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二章
22.相談
しおりを挟む持ってきた宝石を半ば無理やりアシルに押し付けて、魔術師団長も交えて今後の方針を話し合うことになった。
まずはノルウィークに援軍を要請しなければならない。
問題はその際の情報の出し方だ。
上級魔物の件はあくまでも可能性。実際に国境付近にいることは確認できていない。
本来上級魔物は遥か下層の魔界に近い場所に生息し、地表に出てくることは稀だ。
そして出現するとしても特定の場所、つまり魔界に通ずる亀裂がある場所が多い。
ナフィタリアではレカトの谷がそれに該当する。
谷から国境まではかなり距離があり、これまでの常識からは上級魔物がそこに居るなんてことは考えられない。
「まずは調査という名目でノルウィーク側の魔術師を呼びましょう」
「そうするとこちら側の準備が整う前に魔物が動き出すかもしれないわ」
「しかし下手に上級魔物の存在をチラつかせれば疑われてしまいます。そうなった場合、ナフィタリアの立場が悪くなる上にノルウィークは最低限の援軍しか寄越さないでしょう」
「そうね……」
上級魔物を討伐するのなら最低でも祝福を持っている騎士や魔術師が十人必要だという。
私とアシルが参加するとしても八人。
普通に動けばそれだけの人数を遣わせてもらうことは不可能だ。
「……私の名前で強引に援軍の規模を指定するわ。祝福を持った魔術師を四人、騎士を四人寄越すよう要請してみるの」
「それは……。ノルウィークの皇帝の機嫌を損ねませんか」
「そうでしょうね。でも無視は出来ないはず。ナフィタリアが崩れればレカトの谷を管理できなくなるもの。ある程度尊重してくれると思うわ」
ノルウィークに最も近い亀裂がレカトの谷だ。
ナフィタリアを管理することはノルウィークにとっても重要なのだ。
「優先すべきことは可能な限り早く祝福を持った騎士と魔術師を十人揃えることよ。それ以降は援軍の魔術師が判断するでしょう。……大丈夫。上手くいくわ」
今回の件がどう転んでも私の王女としての立場は悪くなる。剣の祝福を持っているから追い出されたりはしないはずだけど……。
でも国王陛下は私の存在を疎んでいるようだからあまり期待しない方がいいだろう。
持ってきていた便箋とペンを取り出してノルウィークへの手紙を書き始める。
宛先は帝国元帥へ。
私はノルウィークの皇族へ直接的手紙を送ることができない。格下の弱小国の王女だから。
そして帝国元帥相手にもかなり気を使う必要がある。
名目上は他国の皇族や王族と対等の立場ではあるけれど、実際の地位はずっと低い。
そんな私が帝国元帥に無理を強いるのだ。
不興を買うのは避けられない。
それでも手遅れになってナフィタリアが滅ぶよりはずっとマシだ。
「それに今回の件で私が手柄を立てられたら、皇帝陛下も許してくださるかもしれない」
その可能性は限りなく低い。
経験のない小娘が上げられる功績などたかが知れてる。
アルベリク卿と魔術師団長、そしてイヴォンは私と同じことを考えているのか表情が暗い。
アシルは……わかっていないようだ。
魔術以外のことは駄目だっていってたから仕方ないか。これは余裕があるうちにしっかり教育した方がよさそうだ。
「大丈夫。まだ駄目だって決まったわけじゃないから。……魔術師団長とアルベリク卿は引き続き調査をお願い。アシルとイヴォンは可能な限り訓練に付き合って」
焼け石に水かもしれないけど何もやらないよりマシだろう。
それに可能性が低いからと落ち込むのは性にあわない。
上級魔物と言ってもアシルと私が組めば余裕で倒せちゃうかもしれないし。もしかしたら強気の要請もノルウィークの皇帝は何も思わないかもしれないし。
可能性は低い。けれどゼロではない。
よし、そうと決まったらすぐに動こう。
のんびりしている時間が勿体ない。
私は立ち上がってアシルの方を見た。
あ、ちょっと戸惑ってる。
「ということで今からはじめるわ。アシル、やってみたいことがあるから付き合いなさい」
「は、はい。えっと……何をするのですか?」
「もちろん魔術の訓練よ」
「魔術?! シャルロット様、先程仰った訓練は剣の訓練ではないのですか?」
「そっちもやるわよ。でも伸び代は少ないと思うの」
祝福を授かって十五年。
私はどんな分野でも優秀な成績をおさめた。
そして全てにおいて初日は講師が無言になって落ち込むほどに技術を身につけるのが早かった。
つまり私は大器晩成タイプではなく、栴檀の双葉タイプなのだ。
「私、なんでもすぐに上達するタイプなの。だからきっと魔術もすぐに使えるようになると思うの」
そして前世の記憶を持つ私だけが知っている職業がある。
それは魔法戦士。または魔法剣士。
剣士と魔法使いのジョブを極めることでなれる上位職だ。
もちろんこれはゲームの職業で現実にはそんな職業はない。
けれど剣があって魔法があるのだから魔法戦士になれるはず。
魔法戦士は万能で優秀な職業だった。
きっと今の状況も打開できるはず。
「ナフィタリアだけでなくどの国にも剣と魔術を極めて両立してる人はいないの。だから私が魔術も極めて初の魔術師兼騎士、つまり魔術騎士になるわ!」
うーん、ちょっと語呂が悪い。
せめて魔法騎士にしたいんだけど、こっちで魔法といえば神や精霊などの上位存在が使うもの。
人間が使うものを魔法とは称せない。
私の宣言を聞いた四人はポカーンとしている。
あれ、駄目だったかな。
祝福を持ってる私が魔術を使えるようになったら、アシルほどではなくても戦力になるかなと思ったんだけど。
「魔術騎士……。うん、いいと思う。シャルロット様ならなれるよ」
「おい、なんでお前はそんなに馴れ馴れしいんだよ」
「あ、ごめ……じゃなくて申し訳ありません」
「イヴォン、そんなことで怒らないで。今から私はアシルに魔術を習うのよ。つまりアシルは私の先生になるんだから多少言葉が砕けててもいいじゃない」
「シャルロット様、こいつに優しくしてはいけません。調子に乗るととことん駄目になるのですから」
イヴォンの言葉はキツいけれど冷たくはない。
共に調査している間に仲良くなったのかもしれない。
イヴォンはアシルのことを嫌っていると思っていたからホッとした。
こんな和やかな時間がずっと続けばいいのに。
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