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魔女たちの密談1
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草木も眠る時刻、足音を立てず歩く女性が一人。
「やっぱり聴こえないわねぇ……」
小さく呟いた声に背後から返事が聞こえた。
「おばさま、深夜徘徊するとボケたのかと思われますよ」
「あら嫌な子ね、まだ頭はしっかりしているわ。貴女もあの子に会いに来たんじゃないの?」
あの泣き声を聞いたのは何年前だったかしら?私も年を取ったものね……。
「私は会えるとはもう思っておりません。とんでもないものを押し付けた文句を言ってやろうと、当時散々探しましたからね」
確かに幸か不幸か判断が難しいわね。血縁者が一筋縄でいかない男たちばかりだもの。
「風が冷たいので中に入りましょう。老体に無理をさせると寝込むことになりましてよ」
相変わらず失礼な姪だわ。まぁそういう所も気に入っているのだけどね。
「はぁー暖かいわ。この紅茶美味しいわね。ちょっともらって帰るから準備しておいてちょうだい。そうそう夫があなたの誕生会にも行けなくて申し訳なかったと謝っていたわよ」
今では珍しくなった大きな暖炉のあるこの部屋はマーガレットが幼少期に使っていた部屋だ。
昔っから大人びた子で、ぬいぐるみにも人形にも興味を示さなかった。
夫がお土産だと差し出した人形は、売り飛ばされてニコラスの本とランドルフの手袋になった。
弟たちは気づいていないけどね。言えばいいのに。私なら五十年経っても恩着せがましく言うわね。
「あなたは昔っから物欲が無かったわねぇ。人の観察さえ出来れば幸せだったのでしょう?」
暇さえあれば人を見ていた。後はランドルフを追い込むことも楽しそうだったわね。あれは見ている方も楽しかったわ。
「そうかしら。自分では良く分からないわ」
「嘘おっしゃい。侍女にお仕着せを作ったのだって、クロエのドレスが少ないからでしょう?」
普通は使用人たちが何枚ドレスを持っているかなんて知らないわよ。
「他の侍女にも好評だったから良いじゃありませんか」
「悪いなんて言ってないわ。ランドルフとアリーの時だって、あなたの観察眼と策略のおかげで上手く行ったもの」
「あれは……楽しめたわ」
確かに、久しぶりに楽しかった。スタン以来だったし。
「ニコラスは鈍感過ぎてどうかしら?この機会を活かせるかしらねぇ。クロエも……あの子なんであんなに自信が無いの?美人だし性格も明るいのに自信だけが無いのよね」
育ちの背景は聞いている。男爵だったご両親が亡くなり、叔父たちに爵位と家を奪われたのは悲惨だが、あの容姿だもの。もう少し傲慢に育っていてもおかしくないのに、まるで自分が男性の興味を引く容姿をしていないかのように振舞う。
「ご両親が亡くなってからは、クロエの祖母が守っていたし、家で働き始めてからは私が排除してきたもの。害虫が多くて大変だったわ」
なるほどね。マーガレットなら蟻の子一匹も見逃さず完璧に排除したでしょうね。でも、自信をつけるためにはもう少し隙を与えても良かったのではないかしら。
「もどかしくて仕方が無いわ」
言った途端に扇子が開いた。
「メイシーおばさまがおっしゃるの?今日何をしました?二人の邪魔をして、三人で酔っ払って帰って来たではありませんか」
「二人には幸せになって欲しいけど、あれは手に入れたいの。さじ加減が難しいわ。あなただってほら」
指さした先には、湖の事が書かれた資料が山積みになっている。ニコラスに読まれないように図書室から運んだのだろう。
「メイシーおばさまは賭けに勝ちたいだけでしょう?私とは違いますわ。私利私欲で邪魔をした人間と一緒にしないで下さい」
確かに賭けには勝ちたいけれど、久しぶりにニコラスの顔を見たかったのもあるのよ?
