【完】白雪姫は魔女の手のひらの上で踊る

三月ねね

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 目覚めた瞬間から、アリーは起きただろうかと耳を澄ます。
家賃は格安だが、古い建物のここは、アリーのように足音を消せない人間の情報を勝手に教えてくれる。
二階のアリーの部屋と俺の部屋は反転した間取りになっていて、広くもない部屋のお陰でベッドを置く場所は限られている。
要するに俺のベッドの壁一枚向こうにアリーのベッドがあるわけだ。自然に壁の方に寄って寝る癖がついた。

二階の階段から一番遠い角部屋にはジェシカが入っている。
アリーの部屋は、俺とジェシカの部屋に挟まれているから、叫び声が上がれば直ぐに駆けつけられるだろう。
もう一つの角部屋で俺の隣の部屋は、住人が退居して直ぐに倉庫として借りた。
アリーの真下には、コリンが入っているし、一階の残り三戸も身元調査済みだ。
コリンには「イケメンなのにヤバイ人って初めて見たっす。思ったよりキモイっすねー」と言われたが、アリーの気配が感じられるこの狭い部屋は王宮より価値がある。

アリーの足音がベッドから遠ざかって行く。

俺はジェシカが帰って来るまで斡旋所待機の予定だ。所長一人でもアリーを守りながら戦えるが、自分も守りながら応戦出来るジェシカが居ない分、安全レベルは下がる。
今日の午後はコリンも事務所に出てくるし、午後だけで終わる依頼なら受けようか。

俺も準備をしようとシャワーに向かう。

シャワーをしながら欲を処理する。夜に出してもアリーと顔を合わせる時間が長いと、下半身がアホになる。
昨日、廊下ですれ違った所長が、タオルで隠した俺の股間を見て「若いねぇ。うらやましいよ」とせせら笑った。
さすがに恥ずかしかった。
ちゃんと掃除と換気はしてきたが、職場で処理するのはアレで最後にしたい。

昨日のアリーを思い浮かべたら、
サクッと終わった……。
これはこれでどうなんだと、複雑な心境のまま、全裸で部屋に戻り耳を澄ます。
不規則に聞こえてくる足音は料理中だ。いつもならもう食べている時間なのにと、首をひねるが見えないのだから分からない。
いっそのぞき穴でも……ダメだ。ばれたら嫌われる。

適当な服を着て銃のチェックをする。
足音が聞こえなくなったので食べ始めたのだろう。腹は減っていないが、アリーも食べているからと、パンを水で流し込む。
パタパタとした足音が聞こえ始めたので、そろそろ馬房に向かわないといけない。
最後に、使い込んだなめし革の小さなバックと胸元の銃を軽くたたき部屋を出た。
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