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三章
42.試合2
しおりを挟むどうやって魔術を活用するべきか。
身体を強化して切りかかるだけでは先程の二の舞になる。
相手も魔術を使えるし、何より剣術も魔術も向こうの方が上手なのだ。
普通にやれば何もできないうちに負けてしまうだろう。
私がやれる事は身体の強化の魔術。これは瞬時にかけられ、何度も重ねがけすることができる。
そしてゲームの魔法に似た魔術。
こちらは発動までに時間がかかるし威力もアシルの魔術よりずっと低かった。今回は使えないだろう。
そしてもうひとつ。
ゆっくりと息を吐き、剣を構えてコマンドを選択する。
一昨日と同じように剣は炎に包まれた。
「それは……なかなか変わった使い方だね」
皇子は少し驚いたように……いや、あれは驚いたというより興奮しているのかもしれない。終わったらきっともう一度見せてほしいとせがまれるのだろう。
何にしても魔術を剣に纏わせる使い方は皇子も知らなかったらしい。
そのまま剣を振り斬撃を飛ばす。
皇子はそれを水の魔術で相殺した。蒸発する大きな音と水蒸気で視界が悪くなる。
視界が開ける前に二撃目を放ち右斜め方向に走った。今なら不意をつけるかもしれない。
ニ撃目の蒸発音が聞こえると同時に皇子に向かって斬りかかる。
しかしそれは簡単に止められてしまった。
鍔迫り合いでは私の分が悪い。
後方に飛び退いて体勢を立て直す。
もっと速さと力が必要だ。
身体に強化の魔術を重ね掛けして再度皇子に斬りかかる。
皇子に勝つためには彼の予想外の場所から攻撃するか、彼の反応速度を上回る攻撃をするかのどちらかしかない。
切り結ぶ合間に強化の魔術を使い、速さと力を上げていく。
しかしまだ足りない。
間合いをとって剣を三回振った。皇子は先程と同じように水の魔術で斬撃を相殺する。
炎と水がぶつかる瞬間、私は地面を蹴って上空へ飛び上がった。
そして上空で二回剣を振り斬撃を飛ばした後に落下の勢いを利用して上から斬りかかる。
皇子は斬撃を魔術で迎え撃ちながら私の攻撃を避けた。しかしこの一連の攻撃が予想外だったのか彼は体勢を大きく崩した。
追い打ちをかけるように斬撃を飛ばし、さらに斬りかかる。
斬撃をギリギリで躱した皇子は私の剣を捌くことはできなかった。
私の剣の切っ先が皇子の喉元で静止する。
「っ…………、参った。これは僕の負けだね」
剣を納め、安堵の息をつく。
今回の勝ちは強引で、剣や魔術で上回れたわけではないけれど、それでも勝ちは勝ちだ。
嬉しくてアシルの方を見ると、彼は笑顔で手を振ってくれた。
小走りで駆け寄ってきてくれた彼は私の手を握った。
いきなりそんなことされたら嬉しくて顔が保てなくなりそう。
「おめでとうございます! まさか本当に勝てるなんて……。さすがですね!」
「え、まさかって……もしかして負けると思ってたの? あんなに強気だったのに」
「あ……そういうわけではないんだけど、シャルロット様ならきっと何かしてくれるとは思ってた……かな」
握っていた手を離してばつが悪そうに視線を逸らしたアシルに苦笑する。
彼にとって私はまだ面白い魔術を使うだけの王女なのだろう。
仕方ない。
「貴方の期待に応えられたかしら?」
「もちろんです! あ、これは失礼になるのかな。えっと……なんと言えばいいのかわからないけれど、俺が今まで見てきた全ての中で最も凄かった。最高だったよ」
思いのほかいい評価を貰えた。
今はこれで充分だと思おう。
「アルフレッド様、シャルロット様は弱くないでしょう?」
アシルは誇らしげに皇子に問いかけた。
「そうだね。先程の言葉は訂正するよ。……けれど僕の決定は変わらない。シャーリィを他の祝福持ちと一緒に討伐に参加させるわけにはいかない」
「どうして……?」
「先程の動きは素晴らしかった。けれどあれはあまりにも常識外の動きで……他人が君と連携をとるのは難しいだろう。何かあったときには一瞬の戸惑いが命取りになる」
確かにそうだ。
普通は頭上から攻撃することなんてやらない。
そんな動き方に合わせられる人なんていないだろうし斬撃を飛ばす攻撃との連携なんて一朝一夕で出来るとは思えない。
残念だけれどでも仕方ない。
皇子に一矢報いることはできたし潔く諦めよう。
私のわがままで誰かが傷付くようなことだけは起こってはならないから。
「でも君がどうしてもと言うのなら、僕から離れないことを条件に討伐について来てもいいよ」
「?」
「僕ならきっと君の動きに合わせられるしサポートもできる。それに僕たちは違う国にいながら剣と魔術を使うという同じ結論に至ったんだ。祝福のタイプも同じだ。相性がいいと思わないかい?」
「そう言われると……確かにそうなのかも……?」
「間違いないよ。君には僕しかいない」
皇子は私の手を取った。
「だからもう少し君のことを教えてほしいんだ。動き方や考え方がわかればお互い動きやすくなるだろう。それに、君がどんな魔術を使えるのかを知れば補うべき部分がわかる」
皇子は真剣な表情で私を見つめてきた。
あ、なんとなくこの後の流れがわかってしまった。
「だからさっきの魔術をもう一度見せてもらえるかな」
「本当に魔術が好きなのね」
魔術師の頭の中は魔術のことでいっぱいなんだろうな。
それがなんだか微笑ましい。
皇子もアシルも私より年上なのに、子どものような顔で魔術について語る。
「だったら私の訓練にも付き合ってくれないかしら。私の変わった魔術はナフィタリアの機密……になるかもしれないわ。ノルウィークの第四皇子から教わった剣術と等価になると思うのだけど……」
「……! ああ、もちろん構わないさ。いくらでも付き合うし君が望むのなら今回の件が終わった後も定期的に会って訓練してもいい」
皇子は喜んでくれているけれど、さすがにそこまで引っ張れる程の中身がない。
とりあえず先の話は後回しにさせてもらって、王宮を発つまでの短い期間に可能な限り学ばせてもらうことになった。
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