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あんな事があったから一晩中浅い眠りを繰り返し、疲れが抜けないまま朝を迎えた。
狭いクローゼットの上段に置いてある木箱を取り出す。
田舎から出て来た時に持ってきた、小さな木箱には大切な物を仕舞っている。
蓋を開けると、ランドルフに貰った髪留めに朝日が当たる。
シルバーの細い針金が幾重にも編まれた土台の中心に、本物のルビーかと思うほど巧みにカットされた赤いガラス。
その周りに小ぶりな真珠が花弁のように五個付けられている。
艶やかに光る真珠をそっと撫でて、つけて行こうかと逡巡してから蓋を閉めた。
毎朝、儀式のように悩むのだが、地味な服には似合わない。
ランドルフに地味な私が似合わないのと同じだ。
ランドルフを初めて見たとき、子供のころに大好きだった絵本の騎士様そっくりだと思った。
ドラゴンに攫われたお姫様を、剣を片手に助け出す勇敢な騎士様。黒い髪と凛々しい瞳をそっと撫でた幼い指。
毎晩、神様に祈ったけれど、絵本の中の愛らしいお姫様と同じ、金髪に青い瞳になれなかった。可憐なドレスも似合わない。どこまで行っても田舎の冴えない娘。
実際のランドルフを知っても好ましいと思った。
ぶっきらぼうで意地悪だけど、人を助ける強さと包み込める優しさを持った人。知れば知るほど好きになった。
自分の瞳に想いがあふれているような気がして、気取られないように彼と目を合わせられなくなった。
たまに、斡旋所の受付に座ると、魅力的なお姉さま方が来て、ランドルフがいかにベッドの上で素晴らしいかを話してくる。
無視をしたくても、求人票を持って来る限り対応しなければならない。
茶髪も金髪も黒髪も居たが、共通しているのは、自分に自信があって魅惑的な体をしていること。
ランドルフが抱いた女性は、私とは似ても似つかない女性達だった。
斡旋所のお使い途中に、そんな女性の一人と話をしているランドルフを見かけた。遠くからみてもお似合いだった。
勇敢な騎士様には愛らしいお姫様がしっくりくるように、心も体も堅牢なランドルフには、自信あふれる女性がしっくりくる。
お姉さま方に、ランドルフとの逢瀬を初めて聞かされてから、隣の部屋の気配が気になって仕方がない。
隣りにいるのだろうか、彼女たちの所にいるのだろうか。
聞こえない物音を聞こうと耳を澄ませてしまう。
そんな夜を過ごした翌日は、気持ちが不安定になる。
本当に火傷させたい訳でもないし、給料を改ざんしようなんて思ってない。
面白おかしく悪行なことでも考えていないと、からかわれるたび、女として対象外なんだと泣いてしまいそうになる。
いっそ振られてしまえばと思ったこともあるが、同じ職場で、隣に住んでいては、気まず過ぎてこのまま暮らせないだろう。
それに振られたからと言って、好きな気持ちが消えるものでもない。
持て余した恋心をどうする事も出来ず、頭の中でランドルフに「嫌いにならせてよ」と八つ当たりをするのだ――
冷蔵庫から昨日の夕食になるはずだったローストビーフを取り出す。
実家のある田舎は、海から遠く魚介類は贅沢品だった。
こちらに来てから、手ごろな価格で買えることに嬉しくなり、鮮魚店でレシピを聞いて作る日が増えた。
忙しい母に代わり料理はしていたが、魚介料理は作ったことが無かったので、新しい料理を作るのが楽しい。
自然と肉料理はほとんど作らなくなったのだが、ローストビーフだけは今でも作っている。
ランドルフがよくローストビーフサンドを食べているから。
作って行こうかな。昨日のお礼だと言って渡せば、変に思われないよね。
お店の物には敵わないだろうが、作りなれているものだし家族にも好評だ。
