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 部屋に戻ると、私の両肩に手を置き、真正面から視線を合わせて来る。
「どんな騎士だった?髪は?性格は?ストーリーを詳細に教えろ。俺は何を殺って来たらいいんだ?ドラゴンみたいな伝説の生き物は無理だが、熊なら何頭でも獲って来てやる」
そんなもの貢がれても困る。
「いりません」
「しかしだな、見た目は近づけるようにするが、そっくり一緒には出来ないだろう。性格は努力する。改めるから教えてくれ。一番手を付けやすいのは強さを証明する事だろう?まずはそこから惚れてもらう」
――――あぁ、この人は本当に私の事が好きなんだわ
彼の両頬に手を当て、音を立ててキスをした。
固まってしまった彼の瞳を見ながら、二年間見て来た姿を思い返す。
何があっても自分を貫き、自信を持って我が道を進む姿。時には周りとの衝突もあったが結果を出し黙らせてきた。
まさか、物語の人物に嫉妬して外見も性格も変えようと、私みたいな平凡な人間に教えを乞うとは。

「もう惚れてるんだってば。変わる必要なんてないわ。それにランドルフを初めて見た時、騎士様にそっくりで驚いたのよ。現実のあなたは口も悪いし粗野だけど、不器用な優しさを知って、ランドルフ自身を好きになったの」
「俺も初めて見た時、俺の理想が現実にいることに驚いた。お前を知っていくにつれ、儚い見た目と違って、自立心があり、頑固で頼ってくれない事にイライラしたが、周りをよく見て、そっと手を差し伸べる優しさを愛してしまった」
もう一度、そっとキスをする。
「ん」
少し長く――
「んっ」  
もう一度だけ――
「んぁ、あ、あのぉ、当たってます」
グリグリと擦り付けるのをやめて欲しい。反応に困る。
「あぁ、気持ちいい。くっ!」
いやいや、さらに押し付けないで欲しい。
「今日はダメです。明日踊れなくなったら、協力してくれた皆様に申し訳なさすぎる」
抱きしめられていた手を離してもらって、一緒に風呂に入ろうと誘われたが断固お断りした。
まだ、裸体をさらす勇気も、ホニャララを直接見る勇気もない。
風呂場で出すから先に入れと言われ、急いで風呂場に飛び込んだ。

シャワーを浴びながら、この後ここでランドルフがそんなことをするのかと思うと落ち着かない。
世の中の恋人達はこんなにオープンな会話をしているのだろうか。
別にかまととぶるつもりもないし、男女間で何をするかも知っている。
田舎は動物の営みが収入に直結している家も多い。酪農をしている友達の家に行けば、動物の営みを直接見ることもあった。
恥ずかしいとも思わなかったし自然な姿と受け取っていた。
人間の男女間のことも、私もいつか自然にそういう関係になって、子供を産むのだろうと思っていた。
ただ、人間はもう少し恥じらいがあると思っていたのだけど。
鏡に映る自分を見て、明日の夜、体も大人になるのかなと、少ししんみりしてから風呂場を後にした。

 おかずにするから下着を見せろと言い張る変態ランドルフを、無理やり風呂場に押し込むと、ドッと疲れが出て来た。
朝から泣いて、踊って、また泣いて、両想いになって、ランドルフのご家族にも会った。
平民という事で嫌われている様子も、わざと話題にするのを避けている様子もなかったが、この先の付き合いも反対されないだろうか。
末っ子の火遊び相手として見られていなかっただろうかと慎重に会話を振り返る。
大丈夫だった気がする。少なくとも表面上は受け入れてくれていた。

 私自身は気軽な関係を楽しめる人間ではない。人間同士だから結果として別れることもあるだろうが、スタートする時は、未来を共にしたいと思える相手でなければ無理だ。

話し合うことがたくさんある。少しでも今夜中に話し合っておきたい。
ボーと天井を見上げながら考えをまとめていると、いつの間にか瞼が下りていった。
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