転生王女は初恋の平民魔術師と結婚したい!

Y子

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一章

9.妨害6

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「あ……王女殿下…………」

 驚いたように見開くその目は記憶にある濃い蜂蜜色だ。

「アシル! こんなところに居たのね。私、今日は貴方に会いに来たの」

 思いがけない再会に驚きよりも喜びが勝った。
 ずっと会いたかった人が目の前にいる。

「えっと、その……」

 しかしアシルは動揺したように視線をさ迷わせた。
 どうしてそんな顔するのだろう。

 もしかしたら王女である私がこんなはしゃいでいることにびっくりしているのかもしれない。
 落ち着かないと。
 いくら嬉しくても王女なんだから威厳を保たなければ。
 小さく咳払いして仕切り直すことにした。
 冷静に冷静に。

「アルベリク卿が貴方は八階にいると言っていたのに五階にいたのね。ここで何をしていたの?」
「先輩に……宮廷魔術師として必要なことを……教えて、頂いていました」

 アシルは視線を下に落としてたどたどしく答えた。
 それはまるで何かを隠しているようで、とてつもない不安に襲われる。


 アルベリク卿も他の魔術師達もアシルは適性検査を受けていると言っていた。
 けれど本人の答えは違う。
 どうしてそんな違いが生まれるのか。

「アシル!」

 背後からアルベリク卿の咎めるような声が響いた。
 その瞬間、アシルの肩が大きく揺れた。

「どうしてお前がこんな場所にいるのだ? まだやらなければならないことが残っているはずだろう」
「はい、申し訳ありません……」

 アシルは深々と頭を下げた。
 その強ばった表情に不安は不信へと変わる。

 先程から聞いていた適性検査というのは間違いなく嘘だ。

 魔術師達は私がアシルに会うことを妨害するためにそんな嘘をついていた。
 王女である私に嘘をつくことは不敬罪に値する。
 何故そんなことをするのか。

 アシルが平民だから?
 平民のくせに神の祝福を受けているから?

 神の祝福を受けているアシルは国の宝だ。
 しかし平民であるアシルは後ろ盾がない。
 後ろ盾になるべきアルベリク卿が率先してアシルを虐げていたとすれば、力の弱い他の宮廷魔術師達は従わざるを得ないだろう。


 目の前にいるアルベリク卿を詰問したかったけど、宮廷魔術師全員が関わっている可能性がある以上そうもいかない。
 事を荒立ててしまっては国防に影響が出てしまう。
 今は一人でも多くの魔術師が必要な時期なのだ。


 アシル一人のために国を危険に晒すことは出来ない。

 それに有力貴族である彼を罰するには確固たる証拠が必要だ。
 不用意に動けばますますアシルの立場が悪くなる。

「アシル、今日は忙しいと聞いたわ。だから明日また同じ時間にここへ来るわね。そのときに貴方のことを教えてほしいの」
「シャルロット様、先程ご説明したようにアシルには国のためにやらなければならないことがございます」

 アルベリク卿の言葉に苛立ちが募る。

「王女をもてなす時間すらとれないのかしら」
「ええ。例のコボルトの件も含め、魔物達に何らかの異常事態が起こっていると考えられます。今は時間が惜しいのです。……ご存知の通り、アシルは特別な子です。彼の力は国の未来を変えるでしょう。その力を今はこの異変に使うべきなのです」
「けれど今は適性検査をしているのでしょう? 時間が惜しいと言う割には悠長なことをしているわね」
「アシルの能力を理解しなければ正しく活用することはできません。確実に結果を出すためには遠回りすることも必要なのです」

 彼の言葉は間違ってはいないのだろう。
 けれどそれだけではないことは明らかだ。

 なのに私はアルベリク卿の言葉を覆すことができない。

「…………国防に関わることに無理は言えないわね」
「ご理解頂きありがとうございます」
「でも明日も来るわ。魔術師のことを知るためには今日だけじゃ足りないもの。もちろんアシルの邪魔はしない。いいでしょう?」

 私の言葉にアルベリク卿は表情を変えることなく頷いた。
 それを確認して再びアシルに向き直る。
 彼は少し気まずそうにしていた。

「時間をとらせてしまったわね。落ち着いたらゆっくり話しましょう。アシルに見せたいものがあるの」
「はい」

 アシルは困惑したような表情で小さく頷いた。
 







 塔から出るとすでに陽は傾き空が赤く染まっていた。
 ゆっくりと息を吐く。

 魔術師達と距離を置いていたツケがこんなところで回ってくるとは思わなかった。
 けれど大丈夫。私は王女だから。

 このくらいのトラブル、なんて事ない。

「シャルロット様、どうしてあの平民魔術師に拘るのです? 放っておけばいいではないですか」
「アシルは祝福を授かった魔術師よ。アルベリク卿も言っていたけれど彼の力は国の未来を左右するの」
「あいつ一人にそこまでの力があるとは思えません。現に魔術師達もそう思っているからシャルロット様から隠そうとしていたのでしょう」
「やっぱり私がアシルに会うのを嫌がっていたわよね。……魔術師達はアシルのことを虐げてると思ったんだけど、イヴォンはどう思う?」

 彼は私の問いかけに少しだけ思案し、小さく頷いてくれた。

「確かにシャルロット様が来た時のやつらの様子は明らかに変でしたね。隠し事をしているようでした。平民が神の祝福を授かって嫉妬しているのでしょう。けれどシャルロット様の言うようにあいつは神の祝福を受けた唯一の魔術師です。心配せずとも危険なことはしないでしょう」

 だとしても頼れる人がいない上に居場所がないなんてあまりにも辛すぎる。
 私は王女でアシルを助けることができる。
 だからこそ見て見ぬふりなんてしてはいけない。

「今はアシルの力が必要なの。異変を調査するためにも解決するためにも、ね。彼が何の憂いもなく働ける環境を作ることは私の責務でもあるのよ」

 国のために。民のために。
 そしてこの国の未来のために。

 だから何としてでもアシルを助けないと。
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