【完】白雪姫は魔女の手のひらの上で踊る

三月ねね

文字の大きさ
34 / 47

34

しおりを挟む
 メイド二人がかりでコルセットを絞められている時、マーガレットが部屋に来て、所長夫妻も招待しているし親しい間柄の人ばかりだから緊張する必要はないと教えてくれた。
食事中に落としたナイフがランドルフの足に刺さろうが、ダンス中にランドルフを蹴り上げようが堂々としていろと励ましてくれた……のだと思う。まさか、緊張したふりをしてナイフを落とせって指示じゃないよね?

 ランドルフにエスコートしてもらいながら晩餐会場へ入ると、一斉に注目され足がすくむ。
親しい間柄ってどこまでよ。多くても二十人位だと思ってたのに、百人近くいるんじゃないだろうか。
ランドルフの腕に手を掛けていなかったら回れ右して逃げ出していただろう。
足を動かすことだけに集中して座席までたどり着くと、ランドルフの家族と所長夫妻に囲まれていてマーガレットの配慮に感謝した。

 フェルナンのマーガレットを褒めたたえる挨拶のあと晩餐会が始まる。

マーガレットが部屋に来た時に、侯爵家の二人の息子達の内、普段は寄宿舎で過ごしている十六歳の二男アルバンが出席すると言っていた。
エドモンド侯爵夫妻の性格を考えると、アルバンはどんな人物だろうと興味が湧いてしまい、マーガレットに尋ねてみると、花の好きな鳥のような子だと言う。
ちょっとマーガレットの性格が分かって来たので、ランドルフの時と同じパターンだと察知した。
白雪姫の話を何度も読んで欲しいとせがんだ子供と、今のランドルフが結びつかないように、小さくて愛くるしい姿を想像していると、実際のアルバンを見て驚くことになりそう。引っかかりませんよ!

 好奇心に負けて上座を見ると、フェルナンの隣にどことなくマーガレットに似た若い男性が座っている。きっと彼がアルバンだ。
マーガレット譲りの整った顔だが、はっきりとした二重のマーガレットと違い、一重瞼の目が鋭く見える。鳥は鳥でも猛禽類だった。
マーガレットの独特の表現方法を鵜呑みにしてはいけないとつくづく実感した。
「誰を見ている?あぁ、マーガレットの二男アルバンだ」
「マーガレット様からアルバン様は花の好きな鳥のような子だって聞いていたのですが……」
少し悩んで
「見た目は鷹か鷲だろ?ありがたいことに性格は両親に似ていない。マーガレット二号とか勘弁だからな。そういえば、あいつが子供のころ暇さえあれば庭に咲く花を見ていたな」
見た目と違って、自然を愛する穏やかなタイプなのかもしれない。
「甘いものが好きだったが、マーガレットに菓子を食べ過ぎるなと言われてたんだよ。それで、蜂蜜は花から取れるだろ?だから花をそのまま食っても甘いんじゃないかと見ていたんだと」
あんまり触れちゃいけない話だったわ。きっと個性的な家族にふさわしい、突出した個性をお持ちの子なのだろう。

「ごめんねぇ、アリーちゃん。マリアンにどうしても協力するように言われちゃってさぁ」
久しぶりに聞く所長の間延びしたしゃべり方に安らぎを感じるとは自分でも驚きですよ。
あぁ日常が恋しい。斡旋所で書類と格闘して、所長の渋い紅茶が飲みたい。
今日と明日さえ乗り切れば、あの狭い我が家に帰れるんだわ。
美味しい食事は恋しくなるだろうけど、自宅なら、繊細過ぎて割ってしまいそうな食器も無いし、コルセットもつけなくていい。
「ふふっ。でもうまく行ったでしょ?ランドルフだけに任せていたら、アリーがおばあちゃんになっちゃうわ」
マリアンにお礼を言うべきか恨み節を言うべきか迷っていると
「うまいぞ。これ好きだろ?」
ランドルフがフォークに刺したサーモンを差し出してきた。
えーっと、あーんで食べろって事よね。マナー違反じゃないのかな。
とりあえず自分で食べると無難な断り方をすると、あっちを見てみろと言うように前方を顎でしゃくった。
つられて前を見ると、伯爵家の二組の夫達がせっせと妻の口に食べ物を運んでいる。周りも慣れているのか注目していない。
「我が家では普通の事だ。口を開けろ」
サーモンを放り込まれた。スモークの風味が広がり、とろりと溶けた。うーー美味しい!
「俺にも食わせろ」
と言われ食べさせたものの、これは意味があるのかと疑問に思う。
だって、自分の皿の分を自分で食べる方がスムーズじゃない?変なの。
「あらら、ラブラブねぇ。あのランドルフが随分と変わるものね。あなた、私にもサーモン下さいな」
所長達もイチャイチャしながら食べさせ合っているから、付き合い始めるとこういう行為も必要なんだなと学んだ。


 ランドルフはいつもと違う髪型が気になるのか、しきりに首の後ろを触っている。
もしかして髪の毛が肌を擦っているのかもしれないと思い、見てあげると声を掛けようとした時、強い視線を感じた気がした。
向かい側の下手の席からスッと視線を流したが目の合う人物はいない。

ランドルフはまだ首を触っている。
「首がどうかしました?見ましょうか?」
「違う、ゾワゾワするんだ。さっきから落ち着かない。今日はマーガレットの知り合いばかりだが気を抜くな。俺のそばに居ろ」
斡旋所に来るおじ様達が何度も救われたと言っていた、ランドルフの勘を軽視するつもりはない。
「わかった。ランドルフから離れない」
きっぱり言い切ると、顔を赤くし片手で目を覆ってしまった。
だが、また視線を感じてそちらの方に気を取られた――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。

りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~ 行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...