「あの子ったら、あの汚い部屋から出てこないんだもの。甥を可愛く思う伯母としては、外にいるなんて聞いたら珍しくて見に行くでしょ?」
「まあいいですわ。そう言うことにしておきましょう」
パチパチと暖炉で木が爆ぜている。
電気の暖房より昔ながらの暖炉の方が好き。体の芯から温まるもの。
「ねぇ、ワインは無いの?」
「今日は飲み過ぎです。もう部屋に帰って一眠りして下さい。そろそろフェルナンが探しに来そうなので部屋に帰りますわ」
つれないわね。火を見ながら飲むワインは最高なのに。
「あなたの旦那様の癖もどうにかならないの?嫁がいないと目が覚めるなんて、この平和な世の中では役に立たない能力だわ」
「フェルナンはメイシーおばさまを見て学んだんですよ。伯爵家の女性を自由にさせると厄介なことになるって」
「……あらそう。フェルナンは私の事を勘違いしているわね」
「それはどうかしら?よく効く胃薬を手に入れたので公爵様に渡してくださいね。紅茶と一緒に部屋に届けますわ」
「あの人は元々胃が弱いのよ。夫の胃と私は無関係よ。まぁせっかくだから頂いて行きますけど」
本当に失礼で優しい子だわ。
【メイシーおばさま、公爵様の胃痛はおばさまのせいですよ。避妊具より胃薬の研究をした方が良いのでは?】
「やっぱり聴こえないわねぇ……」
小さく呟いた声に背後から返事が聞こえた。
「おばさま、深夜徘徊するとボケたのかと思われますよ」
「あら嫌な子ね、まだ頭はしっかりしているわ。貴女もあの子に会いに来たんじゃないの?」
あの泣き声を聞いたのは何年前だったかしら?私も年を取ったものね……。
「私は会えるとはもう思っておりません。とんでもないものを押し付けた文句を言ってやろうと、当時散々探しましたからね」
確かに幸か不幸か判断が難しいわね。血縁者が一筋縄でいかない男たちばかりだもの。
「風が冷たいので中に入りましょう。老体に無理をさせると寝込むことになりましてよ」
相変わらず失礼な姪だわ。まぁそういう所も気に入っているのだけどね。
「はぁー暖かいわ。この紅茶美味しいわね。ちょっともらって帰るから準備しておいてちょうだい。そうそう夫があなたの誕生会にも行けなくて申し訳なかったと謝っていたわよ」
今では珍しくなった大きな暖炉のあるこの部屋はマーガレットが幼少期に使っていた部屋だ。
昔っから大人びた子で、ぬいぐるみにも人形にも興味を示さなかった。
夫がお土産だと差し出した人形は、売り飛ばされてニコラスの本とランドルフの手袋になった。
弟たちは気づいていないけどね。言えばいいのに。私なら五十年経っても恩着せがましく言うわね。
「あなたは昔っから物欲が無かったわねぇ。人の観察さえ出来れば幸せだったのでしょう?」
暇さえあれば人を見ていた。後はランドルフを追い込むことも楽しそうだったわね。あれは見ている方も楽しかったわ。
「そうかしら。自分では良く分からないわ」
「嘘おっしゃい。侍女にお仕着せを作ったのだって、クロエのドレスが少ないからでしょう?」
普通は使用人たちが何枚ドレスを持っているかなんて知らないわよ。
「他の侍女にも好評だったから良いじゃありませんか」
「悪いなんて言ってないわ。ランドルフとアリーの時だって、あなたの観察眼と策略のおかげで上手く行ったもの」
「あれは……楽しめたわ」
確かに、久しぶりに楽しかった。スタン以来だったし。
「ニコラスは鈍感過ぎてどうかしら?この機会を活かせるかしらねぇ。クロエも……あの子なんであんなに自信が無いの?美人だし性格も明るいのに自信だけが無いのよね」
育ちの背景は聞いている。男爵だったご両親が亡くなり、叔父たちに爵位と家を奪われたのは悲惨だが、あの容姿だもの。もう少し傲慢に育っていてもおかしくないのに、まるで自分が男性の興味を引く容姿をしていないかのように振舞う。
「ご両親が亡くなってからは、クロエの祖母が守っていたし、家で働き始めてからは私が排除してきたもの。害虫が多くて大変だったわ」
なるほどね。マーガレットなら蟻の子一匹も見逃さず完璧に排除したでしょうね。でも、自信をつけるためにはもう少し隙を与えても良かったのではないかしら。
「もどかしくて仕方が無いわ」
言った途端に扇子が開いた。
「メイシーおばさまがおっしゃるの?今日何をしました?二人の邪魔をして、三人で酔っ払って帰って来たではありませんか」
「二人には幸せになって欲しいけど、あれは手に入れたいの。さじ加減が難しいわ。あなただってほら」
指さした先には、湖の事が書かれた資料が山積みになっている。ニコラスに読まれないように図書室から運んだのだろう。
「メイシーおばさまは賭けに勝ちたいだけでしょう?私とは違いますわ。私利私欲で邪魔をした人間と一緒にしないで下さい」
確かに賭けには勝ちたいけれど、久しぶりにニコラスの顔を見たかったのもあるのよ?
「あの子ったら、あの汚い部屋から出てこないんだもの。甥を可愛く思う伯母としては、外にいるなんて聞いたら珍しくて見に行くでしょ?」
「まあいいですわ。そう言うことにしておきましょう」
パチパチと暖炉で木が爆ぜている。
電気の暖房より昔ながらの暖炉の方が好き。体の芯から温まるもの。
「ねぇ、ワインは無いの?」
「今日は飲み過ぎです。もう部屋に帰って一眠りして下さい。そろそろフェルナンが探しに来そうなので部屋に帰りますわ」
つれないわね。火を見ながら飲むワインは最高なのに。
「あなたの旦那様の癖もどうにかならないの?嫁がいないと目が覚めるなんて、この平和な世の中では役に立たない能力だわ」
「フェルナンはメイシーおばさまを見て学んだんですよ。伯爵家の女性を自由にさせると厄介なことになるって」
「……あらそう。フェルナンは私の事を勘違いしているわね」
「それはどうかしら?よく効く胃薬を手に入れたので公爵様に渡してくださいね。紅茶と一緒に部屋に届けますわ」
「あの人は元々胃が弱いのよ。夫の胃と私は無関係よ。まぁせっかくだから頂いて行きますけど」
本当に失礼で優しい子だわ。
【メイシーおばさま、公爵様の胃痛はおばさまのせいですよ。避妊具より胃薬の研究をした方が良いのでは?】
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