【完】白雪姫は魔女の手のひらの上で踊る

三月ねね

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 出すものを出して、スッキリしたような虚しいような気分で、風呂場から出て来てみれば、愛しい人はベッドで眠っていた。
付き合った初日だし、もう少しイチャイチャしたかったが、今日も疲れただろう。
この先、長い時間を共にするのだから、ゆっくりと寝かせてあげるべきだ。
掛け布団の中にそっと横たえ、明かりを消して隣にすべり込む。

明日もアリーは気を張る一日となるのだろう。
姉の誕生日など失敗しようがどうでもいいのに。姉自身だって気にしやしない。
たとえ脅迫されようが、熊が乱入しようが、面白い余興になったとほくそ笑むだけだ。そういう奴だ。
いっそのこと途中で抜けるか?家族にはバレそうだが、こらえ性が無いと馬鹿にされるだけで、とがめられはしないだろう。
アリーが疲れる前に抜け出せば、これからの話をして、最後までは無理でも少し体の関係を進められる。せめて俺の体に慣れてもらいたい。
憂鬱な誕生会を少し前向きに捉えれた所で、アリーの匂いを嗅ぎながら眠りに落ちた。


 翌朝、目覚めてからは戦場だった。
主にアリーが。
まだ暗いうちにメイドに叩き起こされ、瞼を擦りながら風呂場に追い立てられて行った。風呂場に何人ものメイドが出入りする中、たまにアリーの悲鳴が聞こえてくる。
風呂場の扉を憐れみの目で見ていたら、バスローブを持たされ、大浴場に行って来いと部屋から放り出された。
……大浴場ってどこにあるんだよ?
周りを見渡すと、父と兄も部屋から追い出され、同じようにバスローブを持ったまま途方に暮れていた。
寝癖がついたままの三人で大浴場を探す旅に出るはめになってしまった。
「マギーは実の父にまで厳し過ぎないか?」
めそめそ言う父が鬱陶しい。
「去年は普通に自分の部屋の風呂に入ったぞ。だからランドルフのせいだな」
兄に言われてムッとする。何でもかんでも俺のせいにするなよ。
「お前らと違って、俺は自分が入った後は軽く掃除してから出てるぞ」
なんだよ。なんで二人そろって笑ってるんだよ。
「はは、違うよ。マーガレットが男同士で話すように仕向けたんだよ。やっと付き合えて舞い上がったランドルフが、暴走してアリーちゃんに逃げられないように、僕達にアドバイスさせようとしたんだろう。なんてったって、僕達は愛しい妻を手に入れた先輩だからね。ふふんっ!」
……こんな奴らのアドバイスなんかまともなわけないだろ
兄は三百回だし、父は泣き落としだろ。なんのアドバイスが出来るってんだよ。
単に、マーガレットが面白がっているだけだろうよ。

 結局、無駄に広い邸宅の地下にあった大浴場を探し当てるまで、二組の馴れ初めから現在に至るまでの歴史をのろけられ、面倒くさい思いをしただけだった。

大浴場に若い男の世話係が待機していた。自分で洗うと告げると、眉を八の字にして懇願してくる。
「奥様に隅々まで磨くように言われました。髭の一本でも剃り残しがあれば首になるんです。お願いですからお世話させてくださいぃ」
本当に首にはしないだろうが、泣きそうな顔をしている若い使用人を追い返すことも出来ず、風呂場に置かれた台に渋々横たわる。
俺の背中を見た兄が気持ち悪い事を言い出した。
「お前でかくなったなー。いい広背筋じゃないか。僧帽筋にもほれぼれするわ」
無視だ無視。
「スタンも一回り大きくなったんじゃないか?二人ともわしに似てよかったなぁ」
確かに母に似たマーガレットと二男は線が細いが、二人とも鍛えていないのもあるだろう。二男など部屋から出るのさえ嫌がるんだから。
「親父も年の割にはいい体してるよな。胸筋なんか現役騎士の僕よりデカいんじゃないか?爆乳だねぇ。ちょっと触らせて?」
「スタンも巨乳だぞ。おお、硬いじゃないか。硬さはわしの負けだな」
乳を揉み合うな。真っ裸で体を触り合う親子が気持ち悪ぃ。

仰向けになるよう言われ、二人の視線がこっちに向く。
「……そっちもわしに似てよかったな。自慢の逸品だな」
「いやいや、親父よりデカいだろ。長さは僕も負けちゃいないが、太さは……くそっ、自信あったのに!」
「待て待てスタン、重要なのは戦闘状態の大きさだろうが。膨張率しだいではわしのが一番デカいかもしれないだろ」
「ランドルフ、ちょっと勃たせてみろよ。三人で比べようぜっ」
くうーーっ。なんて恥ずかしい親子なんだ!
「ぜってぇ嫌だ!騎士団ってこんな奴らばっかりなわけ?入んなくてよかったわ」
「まぁ、シモの話は天気の話と同じだよな」
あいさつ代わりってか。そんな集団で国を守れるのか?
「アリーに下品な話をするなよ」
また、二人が俺の相棒をまじまじと見る。
「アリーちゃん小柄だからなぁ」
「気遣ってヤれよ」
「うっせぇ!この変態親子がー!!!」
がぁーぁーぁー……
俺の叫びは、広い風呂場の中でエコーがかかった後、虚しく消えた。
こんなに疲れる風呂は初めてだった。

 部屋に帰りアリーの顔を見て癒されたかったのに、いい歳をした男三人がバスローブのまま近くの部屋に連れられて行く。
ベタベタした気持ち悪い整髪料を髪に塗られ弄られる。
「来年は来ない。二度と来ない」
「はんっ、今後は逃げられると思うなよ」
兄に嫌な笑顔で言われる。
「慣れたら平気になるさ。なにより母さんが素敵よって言ってくれるからねぇ」
父は、ぼんやり母さんのぼんやり発言を鵜呑みにし過ぎだ。
七面鳥に蝶ネクタイを付けても素敵って言うぞ。

でもアリーが褒めてくれるなら、一年の内一日ぐらいは我慢できるかもと心が揺らいだ。
「ベルもいつもより燃えるんだよね」
「五人目が出来ちゃうかもしれないなぁ。ムフっ」
「まだ種あるのかよ」
変態親子の会話に殺意が湧いた。
俺だってアリーと熱い夜を過ごしたい!!
でも、今日も疲れるだろうし、付き合いたてでヤっちまったら体目当てと思われるだろう。
もんもんとしながらも着々と服を着せられる。
使用人達が、俺達の会話をマーガレットに報告するに違いない。
お前ら二人で存分に下品な会話をして魔女に呪われるがいいさ。
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