不味くはないだろうと自分を励ましながら、いつもより時間を掛けて丁寧に作った。
狭いクローゼットの上段に置いてある木箱を取り出す。
田舎から出て来た時に持ってきた、小さな木箱には大切な物を仕舞っている。
蓋を開けると、ランドルフに貰った髪留めに朝日が当たる。
シルバーの細い針金が幾重にも編まれた土台の中心に、本物のルビーかと思うほど巧みにカットされた赤いガラス。
その周りに小ぶりな真珠が花弁のように五個付けられている。
艶やかに光る真珠をそっと撫でて、つけて行こうかと逡巡してから蓋を閉めた。
毎朝、儀式のように悩むのだが、地味な服には似合わない。
ランドルフに地味な私が似合わないのと同じだ。
ランドルフを初めて見たとき、子供のころに大好きだった絵本の騎士様そっくりだと思った。
ドラゴンに攫われたお姫様を、剣を片手に助け出す勇敢な騎士様。黒い髪と凛々しい瞳をそっと撫でた幼い指。
毎晩、神様に祈ったけれど、絵本の中の愛らしいお姫様と同じ、金髪に青い瞳になれなかった。可憐なドレスも似合わない。どこまで行っても田舎の冴えない娘。
実際のランドルフを知っても好ましいと思った。
ぶっきらぼうで意地悪だけど、人を助ける強さと包み込める優しさを持った人。知れば知るほど好きになった。
自分の瞳に想いがあふれているような気がして、気取られないように彼と目を合わせられなくなった。
たまに、斡旋所の受付に座ると、魅力的なお姉さま方が来て、ランドルフがいかにベッドの上で素晴らしいかを話してくる。
無視をしたくても、求人票を持って来る限り対応しなければならない。
茶髪も金髪も黒髪も居たが、共通しているのは、自分に自信があって魅惑的な体をしていること。
ランドルフが抱いた女性は、私とは似ても似つかない女性達だった。
斡旋所のお使い途中に、そんな女性の一人と話をしているランドルフを見かけた。遠くからみてもお似合いだった。
勇敢な騎士様には愛らしいお姫様がしっくりくるように、心も体も堅牢なランドルフには、自信あふれる女性がしっくりくる。
お姉さま方に、ランドルフとの逢瀬を初めて聞かされてから、隣の部屋の気配が気になって仕方がない。
隣りにいるのだろうか、彼女たちの所にいるのだろうか。
聞こえない物音を聞こうと耳を澄ませてしまう。
そんな夜を過ごした翌日は、気持ちが不安定になる。
本当に火傷させたい訳でもないし、給料を改ざんしようなんて思ってない。
面白おかしく悪行なことでも考えていないと、からかわれるたび、女として対象外なんだと泣いてしまいそうになる。
いっそ振られてしまえばと思ったこともあるが、同じ職場で、隣に住んでいては、気まず過ぎてこのまま暮らせないだろう。
それに振られたからと言って、好きな気持ちが消えるものでもない。
持て余した恋心をどうする事も出来ず、頭の中でランドルフに「嫌いにならせてよ」と八つ当たりをするのだ――
冷蔵庫から昨日の夕食になるはずだったローストビーフを取り出す。
実家のある田舎は、海から遠く魚介類は贅沢品だった。
こちらに来てから、手ごろな価格で買えることに嬉しくなり、鮮魚店でレシピを聞いて作る日が増えた。
忙しい母に代わり料理はしていたが、魚介料理は作ったことが無かったので、新しい料理を作るのが楽しい。
自然と肉料理はほとんど作らなくなったのだが、ローストビーフだけは今でも作っている。
ランドルフがよくローストビーフサンドを食べているから。
作って行こうかな。昨日のお礼だと言って渡せば、変に思われないよね。
お店の物には敵わないだろうが、作りなれているものだし家族にも好評だ。
不味くはないだろうと自分を励ましながら、いつもより時間を掛けて丁寧に作った。
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