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プロローグ
悪役令嬢の断罪
しおりを挟む卒業を祝うパーティーでそれは起きた。
「フローレンス、君との婚約は破棄する!」
高々と宣言したのは王太子殿下。
鮮やかな金髪と王族らしい華やかで美しい顔立ちの彼は十メートルほど先にいる美しい公爵令嬢を睨みつけた。
「どうしてそのようなことを? 私は婚約破棄されるようなことをした覚えはないのですが……」
「白々しい事を。君がリゼットに嫌がらせをしていたという証拠は掴んでいるんだ」
王太子殿下は冷たい声で答えた。
そうして私の肩を抱き寄せる。
その様子を糾弾されている公爵令嬢は静かに見ていた。
怒ることも悲しむこともせず、いつもと変わらない彼女の微笑みは、むしろ恐ろしかった。
この後きっと酷く叱られるだろう。
王太子殿下を止めたかったけれど、貴族の末席にかろうじて座っているだけの男爵令嬢が言葉を遮ることなんて許されない。
「公衆の面前でリゼットを侮辱し、さらには彼女のリボンタイやハンカチを取り上げたそうだな」
「彼女に本の山を押し付けて歩かせたり、転んだ彼女を見て『無様』だと嘲笑ったという報告も受けている」
私の後ろに控えていた二人が口々に彼女の罪状を口にする。
一人は近衛騎士団長の長男、もう一人は宰相の長男。
王太子殿下より身分は下だけど、やっぱり私が何かを言えるような人達ではない。
周囲の卒業生達、そして教師達全員が中央に立っているフローレンスを冷ややかな目で見ている。
今自分が置かれている状況が恐ろしい。
権力者達に囲まれ衆目を集めている。こんなことになるなんて……。
寒くなんてないのに身体の震えが止まらない。
「リゼット、心配しなくていい。この先何があっても僕が守るから」
王太子殿下は私を心配してくれているのか、優しく話しかけてくれた。
言わなければ。
そう思うけれど恐怖と不安で声が出ない。
彼の意に逆らう行為は、果たして男爵家にどのような災いをもたらすのだろうか。
王族に、高位貴族に反したという事実はこの国の社交界において致命的だ。
いや、この場に立っている時点で私の社交の場での立ち位置は最悪なものとなってしまったと言っていいだろう。
私はこの先貴族令嬢として普通に生きていくことはできない。
王太子殿下は小さく大丈夫、と微笑んだ。
そうして再びフローレンスに目を向けた。
「何の罪も犯していない学友に対してこのような非道な行いは許されるべきではない。リゼットに謝罪と償いをするべきだ」
「…………」
フローレンスは扇子で口元を覆い、僅かに目を細めた。
それは彼女が考え事をするときによくする仕草だ。
夢であるならば早く覚めてほしい。
そう強く願ったけれどいつまで経っても目覚めることはなく現実は私を置いて前に進んでいく。
「公爵令嬢という身分を利用し何も言えないリゼットを貶めるようなものは未来の王妃に相応しくない。よって君との婚約は破棄する。何か弁明があるのならば話すといい」
「…………弁明というほどのものではありませんが、誤解されているようですので真実をお話いたします」
フローレンスはゆっくりと扇子を閉じ、誰もが見惚れるような綺麗な笑顔で話をはじめた。
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