
「いいえ!そうでは無くて!」
「あら、ニコラスの童貞を奪った責任は取らないの?」
公爵夫人が前世紀の乙女のような攻め方をしてくる。でも処女を奪ったならまだしも、童貞を奪って結婚は聞いたことが無い。
「下手じゃなかったならなんで?僕を好きだって言ってくれたよね?嘘だったの?」
号泣しながら、血走った目で瞬きもせずこちらを凝視する美丈夫の扱い方が分からない。
純粋な女性を騙して処女を奪った悪い男になった気分がする。
「馬鹿ねニコラス。好きにも色々あります。結婚するほどの恋情は無いののよ。あなたの妻になるよりわたくしの侍女の仕事の方が好きと判断したのではないかしら」
「そんなことありません!あ、いえ、あの、侍女のお仕事は好きです。マーガレット様にお仕え出来て幸せです。なのでどちらが好きと言うのではなくて、ニコラス様には相応の家柄の方がふさわしいと……」
前に座る二人ともが扇子を広げ口元を隠しているが、楽しんでいるように見えるのは気のせいだろうか?
「アリーの事を認めていないの?彼女は平民だけど、ランドルフと結婚したわ」
「アリー様は素晴らしい方です!ランドルフ様とお似合いで、心から祝福いたしております!」
本当にお二人は素晴らしい。愛し愛され信頼し合っているのが分かる。魂の片割れを見つけたのだと思っている。
「伯爵家は家柄など気にしないわよ。ベルもアリーも貴族じゃないけど、誰もそんなこと指摘しないわ。当人たちが幸せなら良いのよ」
黙って聞いていたニコラス様が握っていた手にぎゅっと力を入れたので、恐る恐るニコラス様を見ると真剣な目で私を見ていた。
……お願いですから瞬きしてください。
「あの時、目覚めたら真っ先に告げようと決心していたんだ。ちょっとおじさんだけど大事にするから結婚して欲しいと……僕にはクロエしかいない。一緒に過ごした数日間で初めて生きていると感じたんだ。だからクロエが去ってから僕の世界はまた太陽の無い世界に戻ってしまった。お願いだ、同情でもいいから僕の傍にいて欲しい」
まだ無精ひげは生えているし、髪もボサボサだけど、今までで一番カッコよく見える。
「いいんでしょうか……隣にいても」
好きな人の隣に居られる人生を送りたい。
「当たり前だよ!僕がクロエしかダメなんだ。結婚してくれる?」
ニコラス様の隣に居たい。
「はい。よろしくお願いいたします」
抱きしめ合って二人でおいおい泣いた。幸せ過ぎてどうしても涙が止まらなかった。

「もうそろそろ次に進めても?」
はい?マーガレット様?
「ですから、結婚式はいつにするのよ」
公爵夫人?
「「いつ!?さっさと決めなさい!」」
い、今プロポーズを受けたばかりで、急に言われても……それにランドルフ様が結婚したばかりだし。
「今日とか?」
ニコラス様!?無茶を言わないで下さい!昨日の今日でも無理ですけど、今日の今日は前代未聞です!
「今日は無理よ、せめて明日にしなさい。侯爵家の教会ですればいいわ。明日なら他の伯爵家連中も間に合わないでしょう?静かでまともな結婚式なんて何世紀ぶりかしら。楽しみだこと」
待ってーーほんとに待ってぇーー!
焦ってニコラス様に助けを求める。
「クロエは式に呼びたい人いる?」
祖母も両親も亡くなっているし、叔父たちとは祖母が亡くなってからは疎遠になっている。友達もここの使用人たちばかりだし……。
でも誰かの名を言わないと明日結婚式に主役として登場することになってしまいそう。
「ラ、ランドルフ様とアリー様にも出席していただきたいです!」
確かあの二人はまだ新婚旅行中だ。王都に帰って来たらご飯でも食べましょうとアリー様と話をしていたが、その前に結婚式で食事することになりそう。
「「「……いる?」」」
「い、いります!あのお二人には参列して欲しいです!お呼ばれしておいて、お呼びしないなんてありえないです!それにニコラス様のたった一人の弟ですし!!」
三人が仕方ないというようにため息をついた。
「ではあの子たちが帰って来てからだから……二週間後に伯爵家でしましょうか。また騒がしいお式になるわね」
「二週間、我慢する。仕方ない。クロエの望みだ。結婚してくれるなら我慢する」
我慢って二回も言いましたね?二週間でもありえない程に早いですよ?
「マーガレット、あなたの負けよ。よこしなさい」
「仕方ないわね。出会って半月以内に結婚すると思ったのに。いい年して我慢するなんて随分のんびりとした子だこと。まぁゴミ同然の物なので惜しくはないですが、賭けに負けたのは悔しいわ」
何やら聞き捨てならない単語が出てきた気がする。賭けとはなんでしょうか。
マーガレット様が執務机の引き出しから、赤い箱を出して公爵夫人に渡した。
非常に見覚えのあるデザインの箱だが、私のクローゼットに入っている箱より色あせていて年季が入っている。
公爵夫人がパカリと箱を開け、中から取り出したのは……やっぱり避妊具?でも私の知っている物と違う。リボンまで付いている。
「状態が良いわね。さすが侯爵家の宝物庫に保管されていただけあるわ」
避妊具なのか違うのか気になって、じーっと見ていると公爵夫人に笑われてしまった。
「これが魚の浮袋よ。今度避妊具の歴史という展覧会を開くつもりなのだけど、状態の良いものは残っていなくてね。マーガレットに相談したら宝物庫の一覧に書いてあったというじゃありませんか。手に入ってよかったわ。あなたたちのおかげよ」
そうですか、それはよかったです……。
「メイシーおばさん、まさか重要な場面で邪魔をしてたのは賭けに勝ってそれを手に入れる為じゃないよね?そうだ!隣国の魚の件だって、一刻も早く手を打つべきだとか言って、直ぐに追いかけようとした僕を足止めしただろ!?」
「嫌だわ。老人を疑うなんて趣味が悪いわよ。マーガレット、こんなに疑心暗鬼な弟を持ってあなたも大変ね。おほほほほっ」

【マーガレット様、停滞していた時間が一気に進み始めました。速すぎて目が回りそうです】
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