転生王女は初恋の平民魔術師と結婚したい!

Y子

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二章

30.魔術5

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 休憩を終え訓練に戻る。
 イヴォンから剣を受け取り気合いを入れ直した。

 さあ、もう一度最初から考え直そう。



 どうやったら魔術を上手く活用できるだろうか。
 魔術を使うときはゲームのコマンドを利用しているのだから、こちらの世界の魔術として考えるのではなく、日本のゲームから連想していく方がいいのかもしれない。

 魔術だからゲームの魔法使いのことばかりを考えていたけれど、そもそも私は魔術師ではなく魔法戦士を目指しているのだ。
 杏奈の記憶を掘り返す。
 何か使えそうなアイデアはないだろうか。
 
 
 ………………。

 そういえば魔法戦士には剣に魔法をまとわせて相手を攻撃する魔法剣という技があった。
 もしかしたらそれ、こっちでもできるんじゃない?


 剣を立て、いつもの様にコマンドを選ぶ。
 ふわっと熱気を帯びた空気が生まれ、持っていた剣は炎に包まれた。

「あ、できちゃった」
「シャルロット様、それは……」

 イヴォンもアシルも驚いているようだ。
 なんとなくこれはいけるような気がした。

 あとはこれで戦えるのかどうかを確認しなければならない。剣は振り回すものだ。蝋燭の火のように風で消えるようであれば使い物にならない。

 二人に当たらないよう後ろを向いて試しに剣を振ってみた。

 すると炎はその剣の軌跡を描いて前方へ飛んでいった。
 これはゲームでよくある斬撃を飛ばす攻撃!!
 一瞬でテンションが跳ね上がる。すごい、ゲームの世界に入ったみたいだ。


 しかしその喜びは一瞬で絶望へ変わる。
 私が放った炎の斬撃は消えることなくそのまま直進し続け、先程まで私たちがいた大きな木へぶつかった。
 木は一瞬で炎に包まれ、轟々と音を立て燃えていく。

「え…………なんで?!」

 想定外の出来事に混乱する。
 燃えてる! 私のお気に入りの場所が燃えてる!!

 助けを求めようとアシルの方へ視線を向けると、アシルはキラキラした目で私を見ていた。

「剣に魔力をまとわせて魔術を使うなんて! 剣は……なるほど、魔力で覆っていたから損傷はありませんね。これならどんな魔術でも纏わせることができる。剣を振ることで遠距離の攻撃も可能だし訓練すれば出力を調整することも……」

 アシルの目には燃えている木は映ってないようだ。

「アシル!! そんな事いいから助けて!」

 涙目になりながら木を指さして訴えるとアシルはハッとしてすぐに魔術で水をかけて炎を消してくれた。

 白い煙が立ち上り焦げた臭いが辺りに広がる。

 火は確かに消えた。
 けれど木は真っ黒だし周囲に生えていた芝生も灰になってしまった。

「わ、私のお気に入りの場所が……」

 剣を習うようになってあの場所で沢山の時間を過ごした。
 イヴォンやモーリスと初めて話したのもあの場所だ。
 今は騎士団を去った人たちとの思い出もあそこにあった。

 それだけじゃない。騎士団のみんなの思い出だってあるだろう。
 あれだけ大きな木なのだ。樹齢何十年、いや、百年を超えててもおかしくない。
 みんなの思い出が、思い入れがあったはずだ。

 それを私が、王女である私が壊してしまった。



「シャルロット様、お気を確かに……」
「だ、大丈夫よ……」

 イヴォンに慰められ、無理やり言葉を返す。
 木が燃えただけだ。アシルにもイヴォンにも他の騎士や魔術師にも怪我は無い。
 それに私の想定した技が使えたのだ。
 しかもこれまで出来なかった遠くに魔術を飛ばすこともできた。
 実戦で本当に使えるのか、どのように使っていくべきなのか考えなければならない。

 落ち込んでる場合じゃない。
 
 

 けれど。
 どうして確認してやらなかったのだろう。
 アシルやイヴォンに相談してから行動すればこんな事にならなかっただろう。

「これはまた……随分と派手にやりましたね」

 背後から聞こえた呆れたようなモーリスの声に心臓が跳ねる。
 振り返ると苦笑しているモーリスが私の方へ歩いてきていた。

 離れて訓練していた騎士や魔術師もみなこちらを見ている。
 泣いてしまいそうだ。今すぐ逃げ出してしまいたい。
 
「モーリス……その…………木を、燃やしてしまって……」
「お怪我はありませんでしたか?」
「ええ、でも……」

 謝罪の言葉を出すことができない。
 ここには騎士や魔術師が沢山いる。
 臣下に頭を下げてはならないのだと何度も彼から教えてもらった。
 そして私は王女としてその教えを大切にしてきた。

 けれど臣下の前で間違ったことをしてしまったときにどうすればいいのかを教えてもらったことはない。

「あそこはシャルロット様が気に入っていらした場所でしたね。残念ですが、一度壊れてしまったものは元には戻せません」
「わかっているわ……」
「落ち着いたらみなで新しい木を植えましょう。そうですね……シャルロット様の髪と同じ色の花が咲くペルシカの木はいかがでしょう?」
「それは素敵ね。全てが片付いたらそうしましょう」

 そう答えるしかない。
 でも新しい木を植えたとしてもそれはもう別の場所だ。
 
「さあまだシャルロット様にはやる事が残っているのでしょう。後始末は私がやっておきます。訓練にお戻りください」

 モーリスは優しく背中を押してくれた。


 わかっている。
 どれだけ後悔したところで意味が無いことなんて。
 考えなければならないのはこれからのこと。この償いをしなければならない。

 そしてその償いをするためにまずはナフィタリアを守るのだ。
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